82点
あの傑作TVドラマ「ブレイキング・バッド」の劇場版作品。TVドラマの頃から画面構成、演出と、「映画」と呼んでも差し支えないレベルの作品でしたが、とうとう本当に映画になってしまいました。とは言え、Netflix作品なのですが。私はTVドラマは結構熱中して最後まで見ていたので、直接的な続篇である本作を観ない理由はないだろうと、台風が通過した12日の夜に鑑賞しました。
鑑賞してみると、本作は「ブレイキング・バッド」では描かれずに終わったジェシーの物語をきちんと完結させ、彼の新しい始まりを描いた見事なエピローグでした。
私は、「ブレイキング・バッド」というTVドラマは、「終わり処を見つける」話だったと思っています。ウォルター・ホワイトという平凡な高校教師が、余命を知ることで麻薬製造に手を染める。最初は家族に生きていけるだけの蓄えさえ残せればいいと思っていたのが、事態がどんどん大きくなっていき、果ては麻薬カルテルと戦争を起こすことになる。こういったクライム・サスペンスを軸にしながら、ケイパーものミドルエイジ・クライシスや家族の絆についての物語等々の要素が複雑に絡み合い、それが素晴らしいドラマを生み出していました。
多くの要素を内包している作品ですが、TVドラマ中心にあったのは、ミドルエイジ・クライシスであり、それに伴う「終わり処しか決められない」中年男性の(作中に出てくるのはほぼ男性のため、敢えてこう書かせていただきます)悲哀でした。だから物語は、当然の帰結として、「ウォルターの死」という終わりに向かいました。
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これはこれで1本の筋が通った、素晴らしい完結でした。しかし、まだジェシーが残っていました。本作は、ジェシーの物語を、ウォルターとはまた違った意味で完結させ、シリーズ全体に仄かな希望を抱かせるものにしていたと思います。
ジェシーとウォルターの違い。それは若さです。TVドラマでは、この年齢差が、2人を師弟関係にも、相棒にも、疑似家族にも見せていました。しかし、ウォルターはそれ故に「終わり」しか決めることができませんでした。翻って、ジェシーには若さがあります。本作では、彼が自分自身で「ジェシー・ピンクマン」という存在に終止符をうち、新しく人生を「始める」までを描きます。これには終始状況に流されるだけだった彼の、確かな成長を感じさせます。
そしてこれは、ウォルター、引いては「ブレイキング・バッド」という作品の帰結とは正反対のものです。つまり本作は、エピローグとして、本筋とは違う「未来」の話を描いたのだと思います。あのシーンでウォルターを追い越したように、ジェシーはこれからもウォルターにはできなかった、彼の人生を送っていくのだろう。そう思いました。これからの彼の人生に、幸多からんことを祈ります。
メキシコのカルテルと戦う映画。
こちらもクライム映画。大分雰囲気違うけど。