暇人の感想日記

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完全なる「焼き直し」で、シリーズの限界が露呈した作品【ターミネーター:ニューフェイト】感想

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65点

 

 

 権利関係の問題で、『ターミネーター2(以降、『T2』)』以降、制作からは離れていたジェームズ・キャメロンが復帰し、あの傑作『T2』の「正当な続篇」として公開された本作。『T2』が公開されたのは今から28年前ということと、『T2』で上手く物語が終わっていたことを考えれば本作を作る意味はあるのかなと思いました。しかし、今から16年前に公開された「『T2』の続篇」である『ターミネーター3(以降『T3』)』をクソミソにけなし、『ターミネーター/新起動』を「これこそが私にとっての『ターミネーター3』だ」と明言したキャメロンが、それら全てを「無かったこと」にしてまで作り上げた本作はどのようなものになるのか、興味が湧いて鑑賞しました。

 

 結論から述べると、本作は微妙でした。普通のアクション映画としては中々でしたが、内容は良くも悪くも1作目と2作目の焼き直し作品であり、シリーズの「語り直し」的作品でした。ただ、それ故にシリーズの持つ限界が表面化してしまい、同時に過去2作の素晴らしさが際立ってしまう作品だったと思います。

 

 

 この『ターミネーター』シリーズの弱点とは、『T1』と『T2』で、それぞれ別個に話が完全に終わっている点です。それ故に、直接の続篇を作ろうとすれば、過去作の否定か、リメイクからしか入れず、『T3』のような作品が生まれるわけです。そしてそれ以外でやろうとすれば、『T4』のような未来の話か、『新起動』のようなリブートしかあり得ないのです。これは『T2』も例外ではなく、あの作品も『T1』の内容を反転させた、事実上のリメイクとなっています。それでも『T2』が突出して素晴らしいのは、「審判の日を回避する」というハッピーエンドを用意できたこと、当時最先端の映像技術と、それらを上手くまとめたキャメロン監督の卓越した演出手腕の賜物でしょう。

 

 「『T2』の正当な続篇」と銘打っている本作も、凄まじい既視感に満ちています。話の流れは『T1』を軸にして、『T2』の要素を補強として入れ込んだという感じで、内容以外にも過去の名シーンの再現がとても多く、「ターミネーターベスト盤」といった感じです。故に本作は、上述のカテゴリーに当てはめるならば、「リメイク」に該当すると思います。

 

 しかし、本作はただのリメイクではなく、シリーズそのものを現代的にアップデートした「語り直し」の映画です。基本的に本作の内容は、過去作の「焼き直し」ですが、中身は所々違います。まずは、本作のサラ・コナー的な役割であるダニー。本作は彼女の成長物語です。これは『T1』も同じですが、重要なのは彼女の存在意義。サラ・コナーの場合は彼女よりも、彼女が生むはずのジョン・コナーの方が大切な存在でした。しかし、今考えれば、これはかなりひどい考え。要はサラ・コナーを「ジョンを産む」存在としか観ていないのですから。本作ではその辺はアップデートされていて、ダニーそのものが大切な存在となっています。

 

 

 また、ダニーの成長ぶりも良くて、ラストでターミネーターを倒す下りは、「何者でもない少女が、立ち向かう意志を持った」ということであり、昨今流行りの「強い女性」をストーリー的にも自然に見せていました。「護られていた存在が、護る側になる」というのは『T1』と同じですが、本作では、それを女性同士にすることでアップデートしています。ラストの車も「乗せてもらう」のではなく、「誰かを導く」ことの隠喩だと思います。

 

 また、本作の「敵」も言いたいことはあるけど、現代的になっていると思います。AIの暴走であり、人と人を分断させる存在というのは言うまでもなくトランプ大統領以降、世界に蔓延しつつある情勢を背景にしてでしょうし、それに対して、メキシコ人、白人、強化人間、ターミネーターが力を合わせて戦うというのは、分断に対する抗いとして映ります。

 

 つまり本作は、やっていることは1,2作目と同じなのですが、中身は現代的にアップデートされていて、新3部作という構想も相まって、『ターミネーター』という作品そのものの語り直し的な意味合いが強くなっているのです。

 

 コレ自体はいいです。ただ、本作は脚本にだいぶ穴がある気がします。まず冒頭のアレですが、スカイネットの未来は回避したはずなのに、何でターミネーターがいるのでしょうか。これは監督のティム・ミラーが本作を「ジョン・コナーの物語ではなく、サラ・コナーの物語にしたい」という想いからくる処置だと思いますが、にしたって矛盾がある気が・・・。俺の鑑賞不足かな。後、新たな敵についても、「人類を襲う理由」が明確に語られていないのも気になりました。多分スカイネットと同じなんだと思うけど。というか、敵を倒す方法が『T3』と同じだし、敵も「スカイネットの代わりがそれ?」って感じなので、『T3』でよかったんじゃね?って思いがあります。キャメロン、『T3』をあんだけディスってたのに・・・。

 

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 後、全体的に「見せ場のための展開」が多かった気がしていて、注目の「I`ll be back」だって、シーン自体は最高で、気分も上がったんですけど、無理矢理感が結構あったし、弟の自己犠牲もとってつけた感が凄かったです。

 

 他にもT‐800が何の説明もなく良い奴になってたのも気になる。これは『T2』的ではありますが、過程がなくこれでは納得できん。後は彼の能力の都合が良すぎるとかサラ・コナーの活動内容とか色々適当すぎて、突っ込みたいところはありますよ。誰が脚本やってるのかと思って調べたら『バットマンVSスーパーマン』のデヴィット・S・ゴイヤー。なるほどね。 このグズグズのせいで、『T1』と『T2』がどれだけ良くできていたのかが分かってしまいます。

 

 ただ、良いところも実はあって、サラ・コナーです。「口の悪い婆さん」がハマりまくってて、めっちゃカッコよかった。最後まで観られたのは彼女の存在がとても大きいと思います。また、新キャラのマッケンジーデイビスも素晴らしかった。鎖を使って戦う下りはやっぱりカッコよかった。

 

 このように、「語り直しとしてのリメイク」ならば中々面白いと思いますが、如何せん脚本がグズグズなので、総合的には微妙という結論に落ち着きました。3部作構想ということで、新しい事は次作以降に出てくるのでしょうが、興行的には今のところ大コケみたいです。次作が作られる「未来」はやってくるのでしょうか・・・。

 

 

 続篇でありながら、こちらは大ヒットしました。そういえばこの作品が公開された年は『ターミネーター:新起動』も公開されましたね・・・。

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 てらさわホーク氏の名著。過去4作の批評も載っています。

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