暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

ラストで台無し【スペシャルアクターズ】感想 ※ネタバレあり

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53点

 

 

 昨年、『カメラを止めるな!』の大ヒットにより、一躍時の人となった上田慎一郎監督。おそらく、今映画界で最も次の作品が待ち望まれている彼の最新作です。私も突如として現れたこの監督の作品は、同じ時代を生きている者として出来るだけ追っていこうと思っており、この度鑑賞した次第です。

 

 しかし、鑑賞してみると、少しイマイチに感じてしまう作品でした。確かに、前半に感じたつまらなさは中盤のどんでん返しでチャラになりましたし、『スティング』のようなケイパーものの作りも良い。しかし、ラストの大どんでん返しで全てが茶番に思えてしまうという作品でした。

 

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 本作について調べてみると、前作『カメラを止めるな!』と非常に近い作品であることが分かります。役者はほとんどの方が無名、若しくは初挑戦である点、そして役者を魅力的に撮っている点、おそらく低予算である点、どちらも「フィクションの力」を扱っている点、最初がつまらない点、そしてどちらも大どんでん返しがウリである点。こうなると二番煎じ感が出てきそうなものですが、本作はそれに陥っていません。それは本作が『カメラを止めるな!』とはジャンルが少し違うためだと思います。

 

 本作は、『スティング』のようなケイパーものと言えます。「スペシャルアクターズ」の業務内容や、あっと驚くどんでん返し、そして圧倒的な力を持っている相手をこちらのチームワークと知恵で騙して壊滅させる、というストーリーはそのまま当てはまります。

 

 監督の前作『カメラを止めるな!』と本作が違う点はまさしくここだと思います。どちらもどんでん返しを作品の重要な要素としていましたが、あちらは映画製作の裏側を描くことで作品そのものの内容をがらりと変えてしまう作品だったのに対し、本作は(少なくとも中盤までは)ケイパーものというジャンルの範疇のどんでん返しだったと思います。

 

 本作は、主人公、和人の自己実現とちょっとした成長の話です。彼は子どもの頃に見ていた「レスキューマン」という特撮ヒーローものの大ファンで、その影響で役者をしています。だからこそ最後でレスキューマンになって大立ち回りをする(と言う大芝居)展開は彼の自己実現がなされた瞬間であり、同時に、「信じる」ことで過去のトラウマを取り払った瞬間でもあるので、感動的なのです。

 

 

 そしてここで重要なのが、この大芝居で崩壊させるのが、「信仰」をビジネスにしている悪徳新興宗教である点。そう、本作は、芝居という人々に「本物である」と思わせるもので、「信仰」を食い物にしている連中を打ち倒すという話なのです。このあたりの「フィクションについての物語」については、『カメラを止めるな!』と同じものを感じます。つまり本作は、「フィクションで救われた人」の話なのです。

 

 ここまでは良いんです。最初こそはつまらないなと思いましたが、中盤の展開で盛り返しましたし、痛快な内容でした。ただ、だからこそラストはいただけません。ラストはこれまでの話が全て弟が和人のためにやった「大芝居」だったことが判明します。これは作品の構造そのものを覆すまさに「大どんでん返し」ですが、これにより私には、本作そのものが茶番に思えてしまいました。これが弟が和人のいない場所で暴露するとかならまだ良かったのですが、発見するのが和人なので、これまでのことが全て無駄になってしまう気がします。

 

 また、あのラストを観て思い出したのが、映画秘宝柳下毅一郎さんが言っていた「どんでん返しをされるたびに、映画の独自の飛躍がなくなっていく」という『カメ止め』評。私は『カメ止め』ではそこまで感じなかったのですが、本作ではこの言葉がしっくりきました。せっかく「悪徳新興宗教を打ち倒す」という痛快な、フィクションでしかできないようなことをやったのに、それを全て「嘘でした」と言ってしまうというのは、映画そのものが矮小化されてしまった気がします。

 

 以上のように、ラストまでは楽しめました。次作、待ってます。

 

 

 監督前作。こっちは好き。

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 ダメダメケイパーもの。

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