暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

TVドラマ『相棒』のメイン脚本家の変遷をまとめてみた

はじめに

 現在、毎週水曜夜9時から放送されている人気TVドラマ『相棒』。現在17シーズンまで放送され、「視聴率が取れない」と言われているドラマ界の中で、今なお平均視聴率15%台をキープしている驚異のシリーズです。このブログでは全く話題にしていませんが、実は私も『相棒』は好きで、全てのシーズンを見ていますし、劇場版、『裏相棒』も見ています。なので、ずっと『相棒』で何か記事を書けないかと考えていました。

 

 1番良いのはドラマの感想です。しかしさすがに時間が取れないと考え断念。さてどうするかと考えたとき、脚本家に注目することを思いつきました。『相棒』はキャラも魅力的ですが、他のドラマと一線を画しているのが脚本だと思います。しかも脚本はレギュラーの人だけではなく、毎回新しい方を入れていて、脚本家のラインナップ次第ではシーズン毎に雰囲気が違うこともあります。この脚本家達をメインの方のみに絞って書いてみたいと思います。

 

 脚本家についてを書くにあたって、時期を5つに分割して書こうと思います。①season1~season3、②season4~season7、③season8~season12、④season13~、⑤season17~の5期です。この分割で、脚本家が大体入れ替わっていると思うためです。そして、各脚本家の特色や各時期の印象を私の個人的な認識の下に書こうと思います。

 

 

第1期:season1~season3

相棒 season 1 DVD-BOX

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 伝説の始まり。この時期のメイン脚本家は3人。輿水泰弘櫻井武晴、砂本量の3人です。以下に書きます。

 

輿水泰弘

 ご存知、『相棒』の生みの親。全てのキャラクターの誕生には彼が関わっているそうです。なので、「退場も自分で書く」と豪語し、実際、この方が脚本を書くと主要人物が退場することがあります。

 

 この方は人間ドラマが上手い方だと思っています。彼が脚本を執筆した回はキャラの心情がより深く感じられることが多いです。事件の動機も社会的なものよりはもっと個人的な人間の業や苦悩、人間の狂気を感じさせるものが多く、鬱回も多々あります。反面、ミステリーは不得手で、トリックは結構簡単なものだったり、やや無理くりなものもあります。輿水さん自身もそこは自覚的なようで、文庫本で「トリックよりレトリックだ!」と書いています。

 

 この時期は後年とは違って初回と最終回だけではなく、通常回も多く担当。「目撃者」や「ピルイーター」などの衝撃の結末(しかもその後に後味が悪い余韻を残す)や、「ロンドンからの帰還」やPre season2などのサイコパス回、警察組織の残酷さを描いた「潜入捜査」、国会の政治劇を濃密なドラマで描いた「双頭の悪魔」3部作など、良作を多々執筆しています。

 

桜井武晴

 輿水泰弘さんが『相棒』の生みの親ならば、桜井武晴さんは育ての親。ミステリーが不得手な輿水さんを埋めるように、ミステリ的、プロフェッショナルもの、そして社会派な良作を出します。『相棒』=社会派というイメージはこの方が創ったと言っても過言ではないと思います。後はシリーズを締める役割ですね。

 

 この時期は「殺しのカクテル」「殺しのピアノ」といったプロフェッショナルを描いたもの、「命の値段」「ありふれた殺人」などの社会派、クローズド・サークルのミステリながら、驚愕のトリックでネタ回となった「殺人晩餐会」など、良作、ネタ回を発表。シリーズの柱を作りました。

 

砂本量

 輿水泰弘さんが生みの親、櫻井さんが育ての親ならば、この方はドラマの可能性を広げてくれたと思っています。というのも、彼が執筆した回は「人間消失」や「同時誘拐」など、最初は突飛なものが多いのです。しかし、最初は突飛なのですが、完成度はピカイチで、最後にはしっかりと感動させられたりして、良い余韻を残すものが多いのです。

 

 また、突飛なもの以外にも、「少年と金貨」のようなストレートに泣かすもの、「消える銃弾」のようにミステリ的に面白いもの、語り草となっている伝説の回「殺してくれとアイツは言った」、共依存を描いた「蜘蛛女の恋」など、作品はバラエティに富んでいます。ちなみに、陣川君の初登場と欠番回もこの方だったりします。

 

 このように良作を連発していた方ですが、病に侵され、2005年に逝去されてしまい、season4のウィンパティオこと村木の回を最後に降板してしまいます。この穴を埋めるかのように、season4からは新規の脚本家が大量に参加します。

 

〈番外〉深沢正樹

 この方はseason2に2回脚本を執筆されただけなのですが、何故載せたのかというと、「島根県の県庁所在地」を我々の頭に刻み込んだ「クイズ王」を執筆された方のためです。

 

 

第2期:season4~season7

 

 円熟味が増してきた時期。この時期はマンネリ化を避けるためか、新規の脚本家が大量に参加し、レギュラーとなっていきます。以前から1話限りの担当の方はいましたが、レギュラーとして定着はしていなかったことを考えれば、ここらへんから長期シリーズへ本格的に舵を切ったのかもしれませんね。

 

輿水泰弘

 ご存知生みの親。この時期は初期と比べると執筆量が大幅に減り、初回と最終回や、亀山薫の卒業回「レベル4」や、神戸尊初登場の「特命」など、ストーリー上重要な話のみ担当するようになります。しかしそれでもクオリティは健在で、閣下が再登場する「閣下の城」、全く関係ない人間が死ぬ無差別殺人事件から、人間の愛憎模様を描いた「桜田門内の変」、そして伝説のカオス回「Wの悲喜劇」2部作などを発表。

 

櫻井武晴

 ご存知育ての親にして両輪の1つ。執筆話数が減った輿水さんに比べ、櫻井さんは1シーズン約5話と、変わらぬ数を維持。この時期は「殺人ヒーター」や「免罪」、「編集された殺人」、「複眼の法廷」「黙示録」の2部作といった社会派作品や、「殺人ワインセラー」「琥珀色の殺人」といったプロフェッショナルもの、シリーズ屈指の大傑作「サザンカの咲く頃」、そして右京と薫の絆を描いた屈指の傑作「裏切者」「最後の砦」を発表。シリーズを支えます。

 

戸田山雅司

 season4「緑の殺意」より参加。「緑の殺意」は微妙だと思ったのですが、season5から覚醒します。

 

 私は、この方は主にキャラクターを動かすことが上手い方だと思っています。話はミステリを軸に、オーソドックスな相棒を書いてくれます。ただ、トリックや展開にやや無理がある点も事実。この時期は右京と嘘つきの騙し合いが面白い「せんみつ」、名キャラクター、マーロウ八木を生んだ「名探偵登場」、大空眞弓が美しい「女王の宮殿」、列車で起こる事件を描いた正統派ミステリ「寝台特急カシオペア殺人事件」を発表。

 

岩下悠子

 参加したのはseason3から。この方は主に人情回を発表。これまで鬱な結末が多いシリーズでしたが、その中でハッピーエンドを多く発表したこの方は、シリーズに新たな色を加えたと思います。誰か分からない「スズキ」を探す「犯人はスズキ」、刑事の父親が娘と関係を修復する様を感動的に描いた「赤いリボンと刑事」、太平洋戦争をバックボーンにした「正義の翼」など、良作を発表します。

 

古沢良太

 season4から参加。今では超人気脚本家ですが、この時期はデビュー間もなかったためか、頻繁に脚本を執筆。上記の脚本家達と比べると、ややライトな作品が多めで、見事な伏線回収をテンポよく見せてくれる方。右京さんの推理力が炸裂する回が多め。

 

 この時期は、佐藤江梨子の怪演が印象深く、「平成のホームズ」の愛称を生み出した「監禁」、月本幸子初登場の「ついてない女」と、幸子のその後を描いた「ついている女」「狙われた女」、亀山の新居で起こる怪奇現象をコメディタッチで描いた「スウィートホーム」、右京の「姪」杉下花が登場する「天才の系譜」、限定された空間で起こる籠城事件を緊張感たっぷりに描いた傑作「バベルの塔」を発表します。

 

〈番外〉ハセベバクシンオー

 season7より参加。執筆本数は少ないのですが、初参加にして「越境捜査」という傑作を発表します。その後もseason11までちょくちょく参加していました。

 

 

第3期:season8~season12

相棒 Season8 DVD-BOX1

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 これまで不動の相棒を2度変更した激動の時期です。この時期はメイン脚本家はそれほど変化はしませんでしたが、やはり新規脚本家が多々参加しました。しかし、脚本家によってクオリティにバラつきが目立った時期でもありました。今回は相棒が変わっている関係で、相棒を跨いで参加されている方はそれぞれ神戸期とカイト期に分けて書いていきたいと思います。

 

輿水泰弘

【神戸尊】

 生みの親ですが、神戸期は執筆本数が激減。3シーズン通して執筆したのはわずか4話。しかも歴代最高の平均視聴率を記録したseason9に至っては戸田山雅司さんとの共同執筆のみでした。それ故に設定等をやや「投げっぱなし」な感じにしたことは否めません。

 

 この時期は本多篤人初登場の「カナリアの娘」、倫理に訴えかける問題作「罪と罰」、神戸の罪の意識を描いた「贖罪」を発表しました。

 

【甲斐亨(カイト)】

 神戸期よりは執筆本数は多くなり、2シーズンで6話執筆。見事なカイト初登場回「聖域」、前半は最高だった「森の中」「猛き祈り」、カイトのキャラをより深掘りした「かもめが死んだ日」を発表しました。

 

櫻井武晴

【神戸尊】

 やや執筆話数は落ちたものの、1シーズン3~4話ほどを担当。この時期で際立ったのはシリーズを纏める能力です。輿水さんがやや投げっぱなしにしてしまった設定を根こそぎ回収しきった傑作「神の憂鬱」はseason8のグダグダを帳消しにするほどの素晴らしさでした。それ以外にも、良質な社会派作品を発表しました。

 

 その他には右京と神戸の正義の対立を描き、亀山との差異を鮮明にした「暴発」、就職に失敗した若者の末路をドキュメンタリー顔負けのリアリティで描いた「ボーダーライン」という2大傑作を発表しました。

 

【甲斐亨(カイト)】

 カイト期になっても良作を発表するも、season12第8話にて降板。名義が飯田武になっていることから、何かあったのかと邪推してしまいますね。それでも、「バーター」や「酒壺の蛇」など、甲斐次長の腹黒さを描きつつ、良質な作品を発表しました。

 

戸田山雅司

【神戸尊】

 この時期にはムラが出てきましたが、1シーズン3話~4話を担当。この時期は伊丹回である「狙われた刑事」、特命係の小芝居が楽しいコメディ回「招かれざる客」、独特の構成で描いた「監察対象 杉下右京」を発表しました。

 

【甲斐亨(カイト)】

 カイト期は計5話担当。しかし、season12で降板してしまいます。この時期は調子に乗ったカイトが面白い「オークション」、岩下志麻回である「最後の淑女」、盗聴してた男に起こった悲劇を軽妙なテンポで描いた良作「聞きすぎた男」を発表しました。

 

古沢良太

 この時期には既に人気脚本家になっていたため、1シーズンにつき1話参加という扱いに。『相棒』の設定を活かし、結構フリーダムに脚本を執筆していました。そのためか、良質な回が多いです。

 

 この時期は時系列をシャッフルした話が多く、「右京、風邪をひく」、「待ちぼうけ」、「BIRTHDAY」などが該当します。その他には主婦と右京の心理戦を描いた「聖戦」を発表しました。

 

太田愛

【神戸尊】

 season8から岩下悠子さんと入れ替わる形で参加した方。岩下さんと同じく人情話を担当。その優しすぎる作風のため、最初の方は右京さんが言わなさそうな台詞を言ったりしていましたが、徐々に慣れてきて、すっかりレギュラーとして定着しました。

 

 この方の功績として最も特筆すべきことは、神戸尊というキャラクターを育てたこと。登場してからはほぼミッチー要素のみで成立していた神戸というキャラを深掘りし、奥行きのあるキャラに育てていきました。神戸が人気のある相棒になったのはこの方のおかげと言っても過言ではありません。

 

 この時期は初めて神戸がこれまでとは違う側面を見せた「ミス・グリーンの秘密」、非現実的な設定ながらも流れるような展開と陣川君の道化ぶりが楽しい「運命の女性」、ミステリ的にもミスリードが素晴らしく、最後には感動する名作「通報者」、そして元日SP最高傑作と呼び声高い「ピエロ」を発表しました。どれも神戸が大活躍する話です。

 

【甲斐亨(カイト)】

 この時期は合計3本の脚本を執筆。神戸とは違って大した思い入れもなかったのか、そこまで掘り下げたりはしませんでした。この時期からseason12まで元日SPの脚本を担当。「アリス」「ゴールデンボーイ」「ボマー」を発表しました。

 

徳永富彦

【神戸尊】

 season7より参加するも、参加初期は珍作、凡作を連発していた方ですが、season8第17話「怪しい隣人」にてギャグ回ならば良作を生み出せると示し、以降は一定のクオリティを保ったまま参加し続けています。

 

 season9~season10は「24」的リアルタイム劇「9時から10時まで」、「右京の○○」シリーズ第1作「右京のスーツ」、右京の大学時代の友人が登場する「すみれ色の研究」を発表しました。

 

【甲斐亨(カイト)】

 カイトに相棒が変わってからも引き続き参加。少しだけ出世したのか、相棒のルーツに関わる話も執筆し、計3話担当。

 

 この時期はカイトの交番時代を描いた「交番巡査 甲斐亨」、右京の○○シリーズの「右京の腕時計」を発表しました。

 

金井寛

 この方のみseason11から参加。season12からはレギュラー陣の執筆本数が減ってきたのと代わるように多くの回を担当。ただ、個人的にこの方はあまり好きになれません。何故かというと、どの話も出来がイマイチだから。一応櫻井さんが抜けた後は彼が扱っていたような社会派な話を担当するのですが、どの話も動機、トリック、全てが微妙なのです。しかも彼が担当すると大体右京さん無双になるので、相棒が「いるだけ」になってしまうのも問題だと思います。後は右京さんに説教させすぎ。こんな印象から、私の中では「劣化版櫻井武晴」という大変失礼な印象になっています。

 

 この時期は「プロ騎士 VS AI」を描いた「棋風」、純粋なミステリ「殺人方程式」、右京とカイトが別々に行動する「崖っぷちの女」を発表しました。

 

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第4期:season13~season16

 

 プロデューサーが降板するという未曽有の事態が発生した時期。それに関連してか、これまでシリーズを支えてきてくれた戸田山雅司古沢良太櫻井武晴といった方々が離脱。途中参加の戸田山さんと古沢さんはともかく、season1から参加している「相棒の両輪」の1つである櫻井さんも降板した時は衝撃でした。

 

 この脚本家の離脱とプロデューサーの交代による混乱か、シリーズが抱えている弱点が浮き彫りになり、season13最終回で大失態をやらかしてしまいます。そのせいで次のseason14からは視聴率が激減。

 

 後、ついでなので、season13最終回「ダークナイト」への意見も書いておこうと思います。

 

 私は、「相棒が犯罪者になってしまう」こと自体は良いと思っています。しかも、カイトのような成長する相棒のラストならば、こうすることで官房長が指摘していた「右京の危険性」を強調できたと思うからです。ただ、そこまでの伏線を張れという話なのです。この点に、このシリーズが抱えている弱点が浮き彫りになってしまいました。それは魅力の1つでもある複数の脚本家が執筆するという体制です。これで脚本家間の連携が上手くいかなかったのか、構成がガタガタになってしまいました。反省を感じたのか、最近では縦の流れを意識した構成をとっています。

 

 もう1つは制作側の驕りかなぁと。「相棒‐劇場版Ⅱ‐」のオフィシャルガイドブックで、松本元プロデューサーと輿水さんは「右京がいれば話はできる」を語っていました。この驕りが出てしまったのかなぁ。

 

輿水泰弘

 生みの親。season13では、社美禰子初登場の「ファントム・アサシン」、やはり前編だけは最高な「鮎川教授 最後の授業」2部作を発表。しかし、最終回「ダークナイト」で盛大にやらかしてしまいます。事前に何の伏線もなく、「カイトはダークナイトでした!衝撃の結末!」という話を作ってしまったのです。これには多くのファンが激怒。私もその1人です。

 

 相棒が冠城に変わるseason14からも変わらず初回と最終回、そして間の通常回を担当しました。冠城無双である「フランケンシュタインの告白」、真相に鳥肌が立つ「キモノ奇譚」、青木初登場の「警察嫌い」、社美禰子の一連の謎が解明される300回記念回「いわんや悪人をや」を発表。

 

太田愛

 脚本家が大量離脱した中、残留した方。season13は「幸福の行方」、「アザミ」の2話だけ担当。カイトの描き方は相変わらず淡白でしたが、どちらも良作だと思います。

 

 相棒が冠城に変わってからも、season15から脚本を担当。劇場版を担当するなど、完全にメイン脚本家となります。この時期はより社会的な作品を手掛けるようになり、「声なき者」前後篇や、純粋なミステリもの「銀婚式」、軽妙なホームレスが出てきた「事故物件」を発表しました。ただ、元日SPは正直どれも微妙でした。

 

徳永富彦

 同じく残留組。それまでは準主力的な印象でしたが、ここらへんから本格的に主力的な存在として活躍。season13はまさかの捜一に女性参加という期待を抱かせた「第三の女」、なんちゃって米沢さん退場回「米沢守、最後の挨拶」を発表。どちらも佳作でした。

 

 season14からも変わらず担当。トリッキーな回からオーソドックスな回まで、多彩な話を発表しました。まさかのif時系列の話「物理学者と猫」、驚愕な真相がラストの「フェイク」、少年の孤独な戦いを描いた「少年A」を発表しました。

 

金井寛

 引き続き参加。season13でも変わらないペースで作品を発表。トリックが雑な「許されざる者」、カイト版「裏切者」の「最後の告白」、陣川君の妹が初登場したギャグ回「妹よ」を執筆しました。

 

 相棒が冠城に変わってからも執筆。ラストは良いのですが犯人のサイコ感が微妙な「ケンちゃん」、犯人が秒で分かるも家族の謎は中々いい「秘密の家」、贈収賄事件を描いた「騙し討ち」を発表。また、「100%の女」で右京と冠城の正義の対立を描こうとしましたが、如何せん微妙な出来でした。

 

真野勝成

 season12より参加。初参加組の中で、最も重要と思われる方。season12の「右京さんの友達」で彗星のごとくデビューし、その後も抜けてしまった脚本家の穴を埋めるように脚本を執筆。作風はどことなく2次創作的で、キャラものならば良回が多い印象。しかし、緻密な展開は苦手なようで、SPとかで大規模な話になるとそのグズグズぶりが表面化してしまう方。後は台詞や設定が中二っぽい。ハロヲタ

 

 season13からは通常回と元日SPを3回担当。通常回ではレギュラー脚本家の中では人一倍カイトの内面を掘り下げようとし、「死命」、「ストレイシープ」を発表。

 

 相棒が冠城に変わってからも変わらず執筆。冠城の実力と危険性がはっきりした秀作「或る相棒の死」、SPにもできそうな「ファンタスマゴリ」、否が多い賛否両論回(でも個人的には秀作だと思う)「陣川という名の犬」を発表。この時期はまだ打率は高かったと思います。

 

 しかし、season15からは微妙な回が多くなり、逆に中二的話が多くなりました。「ギフト」、「ドグマ」が該当します。陣川君禊回「ダメージグッズ」は良かったけどさ。

 

 彼が担当した元日SPはどれも微妙。話はとっ散らかってるし、安いサイコパスが犯人だったり、トリックはグズグズだしで良いとこ無しです。特に本多篤人の退場のさせ方と雛子の無能な描き方は絶対に許さない。

 

山本むつみ

 初参加はseason12。正直、最初は面白くない回ばかりだったのですが、「右京の同級生」からは急激に面白くなった印象です。他には、風間杜夫のコミカル演技が楽しい「出来心」や、衣笠副総監の娘が出てくる「アンタッチャブル」と「暗数」を発表しました。

 

森下直

 season13の「14歳」から参加。この回はオーソドックスな内容でした。冠城に相棒が変わってからはseason15にも参加。ホラーと見せかけて実はギャグ回である「嘘吐き」、Youtuberを扱った「ラストワーク」を発表しました。

 

池上純哉

 season13より参加。現在人気の方で、昨年はあの傑作『孤狼の血』の脚本を執筆しました。初参加より良作を連発。「神隠しの山」前後篇、笹野高史の演技が光る「臭い飯」、外国人労働者グローバル化する犯罪を扱い、展開も1トリックある「ロスト~真相喪失~」を発表しました。

 

〈番外〉宮村優子

 「あんたバカァ?」じゃない方。この方はseason14とseason15に1話ずつ脚本を執筆。回数が少ないのに何故この方を取り上げたのかというと、「スポットライト」という個人的に相棒歴代ワースト回を執筆したから。事件は面白くない漫才は面白くない内容は意味不明というひどい出来でした。でも次の「あとぴん~角田課長の告白~」は良かったけど。

 

第5期:season17~現在

 

  相棒を冠城に変更し、「相棒が変わる時期」とされる3年を超えたシーズン。2021年現在、season19まで放送され、冠城は歴代相棒の中で、右京さんの相棒の期間は亀山と並ぶ最多タイまでになりました。

 冠城が新相棒になってからも、カイト期の脚本家は何人か続投していました。しかし、この時期から新規脚本家が続々と参入し、内容的な刷新が図られてきたシーズンです。月本幸子に代わる女将・小出茉莉や、捜一に遂に加入した女性刑事・出雲玲音。国家公安委員長・鑓鞍、そして内閣官房長官の鶴田など、新規キャラ、新体制を構築。冠城を相棒にして、長期シリーズ化を見据えたかのような展開を見せています。とりあえず、season19までの脚本家さんで書いていこうと思います。

 

輿水泰弘

 説明不要の生みの親。season17~19までに11本の脚本を執筆。ここ数年と同じように、「ダークナイト」の反省からか、「縦の流れ」を意識した構成が見られます。

 この時期は、「死体のありか」が大きな謎となり、捻りも効いた「ボディ」前後篇、船越英一郎の暗殺テク炸裂かと思いきや、トンデモ展開からの鬱展開というジェットコースター的内容の「アレスの進撃」、内村刑事部長が正義に目覚めた珍作「超・新生」、これからの布石的内容「暗殺者の招待」を発表しました。

 

徳永富彦

 一時期はメイン脚本家として腕を振るっていましたが、この時期は執筆本数もだいぶ減り、season16から続く南井シリーズを3本と、あと1本の計4本のみの執筆。南井シリーズは、始まったときは「また安そうなシリーズが始まったなぁ」と思ったものですが、「善悪の彼岸」で評価が一変。ある事件の囚われ、無自覚に事件を起こしていた元相棒を右京が正しく裁くという、ある意味で「ダークナイト」のやり直し的な内容の作品でした。ただ、トリックは徳永さんらしいトリッキーなものでしたが。

 

太田愛

 ご存知神戸萌えの方。これ以前より社会派の側面を前面に押し出した作品を発表。相変わらず展開はご都合主義ながらも、現実に起こったレイプ事件と酷似した内容を、日本会議のような団体の存在もちらつかせつつ描いた「ディーバ」、月本幸子卒業回、「漂流少年」などを発表。1シーズン1話ほどですが、一時期の古沢良太さんポジションになった感があります。

 

真野勝成

 ご存知キャラ回なら傑作を書ける方。season12より、長くに亘って活躍してきましたが、season17を最後に、現在まで執筆をしていません。最後に執筆した「刑事一人」は、伊丹を主軸としながらも、日本の中にある貧困問題、そして、その鬱憤が移民に向かってしまうという負の連鎖を描いた秀作でした。キャラ回なら戻ってきてほしいです。

 

山本むつみ

 ここ数年で一気にメイン脚本家に躍り出た方。この時期は、突拍子もないトリックが多くなっていたシリーズの中でも、地味ながら堅実な内容を見せてくれた「ブラックパールの女」が印象的。これは、後に遠峯小夜子シリーズとして毎シーズン1話必ずやるようになります。他には、シリーズ伝統の幽霊屋敷回、「怖い家」を執筆しました。

 

児玉頼子

 season17より参加。初参加の「容疑者 内村完爾」が全てのキャラがバランスよく活躍する素晴らしさで、その後も精力的に作品を発表。キャラの回し方が上手く、ヒロコママを久しぶりに復帰させたり「薔薇と髭との間に」、青木の救出劇を描いたり「青木年男の災難」しました。

 

神森万里江

 season17「辞書の神様」より参加。人情系の話からスケールの大きい話まで書ける方。少女と犯人の逃避行を描いた「少女」、「現代の戦争」を告発した「檻の中」、後半少しだれ気味ではあった「ブラックアウト」を発表しました。

 

根本ノンジ

 season17とseason18に参加。コミカルな内容がウリの方で、現在も人気脚本家です。「オールバック刑事」「ワイルド刑事」というニックネームをつけた「密着特命係24時」、『ゴーンガール』的かと思わせて実は・・・な「そして妻が消えた」、右京さん座頭市として覚醒の「右京の目」、陣川君、またまた恋する「けむり~陣川警部補の有給休暇」などが印象的。また帰ってきて執筆してほしい。

 

おわりに

 以上が、「相棒」の脚本家の変遷になります。思い返せば、season1からだいぶ脚本家が入れ替わってきました。これだけ入れ替わっても長く支持され続けているのは、やはりドラマの骨子がきちんとあるからでしょう。これからも、この骨子を失わず、終わりどころを見据えつつ続けていってほしいと思います。相棒はもう変えなくていいよ。

 

 歴代相棒の変遷です。

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