もう年も明け、冬アニメが始まっています。そんな中で、「少女終末旅行」の感想です。正直、最初はそこまで期待してはおらず、何となく見始めた本作。ですが、見続けていくうちに、その丁寧な作りに惹かれていって、最終的には冬アニメの中で一番好きなアニメになりました。
・1話感想はこちら
1話時点の感想を読むと、私は本作を「キノの毒抜き版」と書いています。ですが、全話視聴した後だと、それは違うことが分かりますね。『キノの旅』は寓話です。本作は、まごうことなき「日常系アニメ」でした。
「日常系」と言えば、様々な作品がありますが、代表的なのは『よつばと!』でしょう。あれは小岩井よつばという、まだ世界を知らない幼児の目線を通して、私たちが普段感じている何気ない日常を描くことで、日々の愛おしさを再認識させる作りになっています。
本作はこれをディストピアという状況に置き換えて描いています。主人公のチトとユーリは少女であり、『よつばと!』の世界でいえば風香ぐらい。それでも日常系は作れますけど、『よつばと!』みたいなストレートなものは作れないのではないでしょうか。
ですが、本作は世界そのものが何年か前に終焉しているため、我々の日常がもう戻ってこないものとなっています。チトとユーリは終焉した世界を明日の食料を求めてただただ彷徨うだけです。そして彷徨って辿り着いたところにあった「古代人の遺跡」つまり、私たちが当たり前だと思っている日常に触れることで、日常の素晴らしさを我々に再認識させるのです。
その白眉は第5話の「雨音」でしょう。我々が普段当たり前だと思っている雨音。最初はバラバラだった雨音が、次第に合わさっていき、1つの「音楽」になっていく。これが「センス・オブ・ワンダー」ってやつなのでしょうか。EDにつながる演出と相まって、素晴らしい回でした。
この5話を筆頭に、各話も丁寧に作られています。各話のテーマが台詞でも演出でも伏線として散りばめられ、最終的にそれらが綺麗に回収されていき、視聴者の中にいい感じの余韻を残します。
各話もそうですが、アニメ全体も非常に丁寧な作りだなと思います。特に、チトとユーリの「2人だけの世界」の描写ですね。まずはBGM。非常に抑え気味に使われています。あったとしても主張しすぎないくらいさりげないか、シーンを盛り上げるために意図的にダイナミックに使われたりしています。抑え気味のときは静寂故の世界の終焉感が出ていますし、ダイナミックなときはシーンの良さが際立ちます。音楽の使い方が上手いのかな。
後は背景ですね。終始機械や廃墟などの無機質なものに満ちています。色も黒とかなので、余計に孤独な感じが増しますね。この時にかかる機会の稼働音みたいなものも、それを増長させます。
しかも、登場人物は基本的にチトとユーリの2人だけ。ゲストで2人と1体と1匹。なので、EDクレジットは毎回非常に寂しいです。
ですが、だからこそ最終話が光ります。これまで、日常の愛おしさを我々に見せつけてきた本作ですが、最終話で、とうとう人間を、世界そのものを肯定してみせた気がしました。世界の終焉が人間の営みと共に描かれていたあの映像です。「ショパン:ノクターン 第2番」が非常にマッチしていて、どことなく物悲しく、でも愛おしいといった感じが出ていました。で、そこからのサブタイトルの「仲間」も素晴らしかった。EDクレジットもいつもよりも賑わっていて、人間がいるというのも、悪いことじゃないかもね。とか思っちゃいましたよ。
このように、本作はディストピアを通して、我々に日常を、そして人間を肯定的に見せてくれた作品だと私は思っています。そしてそれを丁寧な作りで送り出してくださったスタッフの方々には感謝しかありません。ありがとうございました。
最後に。話が最終的に『風の谷のナウシカ』になったのは驚きましたね。『風の谷のナウシカ』は絶望的な世界でも「生きねば・・・」という結論に達しました。本作も似たような感じでしたね。そして何より、ヌコですよ。完全に『風の谷のナウシカ』の王蟲じゃん。ボスの声優さんが島本須美さんだったし、狙ってんのかな。