暇人の感想日記

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【ブレードランナー2049】感想:正当な続編であり、前作のリメイクともいえると思う。 ※ネタバレあり

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88点

 

 「ブレードランナー」の35年ぶりの続編。監督は「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ。前作が熱狂的な支持を得ているため、監督にとっては非常に分が悪い作品であるのは明白。しかしてその出来は、「ブレードランナー」の続編として、申し分ない作品でした。 

 前作はリドリー・スコットが情報のレイアリングをしたり、思い付きで設定を付け加えたりして、情報過多な作品になってしまい、それが作品に複雑さをもたらしていました。しかし本作は、前作と同じことを描きつつ、前作よりも画面と設定が洗練されていたため、(あくまで前作と比べると)作品がすっきりして、分かりやすくなったと思います。

 また、前作には一種神話的な話も盛り込まれていました。監督もインタビューで語っている通り、前作はレプリカントという人造人間が、「タイレル」という自分たちの創造主に反逆する話でもあります。旧約聖書において、天地万物は神であるヤハウェによって創造されたとされています。タイレルというのは、レプリカントという人間により近い存在を創造したという点では、ヤハウェに近いと思います。

 前作は、この神話的な世界の中で、「人間」であるが感情が薄いデッカードと、「レプリカント」であるが感情豊かなロイを対比させ、「人間とは何か」という実存的不安を描いた作品だったと思います。

 本作では大きくこの「人間の実存」と「神話的世界」の2つの要素が形を変えて存在していると思います。

 まず、「神話的世界」ですが、これはタイレル社が崩壊したので、新しくレプリカントを製造しているウォレス社に、「神」の要素が受け継がれています。しかもそれがよりパワーアップしています。というのも、ウォレス社は、レプリカントや人工生物の製造だけでなく、食べ物の製造も独占しているのです。まさに世界を支配しています。そんな彼が追い求めるのは、命を作れるレプリカント真の意味で人間を作り出そうとしていて、神に近づこうとする男です。

 そしてその命を作れるレプリカントこそ、前作のヒロインにして今作では最大のキーパーソン、レイチェルです。本作では名前が似ているのをいいことに、旧約聖書ラケルから引用しています。

 このように、何もかもウォレスという「神」に支配され、創造された世界の中で、Kの自分探しの物語が紡がれていきます。これがもう1つの形を変えた要素です。

 前作は「人間」であるデッカードと、「レプリカント」であるレイチェルの、言ってしまえば愛の話でした。そしてそこに、「人間とは何か」という問いが投げかけられていたと思います。

 対して、本作では、主人公Kはレプリカントです。彼はレプリカントとして生まれ、ブレードランナーとして同族を狩っています。感情を抑制し、友達もいない。どこか虚無的だったデッカードとは違い、彼は抑制して何もない男となっています。しかし、唯一心を許している人物がいます。それがAIであるジョイです。彼女の存在があったからこそ、本作は前作と同じく、愛の話になり得たと思います。

 本作はKがレイチェルから生まれた子どもを捜索する姿を描いていきます。そしてそれは中盤から彼の自分探しの旅になっていきます。彼は途中から、自分こそ、その子どもなのではないか、と思い始めるのです。「偽物」であるレプリカントではなく、真の意味での「本物」になれるのではないか、といった希望を抱き始めます。

 しかし、その希望はあっさりと砕かれます。彼が愛する人を失ってまで辿り着いた真実は、彼こそ、レイチェルの子どものダミーだったということ。つまり、彼は本当の意味でレプリカントだったのです。要するに偽物ってこと。絶望している彼に反乱軍のリーダーはこう言います。「大義のための死こそ人間らしい」と。要するにデッカードを殺せってことですね。Kはもはや何もない人間です。愛する人を失い、人間にもなれない。しかし、彼の取った行動は、「デッカードを救い、娘と会わせる」ことでした。

 何もない男が、自らの大義を見つけ、それに向かって精一杯生きる。これは結局、前作と同じです。違うと言えば、護る対象のみです。しかし、その根源には、形は違えど、愛があったと思います。本作では、Kが何かを失う過程が描かれていくため、より最後の行動に悲壮感が漂っています。彼は確かにレプリカントでした。しかし、彼には「人間らしい」感情があったのです。ここに前作からの「人間とは何か」というテーマがあると思います。偽物かどうかより、生き方なのだという。

 デッカードも良かったですね。特に「俺には何が本物が分かる」の台詞ですね。偽物だらけの世界でも、彼は「本物」を見抜いています。それは本作のテーマにも直結していきます。しかし、随分感情表現が豊かになりましたね。

 思えば、ドゥニ・ヴィルヌーヴの前作「メッセージ」もそうでした。あれは未来が分かっていても、その時の喜びとかを精一杯味わおうという意味合いもあったと思います。これは「ブレードランナー」のテーマとも直結しています。そして、彼が持つ「神話」的モチーフもあります。水の中からの生まれ変わりとか。

 本作は、「ブレードランナー」という名作を使って、テーマを現代的に洗練させただけでなく、監督の作家性も盛り込むことに成功した作品だと思います。