暇人の感想日記

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時代に抗えという監督の熱が伝わってくる作品【菊とギロチン】感想

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90点

 

 

 『64-ロクヨンー』『有罪』など、近年、大規模公開作品でスマッシュ・ヒットを連発している瀬々敬久監督。彼が構想30年を費やし、クラウドファンディングなどを駆使してようやく制作までこぎつけた本作。最初はそこまで観る気が無かったのですが、評判を聞いているうちに観たい気持ちが大きくなってきて、しかも時間的に観られるということで鑑賞してきました。

 

 結論として、変わった映画でしたけど、とても面白かったです。上映時間が約3時間と長いですが、それが全く気になりませんでした。本作は、「女相撲」と「ギロチン社」という一見すると全く共通項のない2つを合流させ、「時代と戦う人たち」を描きます。

 

 今よりもずっと女性に対する権利意識が希薄だった時代。「女である」だけで女性が今よりも生きづらかった時代が確かにありました。本作における女相撲は、(実際にはもっといろいろな理由があるみたいですが)夫から暴力を受けていたり、生まれの関係でどこにも行く場所がない女性たちが集まる場所として描かれていました。中でも特にフィーチャーされているのは主人公の花菊。彼女は生きづらい世界と戦うため「強くなる」目的で相撲の世界に入って行きます。この相撲のシーンの迫力が凄くて、見入ってしまいました。また、それ以外の女性も、「体を売って日銭を稼ぐ」ことを「生きるための手段」として描き、したたかに生きている姿を描いているのにも好感が持てました。

 

 対して、ギロチン社はアナーキズムを掲げる組織ですが、実際はダメダメ。「資本家どもが労働者から搾取した金を奪い返す」名目で”略”という名のカツアゲをやっていて、それを革命のための資金にするのかと思いきや、やっているのは風俗に行ってダラダラ飯を食っているだけ。ハッキリ言って最低です。しかし、パンフレットによれば、実在のギロチン社は曲がりなりにも理想は持っていたようです。

 

 アナーキズム女相撲。全く関係のない両者ですが、共通しているのは「時代に抗っていた人たちである」という点。劇中で描かれる時代は、今よりももっと不寛容な時代で、「反政府」と見られただけで捕らえられるし、朝鮮人というだけで差別の対象です。そんな時代に大人しく黙っているのではなく、前を向いて戦おうとした人たちです。この2つが一緒になるから、タイトルが『菊とギロチン』なのです。

 

 そしてこれは映画そのものと通じていきます。瀬々監督がデビューしたピンク映画では、何をやってもよかったのです。その中には映画界を、そして世界をも変えようという気概に満ちていたそうです。現在ではそれは失われつつありますが、世界は再び不寛容な空気に満ち始めています。そんな時代だからこそ、再び戦う意思が必要になるのだという、監督の熱い意志が伝わってくる作品でした。