暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

人の善意が希望を作る【希望のかなた】感想

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80点

 

 アキ・カウリスマキ監督「難民三部作」の第2作。意図せずして35mmフィルム版で鑑賞しました。全体的に温かみがある映像で、作品の雰囲気に非常にマッチしていました。

 

 本作はシリア難民問題を扱った作品です。非常に深刻な問題ですが、レストランの面々に代表されるように、全体的にどこかユーモラスで、温かい作品でした。

 

 本作には難民問題に対する監督の怒りがストレートに出ていると思います。管理局の人間は杓子定規的な対応しかしないし、その対応の後にTVで紛争が起こっていることを示したりしています。さらに、排外的な人間も出てきます。興味深いのは、主人公であるカーリド(山田孝之真田広之似)を襲った奴の1人が、彼を「ユダヤ野郎」と罵ったことですね。カーリドは元イスラム教徒なんですけど。と突っ込みたくなりました。このように、排外的なことを言ってる奴は、「何となくの知識でしかものを言っていない」ことを描いていたのも印象的でした。

 

 こういった窮屈さは劇中の言葉でも言及されています。「難民が異国で受け入れられるコツは楽しそうに笑う事。でも笑い過ぎない事」って台詞ですね。要は目を付けられないようにすることかね。

 

 このような現実を突きつけてくるのですが、カウリスマキ監督は世界の優しさも描いています。代表的なのがレストランの面々です。彼らは難民であるカーリドを受け入れ、彼のために力を尽くします。また、ここから炸裂するギャグがとんでもなく下らなくて笑えます。特に「スシ」の下りは日本人必見です。

 

 パンフによれば、監督は本作を通して、難民の意識を変えることだそうです。以下に引用します。

 

私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取る、ずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。*1

 

 確かに本作のカーリドは、ただ希望を持って生きようとしている1人の人間に過ぎません。そして監督は、インタビューでこうも述べています。「我々は友人を助けられなければ存在できない」と。確かに本作は全篇通してそこを描いていました。劇中で語られるだけですが、カーリドは人々の善意であそこまで来れたのですし。

 

 厳しい現実でも、そこには確かに善意の人々がいる。そこに確かに希望はある。だからこそ、ラストでカーリドは微笑んでいたのかもしれません。

*1:希望のかなた』パンフレットp1「アキ・カウリスマキ監督からのメッセージ」より抜粋