暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

過去は消せない。【手紙は憶えている】感想

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90点

 

 

 ずっと観たかった本作。劇場公開時は時間の関係で観逃がしていたので、Netflixに登録されたことを機に鑑賞しました。ナチスに家族を殺された老人の悲しい復讐を描きます。

 

 本作で復讐を実行するのは2人。車椅子で動けないながらも、頭はハッキリしているマックス。そして、体は動くものの、認知症を患っているセヴ。体の関係で、復讐はセヴが行います。復讐モノといえば、怒りに燃えた主人公が悪党どもをなぎ倒していく展開が売りだと思っていますが、本作の主人公は認知症持ちの90歳の老人という、歴代で最も頼りない主人公です。本作では、この認知症の使い方がとても上手いと思います。何てことない道中でも、この設定のおかげで、「上手くいくのか?」とハラハラしつつ観れます。

 

 また、緊張感を出すためにも使われている認知症ですが、それがラストの展開に非常に効果的に使われています。道中、セヴは4人の容疑者に出会います。1人、また1人と出会うことでエピソードが生まれ、「歴史の側面」が浮かび上がっていきます。ナチスに属していた人間は、今でも生きていて、普通の暮らしを得ています。そこに罪悪感を覚える人間もいれば、開き直っている人間もいます。そして、中には、ナチス党員の子孫がその思想に染まっているケースもあります。しかしその一方、マックスたちのような逃亡者は、今でもその記憶に苦しめられています。この道中は、復讐への旅であると同時に、過去の歴史が及ぼした傷跡を辿る旅でもあるのです。

 

 こうして、歴史の負の側面を辿っていく本作ですが、途中から、観客は徐々に違和感を抱き始めるのです。この点が非常に周到です。観ていると、「何故?」と思う箇所がいくつか出てきます。そしてこれらのピースがキチッとハマったとき、本作は「個人の復讐の話」から、「過去の歴史に端を発する悲劇」に変わっていくのです。この転換もそうですが、これまでの伏線を違和感なく張っていく脚本も素晴らしいです。

 

 このように、本作は、「90歳の認知症を患った老人の復讐劇」として観ても面白いです。ただ、それ以上に、観終わった後に、過去の歴史の傷跡についてやるせない気持ちになる作品でした。