暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2020年夏アニメ感想③【デカダンス】

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☆☆☆☆(4.4/5)
 
 
 今期数少ない、完走した新作夏アニメ。制作は「幼女戦記」のNUTで、監督は「モブサイコ100」シリーズや『劇場版名探偵コナン ゼロの執行人』でおなじみの立川譲さん。脚本は「ドロヘドロ」や「BANANA FISH」で素晴らしい仕事してくれた瀬古浩司さんと、中々強力な布陣。この布陣でどのような作品が出てくるのか楽しみだったこと、オリジナルアニメは応援したいので視聴しました。

 

劇場版 幼女戦記

劇場版 幼女戦記

  • メディア: Prime Video
 

 

 本作は王道の内容の作品だったと思います。全てがシステムに支配されている世界で、システムに従って生きていたカブラギが、「バグ」であるナツメと出会い、システムに反旗を翻し、世界を革命する物語です。それをゾーンを使った空中戦のアクションを用いて面白く見せています。
 
 しかし、本作が面白い点は、世界を2重構造にしている点です。それを1話、2話とで順番に見せていて、我々視聴者の予想を大きく裏切る展開をいきなり見せてくれました。物語は、1話と放送前の情報ではガドルという人類の敵が蔓延り、絶滅寸前となった世界で、唯一の希望が移動要塞デカダンス。そしてその中で暮らし、ガドルに親を殺されたナツメという少女が元凄腕の戦士であるカブラギと出会う・・・というもの凄くベタなものでした。私も「まあこんなもんだよね」と思って見ていたのですが、2話でいきなりデカダンスはゲームの世界であると示され、これがひっくり返されてしまいます。しかも人類は絶滅寸前であることに変わりはなく、サイボーグに支配されています。デカダンスは、サイボーグにとっては「ゲーム」でしかないが、人類にとっては現実であると分かるのです。これは今流行りのオンラインゲームそのままであり(イベントとかもある)、サイボーグ視点では人類(劇中ではタンカーと呼ばれる)は言わばNPCみたいな存在で、人類視点では世紀末まんまという、2つの現実があるのです。サイボーグ視点だけでは『マトリックス』と言われたらそれまでなんだけど、本作はそれに加え、人類をNPCにして、メタ的な視点を入れているのがとても面白い。
 
 そして3話で世界が何故こうなってしまったのかが描かれ、ナツメが力をつけ、かの力に認められていく成長物語と、カブラギが本格的にシステムに反旗を翻していく物語が並行して描かれます。物語開始当初こそシステムに従い、ただ死ぬのを待つだけだったカブラギが、ナツメというバグと出会い、管理された世界ではなく、バグがある不確定な世界を選びとって共に勝ち取っていく様は王道の展開です。しかもそれがスケールアップしていって、最初こそシステムの中での反抗だったのに、それがシステム全てをぶっ壊す方向に触れていくから面白い。合間の矯正施設からの脱出の下りなども見応えがありますし、最終的に皆の総力を結集した王道バトル展開になるなど、ストーリーも良くまとまっています。

 

マトリックス (字幕版)

マトリックス (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 世界に抗い、管理されたディストピアではなく、自由な世界を手に入れた人類とサイボーグですが、これって主張は「ゲーム」を扱った数多くの作品と同じだと思うんですよね。要するに、「外に出ろ」ってこと。デカダンスのキャッチコピーは「本物ノ感動ガココニアル」だったと思うんですけど、あの興奮と感動は結局は作られたものでした。世界を信じられなくなったナツメがもう一度立ち上がるキッカケになったのは、「カブラギと過ごした時間は本物だった」と気付けたからです。「体験」したことは絶対に消えないし、嘘じゃない。大切なのは世界ではなく、個人の生き様なのだ、と。だから最後のリニューアルされたデカダンスでは、外に出て、サイボーグの体のまま世界を「体験」するものになっていました。この主張は最近だと『レディ・プレイヤー1』でも言われていたことでした。後は「自分の人生を律することこそが大切」という結論には、不確定ばかりの人類へのちょっとした讃歌にもなってはいる。
 
 このように、テーマも良いし、意外性と王道を良いバランスで描いた脚本も素晴らしい。12話で描くという面では、申し分ない出来の作品でした。しかし、それであるが故に、「惜しい」作品でもあると思いました。1クールで上手くまとめたとは思うですが、2クールあれば、もっと深く描けることができただろうに、と思ってしまったからです。例えば、世界が自分の思っていたものと違っていて、何も信じられなくなってしまったナツメももっとしっかりと描けただろうし、システム側も紋切り型の「敵」ではない描き方もできただろうし、タンカー達のドラマも描けたと思うんだよなぁ。そしたら、本作はもっと厚みと深みのある良い作品になれたと思うのです。そのポテンシャルは十分にあったと思います。こんなことを思ってしまいましたが、全体としては十分良作でした。
 
 

 ゲーム世界の話。

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 立川譲監督作。

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