暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

アメリカの問題をミステリー仕立てで描いた秀作【ウインド・リバー】感想

f:id:inosuken:20180819124822j:plain

 

90点

 

 

 『ボーダーライン』『最後の追跡』に続く、テイラー・シェリダンの「フロンティア三部作」の最終作。恥ずかしいことに、実はこの2作は未見です。極寒の地、「ウィンド・リバー」で繰り広げられる、現代の西部劇。事実を基にしたストーリーで、事件を追うミステリーとしても、現地のハンターとFBI捜査官のバディものとしても、そして社会派なメッセージを持つ作品としても、大変完成度が高く、個人的には大満足な作品でした。

 

 本作については、まず構成の見事さについて書きたいです。本作は、基本的にエリザベス・オルセン演じるFBI捜査官、ジェーンの視点で進みます。そして、彼女の視点がそのまま観客の視点として重なっているのです。故に、非常にストーリーが呑み込みやすいです。

 

 さらに、本作にはバディものとしての面白さも備えていると思います。そしてこのバディの絆が深まっていくにつれて、ジェーンも、そして観客も被害者の苦しみや、そのインディアン保留地にある根深い問題を理解していくのです。この「理解」の過程の観客の巻き込み方が凄く上手くて、ちょっと自分に自信がなくなりましたね。というのも、最初は、被害者女性に対して、実は私は嫌なイメージを持っていたわけです。ですが、謎が解き明かされていくにつれ、思い込みで物事を断じることが如何に無責任なことかが突き付けられるわけです。本作は、被害者の苦しみから再生に向かおうとする姿を描いています。ここら辺がありのままな感じがして、良かったです。

 

 そして、ラスト近くで明かされる事件の真相。この展開の仕方には舌を巻きました。ずっと犯人候補だった彼から始まり、そこから始まる実におぞましい展開。演出も相まって、だんだんおかしくなっていく緊張感にやられました。

 

 他にも、この「極寒の地」という極限のシチュエーションが、何もかも剥き出しになる、的なことに繋がっていたり、コリーのハンターという職業が、ストーリーの骨子である「追跡」の要素と被ったりしていて、細かい要素の符号にも唸らせられました。

 

 また、劇中で突発的起こるバイオレンス・シーンも素晴らしかったです。いきなり起こる、若しくは突発的に緊張状態になったりするので、画面には、常に緊張感がありました。

 

 最後に、真犯人に対する制裁が本当に素晴らしかった。冒頭の意趣返しになっているので非常にスカッとします。ですが、それだけではなく、そこには抜けたくても抜け出せないという問題とシンクロする部分があったような。

 

 このように、本作は、アメリカが過去に犯した過ちと、その結果としての現在を、ミステリー仕立てで描いています。それらが非常にバランスよく配され、エンタメ作品としても社会派作品としても非常に面白い作品となっていました。