著 春日太一
発行所 株式会社 文藝春秋
久しぶりに本の感想を書きたいと思います。今回、感想をあげる本は「天才 勝新太郎」です。著者は「あかんやつら」「鬼才 五社英雄の生涯」の春日太一さん。今回、私が本書を読もうと思った理由は、春日さんの著作ということもありますが、「勝新太郎」という役者について知りたいと思ったためです。
本書を読むまで、私の中の勝新太郎のイメージは、だいたいの人間と同じでした。つまり、『座頭市』。そして、かなり癖のある、豪快な性格の人間らしい、ということ。しかも私は勝新太郎の出演作品を観たことがなかったので、「役者」としてどうなのか、という点もさっぱりでした。私の中にある「役者・勝新太郎」についての知識は、これまた春日太一さんの著作「仲代達矢が語る日本映画黄金時代」の中の仲代さんの「斬った後の余韻が凄い」という発言や、「鬼才 五社英雄の生涯」の中のエピソードくらいでした。つまりほぼ何も知らなかったということです。
以上のような状態で読んだので、本書は大変勉強になりました。屈辱のデビューから、どうやったら役者として開眼できるかの模索、そしてスターになってどんどん強くなっていく映画製作への情熱。そしてそれが狂気にも似たものになっていく様を躍動感のある文章で綴っています。この文章のおかげで、本書は映画史の研究本としてよりもまず、「読物」としてめちゃくちゃ面白いです。しかも文章が平易なので、どんどん読めます。
そして、春日さんの著作にはいつもある要素なのですけど、エピソードの中で出てきた映画を観たくなるのです。それは多分、その映画に関わった人間の狂気にも似た情熱を、取材をもとに克明に記しているためだと思います。誰だって、あの場面にはああいう手間暇がかけられて、という話を聞けば、そのシーンを見たくなるものですから。『座頭市』の1作目と最終作は観てみようかなぁ。後は、「神」が下りてきたというTV版『座頭市物語』。
また、本書を通して、「人間 勝新太郎」も知ることができたかなぁと思います。私が思っていた人物像は上述のように、『座頭市』であり、癖のある豪快な人物でした。しかし、その裏側では、理想の映画作りを追い求め、そのためにあらゆる苦しみや屈辱に頭を抱え、耐えている姿がありました。ただ、そこから伝わってくるのは、「あかんやつら」のような映画作りへの類を見ない情熱。だから彼の作品を観たいと思わせられるのです。彼も「あかんやつら」の1人なのでしょうね。