暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

差別主義者への鉄槌【KAMIKAZE TAXI(インターナショナル・バージョン)】感想

f:id:inosuken:20180930130814j:plain

 

95点

 

 

 現在、『検察側の罪人』が公開されている原田眞人監督の出世作。悪徳政治家、土門のせいでヤクザに恋人を殺されたチンピラ、達男。彼は土門の家から金を盗む計画を立て、実行しますが、土門の手下である亜仁丸率いるヤクザに追い詰められ、達男以外皆殺しにされます。恋人と仲間。全てを失った達男は復讐を誓い、逃亡していたところ、日系ペルー人のタクシー運転手と出会います。こうして、悪徳政治家、チンピラ、移民が交わることで、本作の物語が始まります。

 

 原田眞人監督作は、これで3作目の鑑賞となります。これまで原田監督の作品を観てきましたけど、どれにも共通する点があることに気付かされます。それは、どの作品にも当時の社会問題や世相を反映させた要素を入れている点です。『駆け込み女と駆け出し男』は現代の時代の不寛容性やフェミニズムの要素を、『検察側の罪人』には右傾化しつつある世の中や、犯罪を揉み消そうとする組織をといった具合にです。これによって作品に独特の雰囲気が生まれていますが、同時に、『検察側の罪人』のようにそれらが乖離してしまっているケースもありました。

 

 では本作はどうかというと、要素ごとの乖離は無く、それらがキチッとハマっている作品だったと思います。本作は日本で制作された正真正銘の邦画ですが、他の邦画とは明らかに雰囲気が違い、独特の世界観を形成しています。どちらかと言えば海外のノワール作品っぽい雰囲気です。

 

 本作の要素は大きく2つあると思っていて、1つ目は「歴史の真実を語らない」悪徳政治家である土門に代表されるような、差別意識が強い自称「誇り高い日本人」。彼は元特攻隊員であり、それ利用して政治家として今の地位を手に入れています。発言も過激で、従軍慰安婦問題や、外国人労働者に対しても保守的な発言が目立ちます。今でいう「ネット右翼思想」の源流みたいな考えですね。

 

 2つ目は日系ペルー人、寒竹に代表される移民です。今でも大きな問題となっていますが、本作における彼は、元々日本人であるにも関わらず、あまり職にありつけずタクシー運転手をしています。本作では、寒竹がチンピラの達男と出会い、交流を深めていく姿が描かれます。なので、最初はロードムービー形式で進みます。

 

 本作はこの2つの要素が絡み、最終的に非常に皮肉の効いた決着がつきます。実は寒竹はペルーで武装組織と戦っていた経験があり、ラストの彼の「復讐」では、それを存分に活かしたアクションが展開されます。これは冒頭の達男たちのグダグダな強盗と比べるとかなり洗練されていて、観ていてスカッとします。

 

 このラストで明らかにされるように、土門は特攻隊に所属していましたが、その役目は特攻をさせるために隊員にシャブを配っていたという非道なものでした。つまり、土門は特攻隊員の権威を笠に着ていたとんでもない奴だったのです。本作は、そんな男を土門曰く「三流の日本人」の息子である寒竹が成敗するという構図なのです。監督の現状に対する怒りが伝わってきます。しかも彼の最期はあれだけすがっていた神風に吹かれて絶命するという皮肉。本作の登場人物は結構死に様が印象に残るのですが、土門だけは1番惨めな死に様でした。

 

 また、ただただゲスだった土門に対し、もう1人の敵である亜仁丸はどこか憎めない存在でした。ミッキー・カーチスの演技力の賜物ですね。チンピラの高橋和也も良かったです。また、原田監督特有のエッジの効いた台詞回し、画面構成(1995年の東京を窓越しに太平洋戦争の話するとか素晴らしいね)、全てが際立っていた作品でした。

 

 

KAMIKAZE TAXI<インターナショナル・バージョン> [DVD]

KAMIKAZE TAXI<インターナショナル・バージョン> [DVD]