暇人の感想日記

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『シャイニング』を事実上作り直した作品【ドクター・スリープ】感想

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80点

 

 

 1980年、スタンリー・キューブリック監督によって映画化された、スティーブン・キング原作の『シャイニング』。本作は、現在ではホラー映画の古典的名作として知られている『シャイニング』の約40年振りとなる続篇。原作はもちろん、スティーブン・キング。私は『シャイニング』は観ていましたけど、よもや続篇が作られるなどとは思っていませんでした。しかも、『シャイニング』は原作と映画版とで、キングとキューブリックの確執となってしまっています。この折り合いをどうつけ、「続篇」を作るのか、気になったので、原作の「シャイニング」を読んだうえで鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、原作とキューブリックの映画版の双方の折り合いを見事につけてみせた作品で、非常に感心しました。しかしそれ故に、少し引っかかる点があったのも事実です。

 

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

 

 

 キングとキューブリックの確執とは何か。映画ファンの間では有名な話だと思いますけど、それは原作との結末の違いです。原作は同じくアルコール依存症に苦しむジャックがオーバールックホテルの悪霊たちに心を乗っ取られることで、家族を皆殺しにしようとするホラーでした。これはキング自身のアルコール依存の体験をもとにして書かれた小説で、キング自身が感じていた恐怖をそのまま書いたそう。だからか、最後にはジャックは悪霊たちに打ち克ち、ダニーへの愛を表明してハッピーエンドを迎えます。つまり、原作はホラーであると同時に、1つの家族愛の物語でもあったのです。

 

 翻って映画版はどうかといえば、ご存知の通りジャック・ニコルソンの鬼気迫る演技が強烈で、「悪霊に乗っ取られたから」ではなく、どちらかといえば自分から狂っていった印象を受ける作品で、しかもラストではオーバールックホテルに取り込まれてしまい、ダニーへの愛も伝えずに終わるという、真逆の結末を迎えます。この結末にキングはブチ切れたのです。

 

 そこで、本作は映画版の『シャイニング』の続篇という体裁をとりながら、キングが映画版でブチ切れた点を上手く軌道修正している作品です。

 

 

 ダニーはトラウマを抱え、父親と同じくアルコールに依存し、自堕落な生活を送っています。そんな彼がアブラという少女と交信したことから本作は始まります。彼はまだ40年前の出来事を引きずっているのです。これは映画版の結末を考えれば納得です。そして本作は、「シャイニング」の結末で、映画版でできなかった「アルコール依存症の男が子どもを救う」ということ、そして「愛」を知るということをやり遂げています。そしてそれがダニー自身のトラウマの克服と救済に繋がり、オーバールックホテルは全焼します。これらは原作の「シャイニング」の結末とほぼ同じです。つまり本作は、映画版の『シャイニング』を否定せず、ある意味で『シャイニング』という作品をキングが望むように作り直した作品であるとの言えるのです。これはとてつもないことだと思います。マイク・フラナガンはよくやったと思います。

 

 この点は凄いと思うのですが、引っ掛かる点があるのも事実。というのも、キングが「作り直させた」感が強いからです。映画版の先で、原作と同じ結末を描く。これは『シャイニング』という作品を「上書き」する行為で、キングが自分が気に入らない作品を自分が望むように作り直したと見えてしまい、そこにモヤモヤを感じました。「そこまで嫌いなのかよ」って。

 

 以上のようなモヤモヤを感じつつも、この超絶アクロバティックな結末をやってのけた点は素直に凄いと思いましたし、他にもサイキック・バトルの抽象的な現象をビジュアル化してみせた点も良かったなど、観るべき点は多々ある作品だと思います。

 

 

「作り直し」という意味で、似た作品。

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 キング原作の大ヒットホラー。

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