暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

原作が持つ世界観を忠実かつ丁寧に再現した佳作。【キノの旅-the Beautiful World-(2003年版)】感想

・前書き

 つい先日新作の放送が終了した「キノの旅」。その過去作品です。私がこれを見たのはまだ私が中学生だった頃、キノにハマり始めたときでした。ハマり始めた作品がアニメ化されていると知り早速近所のGEOでレンタル。ワクワクしながら見始めました。そして1話を見終わり、大変ガッカリしました。「絵が変、声が変、後全体的に何か変」と思ったのです。当時、私はアニメのことは何もわかっていなかったので、TV局が作っていると思っていたのです。なので、「同じWOWOWなのに何でこんなに絵が違うんだ」と「バッカーノ!」とか見て思ってました。まぁこれのおかげでアニメ制作について調べ始め、現在、アニメの沼に浸かってしまったのです。
 
 このように、良くも悪くも思い出深い作品なので、新作の放送開始を機に再度チャレンジしようと思って見ました。監督を務めた中村隆太郎さんが非常に腕のある演出家だと分かったことも理由としてあります。
 
 見始めて驚きました。とんでもなく良くできた作品だったからです。私が初見で拒絶反応を起こした要素が、全て「キノの世界」を作るために計算されたものだという事には素直に謝罪するしかありませんね。次の項では、ここら辺を書きたいと思います。
 
 
・徹底的に構築された世界観
 「キノの旅」の最大の特徴、それは寓話だということです。著者である時雨沢先生は「銀河鉄道999」が最大のモデルだ、と色々なインタビューで語っています。あれも1話完結で、その星毎の話でした。そこに星新一的なショート・ショートだったり、「星の王子様」を足した感じですね。そして、寓話的であるが故に、各話毎にキノは傍観者であり、あくまでもメインは「国」なのです。本作では、この「国や人がメインの寓話である」ことを徹底して描いています。そしてそのためにいくつかの手段をとりました。①作画、②俳優の起用、③原作の改変です。
 
 ①作画
 本作における最大の問題点です。ぶっちゃけ、本作がそこまで支持されていないのも、作画で拒否反応を示す人が多いからなんじゃないかと勝手に思ってます。私もそうでした。比較のためにキノのキャラデザだけ貼っときますね。

f:id:inosuken:20171229002905j:plain

f:id:inosuken:20171229003944p:plain

(上)本作のキノ (下)当時の原作のキノ

f:id:inosuken:20171229004305j:plain

他のキャラが入っている奴です。
 

 しかし、今見てみると、この作画がどこか絵本的な作画で、「寓話的世界」の構築に一役買っているのです。そう考えると、他のモブが素朴で、背景もどこか微妙だったことも納得がいきます。しかも、このキャラデザのおかげで、キャラクターの主張が薄れ、より国の印象が前面に出るようになっています。でも、「病気の国」の作画でも雰囲気は完璧だったから、ああいう作画でも良かったと思うんだけどね・・・。

 

 ②俳優の起用

 こうして、寓話的世界のルックは整いました。次は、「傍観者キノ」を完成させる必要があります。本作では、メインは「国」ですから、キノは脇にいるだけです。しかし、主役なのだから存在感は出さなくてはならない。そこで、監督は俳優を起用しました。キノを演じたのは前田愛さん。「ガメラ3」とかに出ていた方ですね。そして、エルメスは相ケ瀬龍史さん。この方も俳優さんですね。彼らの演技は声優のそれとは違います。それが批判の対象になるのも分かります。私もエルメスの声には初めはゲンナリしました。ですが、これにより、キノ達がその国の住人とは違う感じがモロに出て、異質感が増します。異質であるが故に、傍観者であっても、存在感を保てているのです。また、前田愛さんに限って言えば、どことなく棒読みな感じがキノに合ってる気がしなくもない。

 

 ③原作改変

 そして、最後は原作改変。昔からある悪しき伝統ですが、本作では全てプラスに働いていると思います。原作のテイストを崩さず、むしろさらに深いテーマへと昇華させていると思います。絵コンテや演出力の力もあるのでしょうが、全ての話が原作越え、若しくは原作とは違った味わいを出しています。例えば、「人の痛みが分かる国」。あれは原作にあった花のエピソードを膨らませ、原作より深い味わいの話にしています。

 

 大きく改変された「コロシアム」や「本の国」「彼女の旅」もそうです。「コロシアム」は原作ではキノの無双回でしたが、アニメでは国の描写を多くし、「国が主人公」をここでも描いていました。また、他の2つでも「生きること」「自分の人生を歩きだすこと」みたいな話にしていたような。

 

・監督と全体の構成

 そしてこれらを演出する中村隆太郎さんの手腕も素晴らしいと思いました。ほとんどかからないBGM(かかっても音楽、というよりは雑音的なものが多い気がする)、そこから生まれる独特の間、光を使った手法。そしてそれらからどこか静的な雰囲気を出しています。しかも彼がコンテを描いた回はどれも画面の密度が濃い。画面上にさりげなく、でも分かりやすく重要な意味を持つ絵があったりします。彼の作品をもっと見てみたいと思いましたね。

 

 全体の構成も最終話でオチるように出来ていると思います。世界のあらゆる理不尽、哲学を見せた後に「優しい国」ですから。要は「世界は美しくない。でもそれ故に美しい」ってことですね。

 

・最後に

 正直、ここまで評価が変わるとは思っていませんでした。配信サイトに登録していればだれでも気軽に見られる状態なので、多くの方にぜひ見ていただきたいなと思います。新作の方はまた別の日に書きます。