暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「物語」を信じ続けたその先に【ミスター・ガラス】感想

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77点

 

 

 『アンブレイカブル』『スプリット』に続く、SCU(シャマラン・シネマティック・ユニバース)の最新作。劇場で予告を観た時は「本当に作るのかよ」とちょっと笑っちゃいました。前2作の流れからすれば、ようやくヒーローとヴィランの対決という真っ当なヒーロー映画になりそうな感じはしまが、まぁ作るのがシャマランなんで、そうはいかないことははっきりしています。では今度はどこに我々を連れて行ってくれるのか楽しみにして鑑賞しました。

 

 結論から書くと、私が連れていかれたのは、「物語を信じ続けた男」が最終的に辿り着いた場所であり、シャマランのこれまでの苦労を知っていれば、たとえ彼のファン(=シャマラニスト)でなくとも、「よくやったなぁ、シャマランよ」と彼の労をねぎらいたくなる作品でした。

 

 M・ナイト・シャマランは苦労の人です。『シックス・センス』を大ヒットさせ、一躍ヒットメーカー扱いされはしましたが、それ以降は興行成績がどんどん落ちていき、それと並行して作品の内容も批評家からボロクソに叩かれてしまうという、まったくいいとこ無しな状況が長く続いてきました。しかし、4年前に発表した低予算映画『ヴィジット』が批評的、そして興行的にも大成功を収め、続く『スプリット』も成功。これによってシャマランは完全復活します。

 

 

 このような苦しい状況の中ですが、シャマランは常に一貫した姿勢で映画作りに臨んでいました。それは1つは「心のトラウマを抱えた者が使命を見つけ、トラウマを克服する」、もう1つは「物語を信じろ」です。前者は私が観た彼のどの作品にも見える要素で、おそらくシャマランの最重要な要素だと思うのですが、私が本作で重要だと感じるのは後者の方。『アンブレイカブル』は「父親がヒーローであってほしいと願う」息子、「スーパー・ヒーローは実在する」と信じる狂人、イライジャがいて、そのどれもがシャマラン自身だったと考えています。『アンブレイカブル』はそんな彼らがスーパー・ヒーロー、ダンと出会い、自らの使命を見つけ、一歩前進していました。また、『スプリット』も「ビースト」の存在を信じる男が最後にそれと対面する話でした。本作ではその「物語を信じた」人がさらにその「真実」を世界に拡大させる話でした。本作が「労をねぎらいたくなる」のはまさにこの点で、如何に苦しい状況下でも自分の気持ちを曲げずに進んできた男が、遂に自分の想いを世界に届けたからです。

 

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 そしてこの「世界に届ける」ことはシャマランの作家性にも共通しています。「使命を見つけた者の話」です。超能力を持つ3人がそれに該当するのはもちろんですが、ラストの展開で、実はそれは、世界中の全ての人間に対してだったのだと分かります。この飛躍には驚かされました。

 

 さらに重要な点が、「物語」の持つ力です。私たちにはもちろん、何の力もありません。だからこそ、ヒーローに憧れたりします。しかし、年齢と共に現実を受け入れ、いつしか信じることを止めてしまいます。しかし、信じていれば実はそれは力になるし、我々を救うこともあるのです。本作のラストは、そんな我々の気持ちを肯定してくれた気がしました。

 

 そしてそれはシャマラン自身の願いでもあります。前述のように『アンブレイカブル』でも彼を投影したと思しきキャラはいましたが、本作ではより際立っていました。イライジャです。彼の「19年もかかったんだ」の台詞はどう考えてもシャマラン自身の言葉でしょう。

 

 このように、本作はこれまでのシャマランの苦労が結実した作品でした。確かに、やや独善的な内容だなとか自分が出てきてわざわざ「昔はバカな奴らと付き合ってたよ」って言うのはどうなんだとか思ったけど、その信念には敬意を表したいと思います。