・前書き
しかし、今見てみると、この作画がどこか絵本的な作画で、「寓話的世界」の構築に一役買っているのです。そう考えると、他のモブが素朴で、背景もどこか微妙だったことも納得がいきます。しかも、このキャラデザのおかげで、キャラクターの主張が薄れ、より国の印象が前面に出るようになっています。でも、「病気の国」の作画でも雰囲気は完璧だったから、ああいう作画でも良かったと思うんだけどね・・・。
②俳優の起用
こうして、寓話的世界のルックは整いました。次は、「傍観者キノ」を完成させる必要があります。本作では、メインは「国」ですから、キノは脇にいるだけです。しかし、主役なのだから存在感は出さなくてはならない。そこで、監督は俳優を起用しました。キノを演じたのは前田愛さん。「ガメラ3」とかに出ていた方ですね。そして、エルメスは相ケ瀬龍史さん。この方も俳優さんですね。彼らの演技は声優のそれとは違います。それが批判の対象になるのも分かります。私もエルメスの声には初めはゲンナリしました。ですが、これにより、キノ達がその国の住人とは違う感じがモロに出て、異質感が増します。異質であるが故に、傍観者であっても、存在感を保てているのです。また、前田愛さんに限って言えば、どことなく棒読みな感じがキノに合ってる気がしなくもない。
③原作改変
そして、最後は原作改変。昔からある悪しき伝統ですが、本作では全てプラスに働いていると思います。原作のテイストを崩さず、むしろさらに深いテーマへと昇華させていると思います。絵コンテや演出力の力もあるのでしょうが、全ての話が原作越え、若しくは原作とは違った味わいを出しています。例えば、「人の痛みが分かる国」。あれは原作にあった花のエピソードを膨らませ、原作より深い味わいの話にしています。
大きく改変された「コロシアム」や「本の国」「彼女の旅」もそうです。「コロシアム」は原作ではキノの無双回でしたが、アニメでは国の描写を多くし、「国が主人公」をここでも描いていました。また、他の2つでも「生きること」「自分の人生を歩きだすこと」みたいな話にしていたような。
・監督と全体の構成
そしてこれらを演出する中村隆太郎さんの手腕も素晴らしいと思いました。ほとんどかからないBGM(かかっても音楽、というよりは雑音的なものが多い気がする)、そこから生まれる独特の間、光を使った手法。そしてそれらからどこか静的な雰囲気を出しています。しかも彼がコンテを描いた回はどれも画面の密度が濃い。画面上にさりげなく、でも分かりやすく重要な意味を持つ絵があったりします。彼の作品をもっと見てみたいと思いましたね。
全体の構成も最終話でオチるように出来ていると思います。世界のあらゆる理不尽、哲学を見せた後に「優しい国」ですから。要は「世界は美しくない。でもそれ故に美しい」ってことですね。
・最後に
正直、ここまで評価が変わるとは思っていませんでした。配信サイトに登録していればだれでも気軽に見られる状態なので、多くの方にぜひ見ていただきたいなと思います。新作の方はまた別の日に書きます。