暇人の感想日記

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ギリアムの新たな決意表明【テリー・ギリアムのドン・キホーテ】感想

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80点

 

 

 1989年に企画が立ち上がるも、公開までの30年間、実現しそうになるたびに様々な理由で延期になり、「映画史上もっとも呪われた企画」とまで言われた本作。私は「ドン・キホーテ」については内容くらいは何となく知ってはいますけど、それでも私にとって「ドン・キホーテ」のイメージとは、有名な風車に立ち向かっていくものくらいです。他にも思い出深いのは大学時代にマクロ経済学の教授から講義中に「ドン・キホーテなんてものはですね、皆さん、高校生の時に読んでなきゃいけないんですよ!読んでないでしょ?」と言われたことくらいですね。しかしそんな私でも映画となれば話は別です。しかもそれが30年間全く完成しなかった「呪われた企画」とくればさらに鑑賞する気は増してくるというもの。というわけでテリー・ギリアム監督の初期3部作を鑑賞してから本作を鑑賞しに行きました。

 

 初期3部作を観ていたのが良かった。本作は、この3作に非常に強く通じる内容を持った作品だったからです。ここで言う「初期3部作」とはつまり、『バンデットQ』『未来世紀ブラジル』『バロン』の3作です。この3作に共通している点は、「管理され、統制された世界からの解放と逃避」だと思います。『バンデットQ』は管理されて、夢も自由に見れない子どもが平社員みたいな小人と共に神に反逆し、最終的に現実世界で「自由に」なる話でしたし、『未来世紀ブラジル』は「1984年」のようなディストピアで生きる小役人が最終的にそこから「逃避」する話でした。中でも一番近いのは『バロン』だと思っていて、あの作品は演劇の中の登場人物、バロンが出てきて少女と一緒に旅をして仲間を集めて現実の敵を倒すという、「空想が現実を超える」話でした。

 

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 そこで本作を観てみると、やるせない現実世界で夢破れて情熱を失っているトビーが、自らをドン・キホーテだと勘違いしているハビエルに付き合っていくうちに彼に感化され、現実を超越して情熱を取り戻し、自身も夢を追う=巨人に立ち向かうことを思い出すという話になっています。つまり「かつてドン・キホーテだった青年が再びドン・キホーテになる」話。この点で本作は非常に「テリー・ギリアム的」なのです。

 

 本作のストーリーにはもう1つの側面があると思っていて、それは本作の構造そのものが本作を制作する過程で起こったことが基になっているであろうと思わせられる、1種メタ的な構造を持っている作品だということです。トビーは情熱をもって映画監督になりたいと思っていたけどプロデューサーの横やりとかスポンサーとかで散々な目に遭い、自分の思うように作品を撮ることができない。だから情熱を失っているわけです。これは映画会社と戦って作品を作ってきたギリアムの経歴とそのまま重なります。そして、だからこそラストのトビーの再出発は非常に感動的で、あれがギリアム自身の再出発の所信表明に移ります。「俺は映画という「巨人」に立ち向かう。俺はまだまだやるぞ!」っていう。

 

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 その他では、やっぱりトビー役のアダム・ドライバーが素晴らしかった。ここ最近の彼の活躍ぶりは本当に凄いのですけど、本作に関してはコメディリリーフに徹していて、ちゃんと笑えるんです。ハビエルの妄想に対して的確かつ冷静なツッコミを入れる下りは完全に漫才です。

 

 ストーリーに関してはかなり散漫な印象。これは本作に限ったことではないのですけど、やっぱり私には慣れないなと思いながら観ていました。また、女性の描き方も近年の潮流からしてこれでいいのかなと思うところはありました。

 

 以上のように、問題点はありつつも、本作は頭のてっぺんからつま先まできちんと「テリー・ギリアム」であること、そしてギリアムの所信表明を観ることができたので、私は満足です。

 

 

アダム・ドライバーが凄い映画。

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 アダム・ドライバーが凄い映画その②

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 これも妄想映画か。

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