暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2022年新作映画感想集①

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男】

 

93点

 

 ウェストバージニア州のコミュニティを蝕む環境汚染を巡って、十数年にわたって巨大企業と戦い続けてきた弁護士、ロブ・ビロッドの物語。

 脚本的には非常に地味で爽快感皆無な内容でありながら、トッド・ヘインズ監督の抑制のきいた演出と、ロブ・ビロッドの苦悩を体現したマーク・ラファロの好演で、最後までスクリーンに釘付けになる。

 「不屈」を言う言葉がこれほど似合う人物はいないと思う。巨大企業はビロッドが事実を突きつけ、裁判で勝訴したとしても、中々贖罪を行わない。寧ろ、行わないことで原告の精神が擦り減るのを待っている。余談だけど、これは「遠い国」の出来事ではなく、日本でも全く同じことが起こっている。本作はこのような無情さをも淡々と描き出す。対するビロッドは精神的に疲弊し、最後には倒れてしまう。映画全体が淡々としているため、彼の苦悩がより伝わってくる。最後の最後で証拠が発見されるものの、それでも劇的な演出はせず、抑制を保つ。これで終わりではなく、寧ろ始まりなのだから。だからこそ、ラストの台詞「Still here」が胸をうつのであります。

 

【マークスマン】

 

82点

 

 監督はイーストウッドの作品で長年助監督を務めていたロバート・ローレンツ。長年助監督を務めていたせいか、本作は孤独な老人と少年の逃走劇という点で、『クライ・マッチョ』と似ている作品。

 本作は、「正しい道」を選んだ男の話。老境に差し掛かった男が、人生の最後に、少年に「正しい道」を選ぶことができるように助けを出す。対をなすのがカルテルの追手で、平気で人を殺す残忍な男だけど、「道」を選べなかったという過去もある。ちょっとした表情で、「俺もああなっていたかも…」と彼が羨ましそうに思っているのが分かる演出がとても良い。以上のように、ロバート・ローレンツは非常に手堅い演出をしていて、驚きは少ないけれども、水準以上の出来になっている。

 2人の関係性は「疑似家族」までには発展しない。あくまでも「バディ」以上のものは無い。逆に言えば、バディを形成するまでを非常に丁寧に描いている。アクションに関しても必要最小限の動きで敵を仕留めるもので、こちらもとても堅実。

 イーストウッドは新しいパートナーを見つけて新しい人生を見つけるけど、本作のリーアム・ニーソンは自分の命を他者のために使い、決して救われてはいない。あくまでもニーソンは孤独なのです。

 

【ハウス・オブ・グッチ】

 

77点

 

 GUCCIと聞くと、「岸辺露伴GUCCIへ行く」を真っ先に連想してしまうレベルでしかGUCCIに縁も興味もない私ですが、リドスコ爺さんの新作とあらば観ないわけにはいかない。
 予告の段階から、「GUCCI版の『ゴッドファーザー』か?」と思っていたのですが、本当にそんな感じでした。特にマウリツィオは、劇中の役割が完全にマイケル・コルレオーネ。しかし、『ゴッドファーザー』と違うのは、バトリツィアという、「外部」の女性が一族経営の会社に入り、マウリツィオを操り、GUCCIの名前に固執すること。実話ベースということで、「終わり」へと向かっていく人間模様を批判するでも愛着を持つのでもなく、突き放して描くいつものリドスコ
 視点をバトリツィアに絞り、出来事をぶつ切り気味に描く構成はどうかと思ったけども、一貫してたのはバトリツィアのGUCCIへの執着で、彼女の執着が一族経営というシステムを終わらせたという内容にしていた。そもそも、映画が冒頭とラストが同じブックエンドで、映画そのものが「終わり」の中にあるんだよね。これはリドスコ爺さんのこれまでの作品と構造的に似ていると思う。『最後の決闘裁判』で言うところの「女性にとっての男性社会システム」みたいな感じ。そしてそれを恐ろしくブラックな笑いで描いてしまう。イーストウッドとは別ベクトルで恐ろしい爺さんだよ。
 

【ライダーズ・オブ・ジャスティス】

 

77点

 

 変な映画だった。『狼の死刑宣告』とか、『デス・ウィッシュ』みたいな、「街のダニども!貴様ら全員死刑に処す!!」な映画かと思いきや、このリベンジものを逆手にとった作品だった。ジャンルがどんどん変化していき、「リベンジもの」的展開をベースにしつつも、そこから暴力が暴力を生むという、暴力の恐ろしさと連鎖についての話になり、同時に「偶然」にまつわる物語でもあり、そして過去のトラウマを抱える人達がお互いをケアしていく物語でもあった。互いの心を閉ざす演出として、「扉」と「室内」が効果的に使われていたと思う。総括としては、「リベンジもの」の批評的作品と言えると思う。