暇人の感想日記

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主張は大いに買うけど、ちょっと苦手な映画【わたしは光をにぎっている】感想

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75点

 

 

 中川龍太郎監督に関しては、以前より名前だけは知っていました。というのも、監督の前作、『四月の永い夢』が公開されたとき、公式Twitterにフォローされたから。広報活動の一環だということは認識しつつも、フォローされたら妙に嬉しくなったので、鑑賞しようとは思っていました。しかし時間が取れず上映期間が終了してしまい、結局観れずじまい。ちょっと悪いことをしたかなと思ったので、上映規模が拡大した本作を鑑賞することにした次第です。

 

 監督はパンフレットで、本作を「10年後には存在しないかもしれない場所や人々の姿を残したい」という思いを念頭に置いて制作したと述べています。鑑賞すれば分かると思いますが、本作はそのままの内容になっており、半分ドキュメンタリーのような作品だなと思いました。

 

 本作の中心は松本穂香演じる澪の成長物語です。慣れない都会に出てきて、自分を出せない彼女が銭湯で働き、その中で自分の居場所を獲得していく物語です。そしてその過程で、周囲の人々の暮らしを描きます。この「周囲の街の人」というのがまず驚きで、実際の人を映しているのです。そして彼ら彼女らはとても暖かい。光石研さん演じる銭湯の番頭もつっけんどんながらも何だかんだ澪のことは気にかけています(要はツンデレ)。冒頭で澪に無関心だったスーパーの店長や、クレームを入れるおばさん、余裕の無さそうな店員と比べれば、天と地です。

 

 そんな温かい彼ら彼女、そして澪が手に入れた居場所を、都市開発が奪っていきます。それは主には2020年の東京オリンピック(結局延期になったけど)であり、それ以外の開発でもあります。つまり本作は、「古くからある場所が都市開発やその他の理由からどんどんなくなっている」という、1970年代くらいから山田洋次がずっと描いてきたことをやっているわけです。しかもそこにいる人たちは優しいという『男はつらいよ』的なオマケまでついている。今でも全く問題が変わっていないんだなと思わせられました。

 

男はつらいよ HDリマスター版(第1作)

男はつらいよ HDリマスター版(第1作)

  • 発売日: 2014/12/17
  • メディア: Prime Video
 

 

 本作で救いがある点は、そういう人たちがその場所で培ったことは消えないと言い切った点。それこそがタイトルの意味なので、たとえ踏みにじられても、そこでの記憶や思いという光は生き続ける。それは絶対に無駄にはならない。それこそが本作で描いたことだったと思うのです。こう考えれば、澪を社会では馴染めない人間であり、そんな人間を受け入れる社会であったあの空間を大切にすることの重要さも描いていると思います。

 

 描いていることは素晴らしいし、監督の技量も分かります。しかし、私は本作が苦手です。何というか、ショットやシーンから、監督のドヤ顔が伝わってくるのです。本作は撮影が非常に美しく、私のような人間の目から見ても良いなと思えるシーンがいくつもあります。しかし、それが鼻につく。監督の「どう、俺、こういうショットできるんだぜ」「どう、美しいでしょ」というのがチラつくのです。もちろん本人はそんなこと思っていないと思うのですけど、私が勝手にそう思ってしまうというだけです。加えて、内容もぶっちゃけドキュメンタリーで良いような気がしないでもないものの気がして、そこまで乗れなかったです。後は物語の構造が完全に『男はつらいよ』的なのはどうなんだろうね。良い映画だとは思います。

 

 

失われた場所にいる人間が、失われた人間を思い出す映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 別の意味で美しい映画。

inosuken.hatenablog.com