暇人の感想日記

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彼女が戦っていたのは、男性優位社会そのもの【バトル・オブ・ザ・セクシーズ】感想

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77点

 

 鑑賞する前は、あらすじと予告から「差別的な発言を繰り返すテニス選手を、女性が倒す」という単純な構図の作品だと思っていました。しかし、実際に観てみるとそんな単純な映画ではなく、主人公が戦っていたのは、1人の男性選手ではなく、「男性社会」そのものでした。

 

 本作は女性テニス選手ビリー・ジーン・キングが「男性優位社会」を唱えるボビー・リッグスと戦う姿を描いた作品です。予告ではこのボビーが個人的な思想として差別的発言を行っていると思いましたが、実際に観てみると、彼は真の意味での「道化」でした。彼の真の姿は、「男性優位」とは程遠いものです。ギャンブルを止められず、奥さんに養ってもらっているのです。そんな彼は、再起をかけ、こんなことをしているのです。つまり、「男性優位社会の代弁者」として発言し、試合をしているのです。この「ボビーの姿」を出したことで、男性側の描写が型通りの「悪」に見えにくくなったのは上手いと思いました。

 

 では、本作の「敵」は誰なのか。それは、ボビーの背後にある男性優位社会であり、無自覚な差別意識を持ってしまっている男性です。その象徴が、ジャックです。彼は何の悪意も無く、女性に対して、男性とは明らかに違う見方、待遇をしています。こう考えると、テニス協会は男性社会の隠喩な気がしてなりませんね。

 

 しかしこれは、テニス協会だけではありません。他でも端々に偏見が見受けられます。例えば、試合時のキャスターの「もう少し綺麗にすれば女優になれると思います」発言とか、科学的な根拠も無いのに、「女性の方が緊張に弱い」とかですね。さりげなくこういうことが出てくるのも良いですね。

 

 このような男性優位社会に対するのは、ビリー・ジーン・キング。彼女は「女性代表」を背負って戦いに行きます。このように、本作における終盤の試合は、「個人の戦い」ではなく、「男性優位論者」VS「権利を求める女性」の戦いになっていくのです。これが撮り方がさながら実況中継のような撮り方をしていて、本当に試合を観ている気分になり、手に汗握ってしまいます。

 

 以上のように、色々と計算されて作られている本作ですが、素晴らしかったのはラストシーン。全てが終わり、「皆が一緒になれる日が来る」と言ったテッドに背中を押され、ビリーが向かった先。そこでは、男性も女性もなく、皆が一緒になってビリーの勝利を祝っていました。これが、彼女が、そして、我々が思い描いている理想の未来のような気がして、何だか泣けてきました。結論として、とてもいい映画でした。