暇人の感想日記

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「止まっていた時が動き出す」傑作青春映画【サヨナラまでの30分】感想

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87点

 

 

 青春音楽映画です。普段ならば絶対に観ないタイプの映画で、公開直後もノーマークでした。公開後、高評価の感想を読んだりする機会はありましたが、普段ならばスルー案件。だって興味ないんですよ、こういうの。何が青春だよ、みたいな感じに思ってしまうんです。私は。それでも鑑賞した理由は、今年のキネマ旬報ベスト10号にあります。今年からベスト10号だけは買うことにしたのですけど、そこで日本映画のベスト10を見て愕然としました。批評家が選んだベスト10のうち、4本を観ていなかったのです。外国映画は1本を除いて観ていたことを考えると、如何に私が日本映画にノーマークだったかを思い知らされました。なので今年はなるべく日本映画を観るよう決心し、その一環として本作を鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみると、素晴らしい作品でした。基本的には根暗で人とのかかわりを避けているいつもの北村匠海が真剣佑の幽霊に出会って、そこから周囲の人間の時が動き出す!というありきたりなものなのです。しかし本作は、そのありきたりな物語を極めて完成度の高い脚本とずば抜けた演出力で描き、1級品の作品に仕上げていました。

 

 本作の演出は、本当に映画的なものだなと思いました。まず素晴らしかったのは、冒頭。説明台詞一切なしでアキ達が一番楽しかった時期を描き出しています。そして次は、「入れ替わり」のルール説明。これはカセットテープが回っている30分だけ入れ替われるというものなのですが、それをこれまた説明台詞なしで完璧に観客に理解させている。しかも「入れ替わり」も北村匠海という演技力の鬼の力をフルに活用させていて、同じショットの中で「普通の演技」と、「真剣佑が入った演技」を完璧に演じ分けさせているのです。

 

サヨナラまでの30分 (初回生産限定盤) (特典なし)

サヨナラまでの30分 (初回生産限定盤) (特典なし)

  • アーティスト:ECHOLL / Rayons
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: CD
 

 

 本作のメインストーリーは颯太の成長物語です。人間関係の構築が不得手な根暗な颯太が、幽霊のアキと出会って彼と二人三脚で就活を上手くこなしていこうとするも、人と触れ合い、アキから自立していきます。この辺はバディものの様相を呈しています。そして同時に、本作はアキという大きすぎる存在の喪失によって時が止まってしまっていた人たちが、もう1回動き出す物語にもなっています。本作はこの2つの物語の接続が上手い。これは脚本の力が大きいと思います。また、きちんと最初のシーンと最後のシーンが対になるように作られていて、物語そのものがそこへ結実するように動いています。そしてそこでの演奏が「颯太の自立」と「遺された者たちの自立」の二重の意味を持っているのもスマート。後、曲の歌詞とアキが消えるタイミングが完璧に一致していて、途中から、「自分たちの物語」になる点も素晴らしい。

 

 以上のように本作は、「ありきたりの極み」の物語を素晴らしい演出と完成度の高い脚本で作り上げた映画として非常に完成度の高い作品だと思います。興味のないジャンルなので、ストーリーそのものにはそこまでのれなかったのですけど、それでも感心しまくって観ていたことがその証左だと思います。あ、ただ、マジで苦言を呈するとしたら、颯太がECHOLLの皆と打ち解けていく下り。あんな陰キャが他人を下の名前で呼ぶような陽キャとあんなすぐに打ち解けられるわけないだろ。

 

 

 

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