91点
大橋裕之先生原作の漫画「音楽」のアニメ化作品。監督は岩井澤健治さん。プロデューサーは公開当時、そして映画秘宝休刊号発売当時、中々に(個人的には)無神経だと感じる声明文を発表した松江哲明さん。本作は岩井澤監督が7年5カ月の歳月をかけてスタッフ達と共に完成させたそうです。そういうガッツある挑戦は応援したいし、何より各方面から絶賛の声が聞こえてきて、鑑賞意欲をそそられ、上映館が職場から近いということもあり、鑑賞しました。
鑑賞してみると、本当に素晴らしい作品でした。ストーリー的には「ボンヤリとした日常を送っていた不良高校生が音楽に目覚め、フェスに参加する」というものなのですが、「音楽をやる」という初期衝動を具体的に映像化した作品だったのです。
主人公が「音楽」を始めたとき、仲間と共に行ったのは、楽器で「音」を出すということでした。この最初の「音」の衝撃が素晴らしかった。劇場で聞いたため、本当に「音」の衝撃を肌で感じ取ることができたのです。現在はコロナで難しいのですけど、この点だけでも、本作は映画館で観るべき作品だと思います。
そして何より、アニメーションが素晴らしい。音楽と、そこから受けた衝撃を具体的に描いています。例えば、古美術の森田が初めて古武術の音楽を聴いたときの衝撃、そして研二が受けた衝撃、さらにはラストのフェスでの「昇天」シーン。どれも音楽をやる喜びと快感、そして衝撃に満ちています。これはアニメーションの表現の多様性が存分に発揮されていて、上述のシーンの他に、森田がフェスで「燃え尽きる」下りとかも含め、アニメーションでなければ描けないことだと思うのです。
つまり本作は、「音」を聴いたとき、弾いたときに感じる感動や衝動をアニメーションと音の力で持って具体的に我々に提示させた作品だと言えます。他にも、全体的にオフビートな笑いが最高だったとか、ロトスコープの手法がバッチリ合っていたとか、素晴らしい点はいくらでもあります。それだけに松江監督のやつは惜しいなぁ。作品は素晴らしいです。
別の側面から「初期衝動」を描いた作品。
音楽の映像化作品。