暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

私的2017年映画ベストテン

 こんにちは。いーちゃんでございます。今年ももうお終いですね。世間はすっかり大晦日ムードで、周りも普段とはどこか違います。この大多数が休んでいる感じが何とも言えませんね。

 さて、私的には、今年も色々ありましたが、例年以上に映画をたくさん観ることができました。なので、ベストテンを決めてみようと思います。

 選定条件として、①年内に鑑賞したものに限る、②リバイバル上映は含まない、③2017年の鑑賞時点で「新作」にカテゴリされるもの、の3つを挙げたいと思います。

 方式としては、オールタイムベストの時と同じように、まず10本発表して、それから個別の感想に移りたいと思います。

 では、発表します。

 

【私的2017年映画ベストテン】

 1位「ありがとう、トニ・エルドマン」

 2位「三度目の殺人

 3位「夜は短し歩けよ乙女

 4位「女神の見えざる手

 5位「ドリーム」

 6位「エル ELLE

 7位「ベイビー・ドライバー

 8位「メッセージ」

 9位「哭声 コクソン」

10位「わたしたち」

※次点「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」

 

次点【KOBO/クボ 二本の弦の秘密】

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  圧倒的な技術に感嘆しました。そしてそれを以て我が国日本を描いてくれたことには、もう感謝しかないです。また、メッセージ性でも万人に通用するものだと思うし、観ないのは本当にもったいないと思います。本当にベストテンに入れたかったのですが、中盤の展開が微妙だったことがネックで、次点に収まりました。序盤と終盤だけならベストテン入り確実です。

 感想はこちら

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10位【わたしたち】

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 誰しも経験したことがあるいじめ問題を、学校内のカースト抗争を非常にリアルに交えて描いた作品。子どもたちの演技が自然で、だからこそ胸が痛いし、我々にも感じるものがある。最後の台詞を言えるような人間になりたいものですね。

 感想はこちら

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9位【哭声 コクソン】

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 エキセントリックな映画です。観ている間、脳みそをグチャグチャに掻き回されます。しかもただのスリラーではなく、最終的に神の話にスライドしていきます。意味が分かりませんが、何故か最後まで観てしまう。そんな映画です。

 ※ブログ開設の前に観たので感想は無しです。

 

8位【メッセージ】

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 今年はまさにドゥニ・ヴィルヌーヴの年だったと思う。「ブレードランナー2049」も公開され、本作と共に素晴らしかったです。私的にはこちら。「宇宙人との対話」がとても面白かったし、世界規模のマクロな話が最終的に1個人の人生の話に帰結する辺り素晴らしかった。後は音。やっぱり映画館で映画観るのっていいなと再認識しました。

 ※ブログ開設の前に観たので感想は無しです。

 

7位【ベイビー・ドライバー

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 音とアクションの完璧な融合。前代未聞の体験でした。これだけでも見る価値はある。ストーリーも「ベイビー」が「大人」になる話で面白いなと。

 感想はこちら

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6位【エル ELLE】 

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 初ヴァーホーベン。こんな映画があるのか、と観たときは衝撃を受けました。世の中の複雑な構造を「普通の映画」っぽく描いている。おかしいところはあるけど、誰が観ても面白い作りになってるし、何より主題が凄まじい。1個人の自律性を描いていていますね。もう何回か観返したいかもね。でも、超毒舌な映画だとも思うのよね。

 感想はこちら

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5位【ドリーム】

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 超良い映画です。完成度もそうですし、何より内容。差別意識の描き方とか、それを克服する才能。それをエンターテイメントとして風通しがいい作品として見せる。もう感服ですわ。

 感想はこちら

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4位【女神の見えざる手

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 とにかくジェシカ・チャステイン無双。ただただ彼女に惚れる作品。内容は銃規制法案を通すロビイストの話。二転・三転する脚本、そしてそれを超スピードで見せる展開。そして最後はド級カタルシスを観客に残し終わる素晴らしき作品でした。

 感想はこちら

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3位【夜は短し歩けよ乙女

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 とにかく私のような人間に刺さりまくりな作品でした。観ている間とても面白いです。ですが、最終的にとても感動しますし、自分の人生にちゃんと意義ある価値観を還元してくれる素晴らしい作品でした。

 ※ブログ開設の前に観たので、感想は無しです。

 

2位【三度目の殺人

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 これも恐ろしい映画だった。今見ている世界は、自らの主観で作られた世界なのではないか、という疑問に襲われました。1位と同率でもいいレベルです。

 感想はこちら

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1位【ありがとう、トニ・エルドマン】

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 今の自分に刺さりまくった作品。2位とは僅差。親子の絆も素晴らしかったです。ですが、私にはそれ以上に、自分を見失っているとき、自信を失くしているとき、本作を何度でも観返したいと思いました。

 

 以上、ベストテンでした。今年は「映画の当たり年」と巷で言われているように、素晴らしい映画にたくさん出会いました。下に上記以外で良かった映画を書いておきます。

『RE:BORN』『ビジランテ』『新感染 ファイナルエクスプレス』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『IT/イット"それ"が見えたら終わり』『スパイダーマン ホームカミング』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOL.2』『ノクターナル・アニマルズ』『あゝ、荒野』『サバイバルファミリー』『レゴバットマン・ザ・ムービー』『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』『全員死刑』『夜明け告げるルーのうた

 以上になります。それでは皆様、良いお年を。

原作が持つ世界観を忠実かつ丁寧に再現した佳作。【キノの旅-the Beautiful World-(2003年版)】感想

・前書き

 つい先日新作の放送が終了した「キノの旅」。その過去作品です。私がこれを見たのはまだ私が中学生だった頃、キノにハマり始めたときでした。ハマり始めた作品がアニメ化されていると知り早速近所のGEOでレンタル。ワクワクしながら見始めました。そして1話を見終わり、大変ガッカリしました。「絵が変、声が変、後全体的に何か変」と思ったのです。当時、私はアニメのことは何もわかっていなかったので、TV局が作っていると思っていたのです。なので、「同じWOWOWなのに何でこんなに絵が違うんだ」と「バッカーノ!」とか見て思ってました。まぁこれのおかげでアニメ制作について調べ始め、現在、アニメの沼に浸かってしまったのです。
 
 このように、良くも悪くも思い出深い作品なので、新作の放送開始を機に再度チャレンジしようと思って見ました。監督を務めた中村隆太郎さんが非常に腕のある演出家だと分かったことも理由としてあります。
 
 見始めて驚きました。とんでもなく良くできた作品だったからです。私が初見で拒絶反応を起こした要素が、全て「キノの世界」を作るために計算されたものだという事には素直に謝罪するしかありませんね。次の項では、ここら辺を書きたいと思います。
 
 
・徹底的に構築された世界観
 「キノの旅」の最大の特徴、それは寓話だということです。著者である時雨沢先生は「銀河鉄道999」が最大のモデルだ、と色々なインタビューで語っています。あれも1話完結で、その星毎の話でした。そこに星新一的なショート・ショートだったり、「星の王子様」を足した感じですね。そして、寓話的であるが故に、各話毎にキノは傍観者であり、あくまでもメインは「国」なのです。本作では、この「国や人がメインの寓話である」ことを徹底して描いています。そしてそのためにいくつかの手段をとりました。①作画、②俳優の起用、③原作の改変です。
 
 ①作画
 本作における最大の問題点です。ぶっちゃけ、本作がそこまで支持されていないのも、作画で拒否反応を示す人が多いからなんじゃないかと勝手に思ってます。私もそうでした。比較のためにキノのキャラデザだけ貼っときますね。

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(上)本作のキノ (下)当時の原作のキノ

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他のキャラが入っている奴です。
 

 しかし、今見てみると、この作画がどこか絵本的な作画で、「寓話的世界」の構築に一役買っているのです。そう考えると、他のモブが素朴で、背景もどこか微妙だったことも納得がいきます。しかも、このキャラデザのおかげで、キャラクターの主張が薄れ、より国の印象が前面に出るようになっています。でも、「病気の国」の作画でも雰囲気は完璧だったから、ああいう作画でも良かったと思うんだけどね・・・。

 

 ②俳優の起用

 こうして、寓話的世界のルックは整いました。次は、「傍観者キノ」を完成させる必要があります。本作では、メインは「国」ですから、キノは脇にいるだけです。しかし、主役なのだから存在感は出さなくてはならない。そこで、監督は俳優を起用しました。キノを演じたのは前田愛さん。「ガメラ3」とかに出ていた方ですね。そして、エルメスは相ケ瀬龍史さん。この方も俳優さんですね。彼らの演技は声優のそれとは違います。それが批判の対象になるのも分かります。私もエルメスの声には初めはゲンナリしました。ですが、これにより、キノ達がその国の住人とは違う感じがモロに出て、異質感が増します。異質であるが故に、傍観者であっても、存在感を保てているのです。また、前田愛さんに限って言えば、どことなく棒読みな感じがキノに合ってる気がしなくもない。

 

 ③原作改変

 そして、最後は原作改変。昔からある悪しき伝統ですが、本作では全てプラスに働いていると思います。原作のテイストを崩さず、むしろさらに深いテーマへと昇華させていると思います。絵コンテや演出力の力もあるのでしょうが、全ての話が原作越え、若しくは原作とは違った味わいを出しています。例えば、「人の痛みが分かる国」。あれは原作にあった花のエピソードを膨らませ、原作より深い味わいの話にしています。

 

 大きく改変された「コロシアム」や「本の国」「彼女の旅」もそうです。「コロシアム」は原作ではキノの無双回でしたが、アニメでは国の描写を多くし、「国が主人公」をここでも描いていました。また、他の2つでも「生きること」「自分の人生を歩きだすこと」みたいな話にしていたような。

 

・監督と全体の構成

 そしてこれらを演出する中村隆太郎さんの手腕も素晴らしいと思いました。ほとんどかからないBGM(かかっても音楽、というよりは雑音的なものが多い気がする)、そこから生まれる独特の間、光を使った手法。そしてそれらからどこか静的な雰囲気を出しています。しかも彼がコンテを描いた回はどれも画面の密度が濃い。画面上にさりげなく、でも分かりやすく重要な意味を持つ絵があったりします。彼の作品をもっと見てみたいと思いましたね。

 

 全体の構成も最終話でオチるように出来ていると思います。世界のあらゆる理不尽、哲学を見せた後に「優しい国」ですから。要は「世界は美しくない。でもそれ故に美しい」ってことですね。

 

・最後に

 正直、ここまで評価が変わるとは思っていませんでした。配信サイトに登録していればだれでも気軽に見られる状態なので、多くの方にぜひ見ていただきたいなと思います。新作の方はまた別の日に書きます。

3兄弟が世界の巨大な「闇」に抗うノワール作品【ビジランテ】感想

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95点

 

 冒頭が非常に印象的です。闇の中を3人の兄弟が川を渡っていくアレです。後ろから追いかけてくるのは横暴な父親。彼らはその暴力から逃げ出してきたのです。しかし、3人は川に足をとられて上手く走れず、もがきながらも逃げ続け、長男だけが向こう岸に辿り着きます。しかし、あえなく3人は父親に捕まってしまいます。この冒頭は本作の内容を端的に語っています。つまり、「兄弟が世界の巨大な暴力に飲み込まれるノワール作品」だという事です。

 本作では田舎を舞台にしています。そして、物語はそこでのみ展開されます。つまり、本作において、田舎=世界なのです。そしてその田舎は非常に閉鎖的で、排他的。さらに巨大でドス黒い「力」が渦巻いています。本作には全編を通して、三兄弟を圧迫する巨大な力が溢れています。冒頭は父親でしたが、本編では「政治」という力です。しかし、父親の存在も完全にいなくなっているわけではなく、いわば「不在の中心」とでも言うべき存在感を保っています。本作では闇が印象的だなと思っていて、何か兄弟たちを、町民を呑み込もうとする巨大な何かな感じがするのです。

 ですが、冒頭で向こう岸まで辿り着いた一郎だけは外の世界に出て、それらの力に圧迫されることなくこの「世界」を搔き乱します。しかし、この長男、何を考えているか分からない怪物のような男です。故に、秩序の崩壊が際立ちます。

 かえって、二郎と三郎はこの世界でもがき続けています。三郎はデリヘルの雇われ店長で、上のヤクザの力に圧迫されています。次郎は「政治」という力に圧迫され、その世界でもがいています。これは我々の社会でも同じですね。我々も出口のない闇をもがきながら、力に圧迫されながら生きています。

 しかし終盤、この2人は全く対照的な行動をとります。三郎は演じているのが桐谷健太であるせいか、どこか人情味のある役で、「兄弟の絆」や、同僚(?)の女の子のために動きます。しかし、最後も兄に固執するあまり、悲劇的な結末を迎えます。一方、二郎は全く逆です。兄弟としての情を切り捨て、政治の力に飲み込まれた結果、その世界で生きていく資格を得るのです。この点で、本作は「力に呑まれてしまった兄弟の話」と言えると思います。ラスト、街の暗闇の中で煌々と光っていた灯が、三郎の命の灯でもあり、二郎の情の灯でもあったのかもしれません。そして、灯が消えた瞬間、2人はそれぞれ別の形で街の「力」に呑まれてしまったのかもしれません。

 また、本作の重要な要素として、神藤家があります。物事が起こるのは、大抵あそこです。故に、「兄弟の話」が一層強まった気がします。

 役者も文句なしですね。特に般若さんです。怖すぎだろ、大迫さん。入江監督、今年は傑作ばかりです・・・。

【パーティーで女の子に話しかけるには】感想:ちょっと変わったボーイ・ミーツ・ガール

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80点

 

 予告を観て面白そうだったので鑑賞。その独特の設定と突飛な展開で賛否あるらしいですが、私にとっては非常に面白い作品でした。というのも、映画として突飛でも、内容的にはエンとザンの純然たるボーイ・ミーツ・ガールだったからです。白状すると最後少し泣きました。

 先にも書きましたが、本作は設定が突飛です。しかし、その1つ1つの設定にはきちんとした意味があり、最終的にはそれが1つになって感動を呼びます。

 まず、宇宙人であるザン。彼らの風習はシュールですらありますが、我々が生きている世界のグロテスクなメタファーともなっています。彼女が生きている共同体は全体主義的な集団で、決まった秩序でがんじがらめになって生きています。

 そんな「秩序」に縛られたザンが出会ったのはパンクにはまる少年、エン。私は知識が浅いのですが、パンクとは当時の鬱屈し、社会に反抗的だった若者に熱狂的に支持され、その音楽性自体も既存のものに縛られないものだったそう。共同体の秩序に違和感を抱いていたザンが「既存のものに縛られない」パンクに興味を持ったのは分かる気がします。

 2人は互いに交流を深めていくのですが、終盤、宇宙人のある思想が明らかになります。それは、「親が子を食う」というもの。理由は「種の緩やかな絶滅のため」なぜそのようなことをするのかといえば、過去の教訓が基なのだという。彼らはその教訓から、子どもたちがむやみに繁殖したらまた争いがおき、資源を使い果たしてしまう。それを防ぐために子を食って間引きをしているのだという。

 これは実社会のメタファーとして見れます。我々の社会でも、上の世代の責任が下の世代に押し付けられ、結果として理不尽な被害に遭う。宇宙人たちは全く同じことをしています。

 これを聞いたエンは、その考えを真っ向から否定します。「ふざけんな」と。「親の世代とか関係ない。俺は生きる。無茶苦茶しても生きる。そして、親が壊してしまったものも直す」まさに反抗的な「パンク」な思想だと思います。

 本作にはこのように、「親」の影響が強いです。ザンは書いた通りですし、エンは幼いころに「パンクだった」父に捨てられています。ここには全体的に漂う「親の世代の責任の転嫁」がある気がします。

 ラスト、パンクに憧れていたエンは、反抗していた大人になりました。そして、成り行きとはいえ、子どもたちに自分が親にされたことと同じことをしてしまいました。故に、最後に彼らが来るシーンでは非常に感動します。

 ここまで、アナーキーな思想を書いてきましたが、そもそも本作は恋愛映画です。タイトルが直球すぎです。思春期の男子にとって、見知らぬ女子は宇宙人みたいなものです。そして女の子と付き合って色々と学ぶんです。ラストでエンが友人にアドバイスしますが、そういうことです。元は別々の存在なんです。それが分かるようになった点で、彼は成長したのでしょう。そして、2人を引き裂く「大人」に反抗します。これは立派なボーイ・ミーツ・ガールです。

 ただ、癖が強すぎるので人を選ぶ作品なのも事実。中盤の文字通り「合体」シーンのサイケデリックな感じとか、後は繰り替えし書いてますが、突飛な展開とかです。でも、それ自体が本作のパンク的な、アナーキーで何者にも縛られない感じがして、とてもいいですね。

 このように本作は、変な映画ですが、同時に、観終わった後は「アナーキーに生きろ」という秩序に縛られた我々からしたら何かエールをもらったような気分になれる作品でした。

【キングスマン】感想:不謹慎な「007」

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85点

 

 「マナーが人間を作る」劇中の台詞です。しかし、本作は「マナー」なんて知ったことか、みたいな雰囲気に満ち、虐殺は起こるはゲロ吐くは挙句の果てには脳みそ大爆発とか、痛快で、しかしとても不謹慎な作品でした。

 まず目を引くのが荒唐無稽のアクションです。ダニエル・グレイグ版「007」みたいなリアル路線ではなく、昔の「007」みたいなアクションです。劇中の台詞でも言及してましたし、序盤で露骨なそっくりさんが出てきましたね。そして彼は瞬殺されます。

 また、中盤の大殺戮シーンが印象的ですが、とにかく客観的に見れば悲惨な暴力描写を面白可笑しく描いています。つまり不謹慎なんです。これは批判の対象になったそうです。そりゃそうだ。でも、殺されるのは差別主義者どもなので、「いくらかは」中和されていて、痛快さが増していると思います。

 本作では、先に書いた序盤のやりとりと、この「不謹慎さ」が本作のテーマともつながっている気がします。本作のテーマは所謂「継承」なのかなと。しかもそれを昔のものを現代的にする、という形で成されています。

 そしてそれは作中ではマイ・フェア・レディに例えられています。あの作品は「マナーとか外見が問題なのではなく、その人間性が大事なんだ」みたいな話だったと思います。本作は外見所は昔の「007」みたいな作品ですが、中身のアクションは不謹慎さ100%です。そして、ザ・英国紳士なコリン・ファースから街の不良少年へ継承されます。それは外見上の「マナー」ではなく、本質的なものです。ラストが象徴的でしたね。

 役者では悪役のサミュエル・L・ジャクソンが最高でしたね。「血を観るのが苦手」なIT長者で、間違ったエコロジストみたいな役。どこか軽くて憎めない奴でした。憎む、という点でいえば、そこかしこに出てくる「上流階級」連中です。こいつらも最後には脳みそ大爆発で死ぬので何かスッキリします。そう、本作は不謹慎なだけで勧善懲悪ものなんです。

 ただ、ストーリーには難ありだと思っています。キングスマン入門試験も何だかヌルいし、「キングスマン」になる下りも微妙。でも、いいと思います。本作は昔ながらの「007」シリーズ現代版なんです。あのシリーズに「あそこがこれこれこうだからおかしい」とかいう人いますか?私は何も考えないで観ちゃうので、本作は楽しめましたね。

【ドリーム】感想

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95点

 

 原題「HIDDEN FIGURES」。訳すと、「隠された数式」本作は「数学」がメインテーマとなているので、その意味もあります。しかし、「能力はあるのに不当に差別され、存在が知られていなかった人」の意味もある、というように、いくつにも意味が重なっているタイトルです。本作はマーキュリー計画において、その天才的な能力を以て貢献した女性を黒人差別、女性差別を絡めて描いた作品です。本作の素晴らしいのはこの要素が完璧に合体して、一級のエンターテイメント作品となっている点です。

 内容は差別を扱ったものですが、そこまで声高に訴えることはなく、主張としてはむしろ「能力のあるやつには相応の仕事をさせろ。それが一番効率的だ」という、至極真っ当なものです。そしてこのテーマは劇中の宇宙開発とも密接にリンクしています。「宇宙に行く」ことは「前例がない」ことです。少なくともアメリカにおいては。そして、「女性の、しかも黒人を参加させる」ことも「前例がないこと」です。つまり、「前例がない」とかいう理由だけで差別をしている人間は「前例のないこと」などできないのです。

 面白いのは、本作の主人公たちの障害となっているのが、人々の中にある無自覚な差別意識だということ。だからこそタチが悪い。日本でも同じようなこと起こってるし。しかし、本作ではこういった障害を乗り越える姿をシリアスではなく、明るく、エンタメとして描いています。NASAの組織ではこの差別が形として現れていて、コーヒーポッドとかトイレとかもそうですが、最たるものは別棟ですね。正に「脇に押し込められている」姿を形として見せています。故に、終盤で皆が出てきて、白人と合流するシーンでは、彼女らが「解放」されたようで、カタルシスを得るわけです。

 差別する側の白人も、単純な「悪」として描いているわけではないのです。才能を認めることで、ちゃんと意識を改善する存在として描かれています。ここら辺もフラットだなと。その最たる存在はケビン・コスナーで、彼が言わば黒人と白人の橋渡し的存在となっていると思います。

 後は印象的なのはチョーク。キャサリンが才能を示すシーンで2度出てくるのですが、それらがちゃんと呼応するものになっています。あそこは本当にうまいし、純粋に感動します。

 ここまで、彼女たちの活躍を見せられた後に出てくるタイトル「HIDDEN FIGURES」。タイミングが完璧すぎてここでも感動です。

 本作は差別が前面に出ていますが、もう1つ重要なテーマがあると思います。「勉強しとけば、それは自分を救ってくれる」というものです。先に書いた解放シーンがあったのも、彼女らがエンジニアの勉強をしていたからでした。こういう意味で、学生にもぜひ見てほしいですね。後は、主張をするには、感情論だけではなく、論理的に、相手にメリットを示して交渉するところも見習いたいものです。

 後は音楽も良いし、役者も良いしで、文句の付け所もなく、素晴らしい映画でした。

【彼女がその名を知らない鳥たち】感想 ※ネタばれあり

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80点

 

 「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督作品。今回は実録作品ではなく、小説が原作。しかもミステリーで、「愛」が主題の作品。知ったときは中々異色な組み合わせだなと思いました。でもよく考えてみると、原作が「イヤミス」の評価を得ていたので、監督がこれまで撮ってきたどこか泥臭い作風と合ってる気がして、何だか納得もしました。

 で、出来上がった作品を観て「良かった」と思いましたね。とても面白かったからです。「愛の概念が覆る」という大げさなキャッチコピーに負けることなく、映画の序盤と後半では、映画の構図そのものがひっくり返ってみえた作品でした。

 「イヤミス」を冠していることから分かる通り、本作の話の軸は失踪した十和子の元彼、黒崎が失踪の謎を探るミステリーです。それに十和子と黒崎の過去、そして現在の水島の関係が深まっていくところも並行して描いていきます。本作はミスリードがとても上手いと思いました。観ていると、「実はこうなんじゃないかなぁ」と考えてしまうのですが、役者の演技力と監督の演出力のせいか、監督の意図したとおりの思考に持っていかれてしまいます。

 そしてこの謎の真相が明らかになったとき、大どんでん返しが起こるわけです。それはミステリー的な意味でもそうですが、映画全体の構図すらひっくり返し、それまでミステリーだった本作を、「愛」の話にまで持っていきます。そういう意味でまさにどんでん返しです。

 一番印象が変わるのは陣治です。それまで下劣で、かつ十和子に異常な愛情を注ぐ男として映っていた彼が、このどんでん返しによって、作中一の天使となります。変わってから陣治目線で十和子との日々を振り返るラストはとても印象的で、十和子が探していた「幸せ」がまさにあそこにあったのかもしれないと問答無用で我々に納得させるものでした。

 ここまで考えて思い出したのは「青い鳥」。これはある兄妹が妖精に導かれて幸せの象徴である青い鳥を探すのですが、最終的にそれは自分たちの家にいた、という寓話です。本作はこれをそのまま置き換えることができるような気がしなくもないです。十和子が探していた幸せは、皮肉にも、陣治だったのかもしれない。だからこそのラストの鳥だったのかもしれないのです。中には水島とか黒崎みたいな男もいるかもしれない。でも、陣治みたいな男もいる。愛す方が幸せなのか、愛される方が幸せなのか。人それぞれでしょうけど、本作はこれを考えずにはいられない作品でした。まぁ陣治の愛に泣いたって話ですね。

 後、書いておきたいのが役者。MVPはもちろん蒼井優さん。まさに「体を張って」演技されています。しかも、あそこまでの嫌な女役は新鮮でした。後は松坂桃李さんですね。最近活躍目覚ましい彼ですが、ここまでになるとは。シンケンジャーは遠くになりにけり。もっと頑張っていただきたいです。