80点
武田綾乃先生による同名小説のアニメ化作品。TVアニメは2015年から放送され、現在2シーズンを数えています。映画はこのTVシリーズをまとめた総集編が2本と、外伝作品『リズと青い鳥』が1本あります。私は何だかんだで総集編以外は観ているので、完全新作となれば観るしかなく、今回鑑賞した次第です。
鑑賞して強く感じたのは、本作はTVアニメ3期への布石なのだということでした。ただ、それでも中途半端になることなく、1本の青春映画として結構いい感じにまとめている点は、さすが京アニです。そして、こういう内容だからこそ映画にした意味があると思いましたし、このメディア展開は京アニだからこそできるのかも、とも考えました。
本作は、「王道」を外している作品だと思います。というのは、本作は主人公の北宇治高校吹奏楽部が敗北する作品だから。普通のこの手の作品は、自分たちの努力が報われ勝ち進み、優勝なり何なり、輝かしい栄誉を掴んで終わります。そうしないと話が盛り上がりませんからね。この点で、TVアニメ1,2期はまさしく王道をいっている作品だと思いました。
普通の作品はここで終わります。漫画になりますが、「SLAM DUNK」にしても、「アイシールド21」にしても、主人公たちの最初の1年間だけを描いています。しかし、私は常々考えていました。「1年目で栄光を掴んだとしても、2年目以降はどうなるのだろう」と。先輩はいないし、同じような成績は残せないのではないかと。本作は、そこをやっている作品でした。
思えば、結末の布石は最初から張られていました。久美子が見ていたTVです。あそこで映っていたのは、ちょうど1年前の自分たちです。そして、久美子の台詞は、昨年、北宇治に敗れた全国常連校が思っていたことと同じだと思います。つまり、この時点で、本作は「敗北の物語」であることが示されていたわけです。
では、本作では何が重要視されているのかというと、それは北宇治吹奏楽部の青春を切り取るという点。中盤で奏が問いかける「努力に意味なんてあるんですか?」に対し、久美子が応えるシーンがありますが、ここが重要なのだと思います。つまり、「努力しても結果は出ないかもしれないけど、その努力はなくならない」という。本作はこの北宇治吹奏楽部の努力を切り取ることに注力していると思います。だからこその、度々挟まれるスマホ映像なのかなと。
そして、この努力の過程を描いたことで、本作にはもう1つの意味が生まれていると思います。それが「久美子の物語」の仕切り直しです。劇中でも台詞でありますが、久美子の、そして本シリーズのスタートは、久美子が中学時代、ダメ金で「悔しい」と思えなかったことでした。翻って、本作は努力の過程を映した上で、久美子に中学時代と同じ体験をさせます。ここで、久美子の気持ちが対比されるのです。最初は悔しいと思えなかったけど、今回はどうだったのか。それは映画を観れば一目瞭然でしょう。これによって、次の3年目が、気持ちを仕切り直した久美子の物語として描かれるのだろうと思われます。
響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編 (宝島社文庫)
- 作者: 武田綾乃
- 出版社/メーカー: 宝島社
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そして、このような「仕切り直し」、「敗北の物語」である本作だからこそ、映画にする意味があると思うのです。それは単純に長さの問題で、TVシリーズならば1クールかけてじっくり描けるのですが、まぁその結果がこれでは視聴者もうんざりするかもしれません。しかし、本作のように映画ならば、100分ちょっとで一気に見せられるし、途中で見ることを止められません。もしここを計算して映画にしたのだとしたら、かなり上手い戦略だなと思いますね。
ただ、それにより、総集編感が出てしまい、展開がやや駆け足な点は否めず、また、おそらく次へ持越しとなった設定もありますし、新たに生まれた伏線もあります。このせいで、やっぱり布石な感じはしてしまいます。しかし、それを差し引いても、本作は先述のように1本の映画としてまとまっていると私は思います。
他にも、やっぱり最後の演奏シーンは凄かったとか、『リズと青い鳥』のその先が描かれていて泣きそうになったとか、後輩たちと久美子の絡みは観ていて面白かったとか、良い点はたくさんありました。TVアニメ3期、待ってます。
外伝作。傑作でした。
京アニのTVアニメ作品。こっちも面白かったです。まぁ完全に弓道版『Free!』なわけだけど。