暇人の感想日記

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熱狂の時代を生きた人々【止められるか、俺たちを】感想

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78点

 

 

 『止められるか、俺たちを』。これを読むと全盛期の若松プロのエネルギーに溢れる姿を描いた伝記映画かと思われます。しかし、実際に観てみると、それほどの勢いはなく、どちらかと言えば、白石監督から見た憧れ込みの「若松プロ」を描いた作品だったと思います。

 

 1969年から1971年。世の中がうねりをあげていた激動の時代。かえって、日本映画は黄金期を過ぎ、斜陽の時代を迎えていました。そのようなときに出てきたのがピンク映画であり、若松プロはそのようなピンク映画を制作していた代表的な会社です。ただ、当時のピンク映画とは、一定のエロさえあればどのような内容でもやっていいという映画の無法地帯でした。故に、そこで力をつけ、瀬々敬久周防正行など、今では日本を代表する存在になった人もいます。

 

 若松プロも例外ではなく、梁山泊よろしく日本映画界に優秀な人材を輩出しました。本作はそのような若松プロが爆走していた時代を描きます。

 

 本作の特異な点は、吉積めぐみという実在の人物に焦点を当て、「彼女から見た若松プロ」の話にしている点です。そしてその視点は、監督である白石和彌氏と重なります。故に、本作で映される若松プロそのものにかなり憧れが入っていると思います。そしてこの構造は映画の内容にマッチしています。

 

 本作は「若松プロの伝記映画」の側面もありますが、それ以上に吉積めぐみさんの青春映画でもあるのです。彼女が映画の世界に憧れて入り、そこで才能の壁にぶつかって、それでも諦められなくてもがくさまを描きます。そして上述のように、吉積めぐみさんは白石監督であるので、彼が当時抱えていたであろう葛藤も伝わってきます。映画秘宝のインタビューでも昔の葛藤について語ってらっしゃいました。

 

 そして、もう1つ憧れが入っている部分があります。それはあの時代の勢いです。劇中で若松孝二は「ぶっ壊してやりますよ」と言っていました。映画の中に制作者の強い主張があり、映画が時代を変えることができたかもしれないあの時代、そしてその熱量への強い憧れを感じます。

 

 別に「あの時代に戻りたい」と監督は思っているわけではないと思います。ただ、私はこの映画から、白石監督の「この熱を受け継がなければならない」という想いを感じました。若松孝二の弟子である彼の日本映画への責任感ですね。

 

 「若松プロの無軌道な姿を描く伝記映画」を描いた作品だとすると微妙かもしれませんが、「監督の憧れの具現化」として観ると面白い作品でした。