暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2019年秋アニメ感想④【星合の空】

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 「ヤマノススメ」でお馴染みのエイトビット制作のオリジナルアニメーション。監督は『コードギアス 亡国のアキト』、『天空のエスカフローネ』の赤根和樹さん。実力のある監督が制作するオリジナル作品というのは、まぁ微妙なものもあったりしますが、監督の気合いが感じられる力作が多い印象があったこと、そして制作会社のエイトビットに関しては「ヤマノススメ」を作ったということで実績もあるという2つの理由から視聴を決めました。

 

 視聴してビックリしたのは、本作はただのテニスアニメではなかったこと。全体的なストーリーは「廃部寸前の弱小テニス部が奮起して成長していく」という王道なものですが、他のアニメとは一線を画している点もある作品だったのです。

 

ヤマノススメ 新特装版 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: アース・スター
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: Blu-ray
 

 

 衝撃は1話から襲ってきました。本編は全体的にクールな演出と気持ちのいいアニメーションの動き、そして眞紀と柊馬という性格が全く違う2人が信頼を結び、コンビになるという王道のストーリーと、極めて良い出来でした。「ここから彼らの物語が始まるのか」と思っていた矢先のCパート、DV元夫が部屋に押し入り暴力をふるいさらに金を奪っていくという衝撃の展開が起こったのです。そしてこれは眞紀の家庭だけかと思っていれば、何とこの作品、出てくる親が毒親ばかりばかりなのです。その程度は様々で、「自分の思い通りの道に進まなかったが故に息子に辛く当たる」という王道なものから過剰に息子に干渉するモンペア、息子を徹底的に嫌悪する親まで多岐にわたります。本作は作品全体に占めるこの毒親の比重が極めて高いのです。

 

 私はこの点について、アニメ作品の中では中々ない内容だなと思いました。というのは、今日制作されているアニメ作品には、「親」の要素が極めて希薄だからです。この手の青春アニメだと、問題とか葛藤は少年少女の間で生まれるもので、そこに「親」はほとんど関わってきません。仮に関わったとしても、役割は何らかの障害程度で、どのみち本筋とは微妙に逸れた役割でしかありません。しかし本作の場合、そこからさらに踏み込み、現実で起こっている限りの最悪な事例を見せつけてきます。ここで「親」の存在は障害でも人生の指南役でもなく、ただの「逃れられない恐怖」以外の何物でもありません。「家族」なのだから、未成年である彼らは庇護下に置かれるしかないのです。だから逃げようにも逃げられない。まさに、家族という地獄。

 

葛城事件 [Blu-ray]

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 ここまで考えると、本作におけるテニス部の存在理由が明瞭になってきます。それは彼らにとっての安らぎの場所。学校が全体としては安心できない場所であるのは変わらず、未成年にとっての安全地帯である家も恐怖でしかない。そんな彼らにとって、仲間だけの、一種隔絶されたあの部活という空間は、唯一安心できる居場所なのです。

 

 こういう社会派的な側面を持っている本作ですが、青春スポーツものとしてももちろん面白いです。まずはテニス描写です。フォームが非常に正確に描かれ、そこからの動きも(種目は違えど)「はねバド!」とは違い、とても気持ちのいいものです。そして大まかなストーリーは弱小テニス部に眞紀という天賦の才を持つ初心者が加入し、もう諦めているテニス部メンバーと衝突しながら成長を促していくというもの。眞紀の天才っぷりは清々しいほどなので何か納得してしまいますし、諦めていたテニス部メンバーが眞紀に触発されてやる気を取り戻し、結束を強めていく姿は王道のそれです。強くなる過程もトライ&エラーを繰り返すなどの描写を丁寧に入れており、好感が持てます。

 

 そしてこの「諦めている」点も重要なのかなと思っています。5話で眞紀の父親がこんなことを言います。「努力したって無駄だ。お前は俺の子だから俺みたいになる」と。テニス部のメンバーは子どもです。あの父親とは違い、まだまだ可能性があります。「諦めていた」彼らは再起し、強くなり始めています。彼らの姿があの父親と対比されている気がするのです。つまり本作は、テニス部しか居場所のない少年少女達が互いに寄り添いあって諦めずに成長していく物語なのだと思います。続編があれば是非見たいと思っています。

 

 

 バドミントンアニメ。こっちの動きも凄い。

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