暇人の感想日記

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問題もあるけど、パニック映画として普通に面白い【AI崩壊】感想

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65点

 

 

 『22年目の告白』『ビジランテ』を監督した、入江悠監督のオリジナル作品。近年の入江悠監督の作品は私が鑑賞した範囲ではどれも素晴らしい作品で、監督の作品は必ず観る、というほどではないのですが、時間の余裕があれば観ようかなと思ってはいます。本作も、予告から漂う何とも言えない「大作日本映画」な感じに危険な匂いを感じていたのですけど、思えば『22年目の告白』も大作でしたし、入江監督のインタビューも読んだりすると結構力を入れて作ってるみたいなので、ひょっとしたらひょっとするかもしれないと思い、鑑賞しました。

 

 結論から書くと、何といいますか、良くも悪くも映画秘宝のインタビューで監督が好きだと言っていた80年代パニック映画みたいな雰囲気の作品で、頑張っている点もあるのですけど純粋な出来そのものに関しては「微妙」な作品でした。酷評するほどではないですけどね。言うならば「鑑賞しても別に損はしないけど得もしない」な作品です。

 

22年目の告白-私が殺人犯です-

22年目の告白-私が殺人犯です-

  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: Prime Video
 

 

 まずビックリしたのは、予告で散々強調されていた、「AIが人の命を選別する時代」というもの。これ別に社会システムとして最初からそうなっているのではなく、AIが暴走してそうなった、というだけの話でした。私は本作はこういうシステムの社会を描いたディストピアSFだと勘違いしていたので、知ったときは「違うんだ」とやや拍子抜けしました。

 

 拍子抜けはしたのですけど、主人公が犯罪者として特定され、逃げていくという状況が組み立てられていく最初の1時間はとても楽しく観れました。医療AI「のぞみ」の誤作動によって次々にシステムが壊れ、パニック状態が作られていくくだりは正直言ってかなりワクワクしましたし、そこからの逃亡劇も(警察官が皆ポンコツというのは置いても)、中々しっくりくる理由で監視の目をかいくぐって逃げていました。こういう大規模なパニック映画というのは日本映画では中々作られず、作られても理屈とかがアレな出来の作品が多いので、この点がしっくりくるのは好印象です。また、カークラッシュの車とか「のぞみ」のセットは本物を使っており、頑張りが随所に観られるのもポイント高いです。

 

 さらに、最先端のAIに対するアナログというテンプレもしっかりやってくれます。これに関しても警察官が無能である点は置いときます(ただ、この点に関してはAIに頼り切りだと肝心なことを見逃すという描写ともとれますが)。その代表格が三浦友和演じる老刑事で、前時代的な足を使う捜査と若干のセクハラ発言で広瀬アリスと捜査をします。この点も良かったです。

 

 

 そして本作には、現在の日本の社会問題を反映させた内容も盛り込まれているのもポイント。入江監督は自身の監督作では社会問題を盛り込むことが多いため、それが今回も発揮されています。真犯人の目的は思想的な意味で今のマイナンバー利用をさらに凶悪にした完全な監視社会のそれですし、副総理が進めている政策は露骨な選民政策です。現在の日本では制度上ではこんな露骨なことにはなっていませんが、ネット上の発言とか現内閣が進めている政策(社会保障の部分的な削減とか)を見るとこういうことをしたいんだろうなと思ってしまうことが何回もあり、世の中の空気的にも「自己責任」の空気が蔓延しているので、この映画で描かれていることが現代社会の隠喩に思えてしまいました。

 

 このように、社会問題をしっかりと描き、パニック映画としても中々の面白さもある本作ですが、後半から展開がもたつき気味になり、一気に失速していきます。松嶋菜々子のシーンの使いまわしはくどいですし(3回目はちょっと笑った)、真犯人の特定の下りは犯人が証拠もないから黙ってりゃいいのにべらべらと動機を話しだし、しかもそれが中継されて犯行がバレるっていう「お前本当にAIのスペシャリスト!?」って思ってしまう昭和展開だし、そもそもその目的達成のために今回の事件は起こす必要が無いのではとか、最後は台詞の応酬で演説合戦になるし、特殊部隊は銃撃ち過ぎだしと、突っ込みどころも満載です。ラストのアレも冗長だなと思いました。

 

 以上のように、頑張ってはいるけど作りが甘いなと感じた映画でした。もう1度書きますが酷評するほどではなく、値段分には楽しめます。

 

 

入江監督の作品。こっちは本当に傑作です。

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 AIが暴走するとこうなる?な世界。

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