暇人の感想日記

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権力と戦った人々の話【1987、ある闘いの真実】感想

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87点

 

 

 最近、韓国映画で多く見られる過去の民主化運動を扱った作品。今年にも、光州事件を描いた『タクシー運転手 約束は国境を越えて』が4月に公開されました。本作はこの作品のすぐ後に起こった、警察が1人の青年を拷問死させたことに端を発する大規模な民主化運動を描きます。ちなみに、これは今から31年前のことだそうです。

 

 結論としては、かなり骨太なエンタメ作品でした。『タクシー運転手』もそうでしたが、このような、自国の負の歴史ともいえる出来事を真正面から描きつつ、それを深刻なものにせずにエンターテイメント作品へと昇華できる韓国映画界には脱帽させられます。

 

 本作は群像劇の体裁をとっています。とにかく登場人物が多いのですが、韓国の俳優さんは皆顔が濃いので、あまり混乱しませんでした。

 

 本作において終始出ずっぱりで、「敵」として立ちはだかるのは、キム・ユンソク演じるパク所長です。彼は体制側の象徴として君臨しています。対して、彼を追い詰める国民側は人物が入れ代わり立ち代わり変わっていきます。最初に対峙するのがハ・ジョンウ演じるチェ検事。そう、『チェイサー』『哀しき獣』のコンビ再びなのです。個人的にここにグッときました。そして中盤、彼から情報を手渡されて動くのがイ・ヒジュン演じるユン・サンサム記者と新聞社の記者たち。そして後半には、この新聞を手に取っているだろう「一国民」として出てくるユ・ヘジンやキム・テリといった人物たちです。このように、次々に登場人物が入れ替わることで、国民が総出で権力に打ち勝った感が出てきます。余談ですが、この構図は一国民の視点から民主化運動を捉えた『タクシー運転手』とは対照的です。この点から、本作の主人公は、1987年に生きていた人々全てだと言えるのです。だからこその韓国俳優オールスターなのですね。

 

 最終的にパク所長は逮捕されるのですが、そこで終わらないところが本作の素晴らしい点です。確かに、事件そのものはパク所長らが起こしていました。しかし、そのような国家を作り上げているのは誰なのか。最後に思い知らせてくれます。そして、その人物はパク所長らを切り捨てることで、平然と最高権力の座に座っているのです。中盤でもパク所長が部下を切り捨てるシーンがありますが、彼自身も「駒」にすぎなかったのですね。この「最終的に巨悪が平然と生きのびている」点には、黒澤明監督の『悪い奴ほどよく眠る』を連想しました。「真の悪が直接出てこない」点も共通していますね。だからこそ最後のシーンも鳥肌が立ちます。「真の悪」を引きずり下ろすのは、これから彼らがやり遂げるという未来が見えるからです。

 

 国は権力者のものではなく、国民のものだと思っています。大衆というのは確かに謝った選択をすることもあります。それは過去の歴史が証明していますね。ですが、「国を変えよう」という意思も、国民から生まれなければ意味がないと思っています。だからこそ自身の意志を明確にし、選挙などで表明する必要があるのだと思います。そして謝った選択をしないために、自身で考える必要があるのでしょう。こんな、真面目なことを考えさせてくれた映画でした。たまには真面目なこと考えるのも良いだろ。