暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2019年冬アニメ感想⑦【ケムリクサ】

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 2017年に「けものフレンズ」を発表し、彗星のごとく現れたアニメーション監督、たつき。「けものフレンズ2」を降板させられた彼が次に放った作品が、本作です。始まる前はよく分からない内容でしたが、あのたつき監督が制作するわけですから、見ないわけにはいきません。監督は1発当てた次の作品が勝負という風潮もあるので、果たして「けものフレンズ」の成功はまぐれだったのか実力だったのか、見定める意味も兼ねて視聴しました。

 

 全話視聴したうえで結論を先に述べてしまえば、私はたつき監督の実力は「本物」と言っていいのではないか思います(←偉そう)。つまり、本作はちゃんと面白かったのです。内容は要するに「再び出会うまでの物語」だし、「好き」についての話でした。

 

 

 ただ、第1話を見たときは「何これ?」を首を傾げました。最初に出てきたりん、りつ、りなの3人は得体のしれない化け物と戦っているし、りなは死んだかと思ったら複数人いて元気にしているし、こいつらの話なのかと思っていたら突然わかばが流されてくるし、しかもわかばの見た目は完全に人間なのに、「ヒトじゃない」と断定するし、かと思ったら1話の最後でりんとわかばにフラグが立つしで、何が何やらさっぱりわからなかったからです。しかし、内容は分からないながらも、他の作品との連想はできました。この1話って、「けものフレンズ」の1話とそっくりなのです。それから一行が旅に出るところも似通っています。

 

 分からないだらけの1話でしたが、本作は同時に、視聴者に大変優しいアニメでもあります。情報の出し方が自然なのです。というのは、わかばは世界について何の知識も有しておらず、我々視聴者と同じ視点に立っているのです。故に、りん達がわかばに用語や世界のルールを説明することで、無理なく視聴者に設定を理解させています。本作はこの辺が徹底されていて、世界の謎はわかばを通して明かされていきます。1話で謎だらけだった世界の謎が少しずつ、断片的に明らかにされていき、11話でそれら全てがつながったときは、その構成力に舌を巻きました。全てが分かった後のあのエンディングは非常にずるく、ちょっと泣けてしまいますね。

 

TVアニメ「ケムリクサ」エンディングテーマ『INDETERMINATE UNIVERSE』

TVアニメ「ケムリクサ」エンディングテーマ『INDETERMINATE UNIVERSE』

 

 

 本作にはわかばの他にもう1人主人公がいます。それが、りんです。世界の謎を明らかにする役目がわかばならば、本作の持つテーマを体現するのが彼女です。彼女は戦闘に長けていて、「皆を守る」ことに使命感を抱いています。しかし、そのために自分を殺し、りなやりつのような「好き」がありません。本作はそんなりんが自分の「好き」を見つけるまでの物語でもあります。まぁ、1話でフラグが立ったことからも分かるように、それはわかばなんですけどね。

 

 他の姉妹の話によれば、りんは昔は違う性格だったようです。では何故あのような性格になったのかと言えば、それは世界が過酷だから。その過酷な世界で生きていくために、りんは戦闘に特化し、「好き」を見つける余裕が無いのです。一方、りつとりなには、「好き」があります。だからか、彼女たちはよく笑顔を見せたりしています。この2人(本当はもっといるけど、便宜上2人にします)の姿から、「過酷な世界でも、好きなことがあれば、生きる希望になる」というテーマが見えてきます。だからりんが自分の「好き」に気づいたとき、壁が壊れ、楽園とも言える世界が見えたのかなぁと思います。「好き」に気づけば、明日が開けるということのメタファー的な意味合いで。

 

 この「好き」に気付くまでの物語は、もう1つ別の意味が備わっていると思います。それが最初にも書いた「もう1度出会うまでの物語」です。りんたちはリリの分身であり、りんはリリと同じく、わかばへの「好き」という気持ちを抱いています。リリは1度、自らの過ちでワカバを死に至らしめてしまいますが、リリの「好き」と同じ気持ちを抱いたりんがわかばと出会い、自分の「好き」の気持ちに気付くことで、リリが望んだ「もう1度ワカバと出会う」ことが実現したように思えたのです。これは『君の名は』ですよ。ものすごくキッチュですけど。この意味で、本作は壮大なラブストーリーと言えなくもない、のかな?少なくとも私は感動しました。全話通して、非常に面白いアニメだったと思います。