暇人の感想日記

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驚異的な技術によって成し遂げられた特別な映画【1917 命をかけた伝令】感想

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87点

 

 

 サム・メンデス×ロジャー・ディーキンスが挑んだ(疑似)ワンシーン・ワンショットの戦争映画。この撮影手法は、古くはヒッチコックの『ロープ』、最近では『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ軌跡)』でも行われていたものです。企画発表当時はこの気が狂ったような内容に興味が湧きましたし、何よりサム・メンデス×ロジャー・ディーキンスの最新作ですから。『スカイフォール』が好きな身としては見逃せないと思い鑑賞した次第です。

 

 本作は1人の名も無き兵士の地獄巡り映画です。この点は同じく地獄巡り映画である『地獄の黙示録』や『プライベート・ライアン』を彷彿とさせます。本作がこの2作と違う点はもちろんワンシーン・ワンショットである点。常にカメラが移動しているのに画面がいつもバシッと決まっている点や、後半の夜のシーンの宗教画の様なとてつもなく美しい映像は観ているだけで「これどうやって撮ってるんだ」と楽しむことができます。特に私は後半の燃え盛る街並みのシーンが映ったときは何とも言えない興奮を味わいました。

 

 

 そして、もう1つワンシーン・ワンショットが機能している点があるなと思った点は、戦場における突発的な出来事の演出。例えば、本作に出てきた戦闘機が墜ちてくるシーンとドイツ軍の塹壕でのシーン。普通の映画ならばカットを割るなりしてスリリングな演出をしていると思うのですが、本作では視点が地上にいる兵士に固定されているため、「兵士が気付いてから墜ちてくるまで」をリアルタイムで実感させることに成功しているのです。また、その後の戦友が死んでいく下りもそれを最初から最後までしっかりと映していきます。このように、本作には戦場で起こったことを時間間隔まで含めて観客に「体験」させることができているのです。そしてその「体験」は感情にも言えて、主人公がどういう感情の推移があったのかまで描きます。それが炸裂したと感じたのが終盤のラスト・ランでした。私はIMAXで観たので、その臨場感、迫力、映像美を心ゆくまで堪能できました。

 

 そして本作を観てもう1つ感じたことは、本作の中にある「映画的な」ことです。本作の最初と最後がループ構造になっている点や、時間が連続しているはずなのに(中盤、暗転したけど)、明らかに時間の流れがおかしい点などがそうです。つまり、何というか、ワンシーン・ワンショットで登場人物の行動は連続しているように見えるのだけれど、時間の流れがおかしい。この不思議な感じは映像でしかつけない嘘だなと思い、そこが非常に興味深かったです。そしてラストのループ構造を暗示させる終わり方も、映像的な面白さを感じました。とても抽象的な感覚なので上手く言語化できないのですけど、本作は映像的な「リアル感」と「嘘」をついていて、それが本作を「戦争映画」ではなく、どこか違うアクション映画にしている作品なのかなと思いました。

 

 確かにワンシーン・ワンショットの弊害で本作そのものがゲームみたいに感じる点もありますし、史実と違うという指摘も分かります。でも、そこは『彼らは生きていた』を観ていただくってことで、本作はエンタメ作品として楽しめばいいと思います。

 

 

 ロジャー・ディーキンス撮影作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくイギリス軍の映画。

inosuken.hatenablog.com