暇人の感想日記

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勇気さえあれば、誰だってヒーローになれる【スパイダーマン:スパイダーバース】感想

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98点

 

 

 『くもりときどきミートボール』『LEGO ムービー』と言ったアニメーション映画、実写映画『21ジャンプストリート』シリーズなど、練りに練られた脚本で良質な作品を生み出してきたフィル・ロードクリストファー・ミラー。彼らが制作した『スパイダーマン』作品です。私は『LEGO ムービー』を観てこの2人のファンになってしまったので、本作については(『ヴェノム』のせいでちょっと期待値が下がったりしたけど)制作発表がされたときから楽しみにしていました。

 

 

 既に世界各国のアニメーション映画賞を総なめにしている作品で、期待値も相当上がっていましたが、鑑賞してみると、その上がりきった期待値を大きく超える大傑作だと感じました。日本語吹き替えとIMAX3D字幕で2回鑑賞しました。正確に6回泣きましたよ。

 

 本作を観て、まず圧倒されるのがそのアニメーションです。3DCGと2Dを組み合わせた立体的な構図で、「アメコミがそのまま動いている」と表現できるビジュアルをとっていて、手描き時代のディズニー作品のようにヌルヌル動くものではなく、1秒ごとに使う動画の枚数を意図的に落としてカクカクした動きにしています。「紙に生命を与えるのがアニメーションだ」とはよく言われることですが、本作に関しては、意図的に「作り物」感を出しています。さらに、本作は1シーンがアメコミのようにバッチリ決まっていて、そこに1シーン毎に別のコマが挿入されるときもありますし、また、漫画的な記号も多用しています。このように、本作は「アメコミである」ことを全く隠そうとしていない作りになっているのです。この画面のおかげで、観ているだけで眼福でした。

 

 

 ストーリーそのものはマイルス・モラレスという平凡な高校生がスパイダーマンという「ヒーロー」になるまでの話です。そしてこのヒーローとしての覚醒が、マイルスという一般的な少年の成長物語にも繋がっていきます。マイルスは自分を信じられず、自信を持てない高校生です。そんな彼が紆余曲折の末、自分を信じ、覚悟を決め、勇気を持ってする中盤の高所からのウェブ・スウィング。『スパイダーマン』では定番ですが、序盤のダメダメなそれと対比されていて、マイルスの覚悟と成長が伝わってくる最高のシーンでした。

 

 このマイルスの成長も見所ですが、より最高なキャラはピーター・B・パーカー、ダメな方のスパイダーマンです。彼は本作におけるもう1人の主人公的存在で、人生がどん底で、自暴自棄になり、ヒーローとしての心を失っています。そんな彼とマイルスのやり取りは観ていて笑えるし、信頼関係を築いていく下りは観ていてとても面白いです。そして、マイルスとの交流でヒーローとしての心を取り戻し、マイルスの覚醒のきっかけとなった台詞が良いんですね。日本語吹き替え版になりますが、「信じて翔べ、後必要なのは、勇気だけだ」ってやつです。これを聞いて私が真っ先に思い出したのは「サイボーグ009」のミュートス・サイボーグ篇の島村ジョー/009の台詞です。彼が悪と戦えるのは、サイボーグの能力だけではありません。彼は自分の中に勇気を持っていて、それがあるから戦えるのです。

 

サイボーグ009 (第1巻) (Sunday comics―大長編SFコミックス)

サイボーグ009 (第1巻) (Sunday comics―大長編SFコミックス)

 

 

 「勇気さえあればヒーローになれる」これは、本作に多彩なスパイダーマンが出ている事にも通じています。本作に出てくるのは、コミック・ブック出身のブタとか、白黒の世界のハード・ボイルド野郎、未来から来た天才少女、そして平凡な少女と、バラエティに富んでいます。彼らは経緯は違えど、皆スパイダーマンなのです。余談ですが、このキャラ1人1人のアニメが彼らの世界観に合わせて変えられているのも細かいですね。

 

 そしてこれは、『スパイダーマン』という作品全体のテーマに通じると思います。『スパイダーマン』とは、平凡な青年が突然力を得てしまい、それに戸惑いながら自らの勇気で敵に立ち向かっていく話だからです。映画ではサム・ライミ版『スパイダーマン2』でこれをやっています。

 

 自らが勇気を持ち、自分を信じて努力すれば前に踏み出せる。その過程で何かを失ったとしても、1人ではなく、分かってくれる人は確かにいる。本作はそんなことを言っているように感じ、それ故に素晴らしい作品だと思います。

 

 

同じくアメコミ原作のアニメ版。これは日本のスタッフが好き放題やってくれましたね。

inosuken.hatenablog.com

 

 スパイダーマンつながりで。

inosuken.hatenablog.com