暇人の感想日記

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『悪い奴ほどよく眠る』の痛快娯楽版【椿三十郎】感想

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96点

 

 巨匠・黒澤明監督の名作時代劇。三船敏郎演じる浪人がほぼ同じキャラクターなため、事実上、『用心棒』の続篇的な作品です。本作の内容も前作『用心棒』と同じく「痛快」な娯楽作品でした。しかし、その「痛快」さは前作とは異なっていて、その違いも非常に面白い作品でした。

 

 『用心棒』はどういう話だったかというと、宿場で2つに分かれている組を無敵の用心棒が翻弄し、最後には全滅させるというものだったと思います。宿場を支配しているヤクザは一見強そうですが、一皮剥けばそいつらは全員小心者のバカであり、そこを喝破されて良いように翻弄される姿がおかしく、一種の痛快さがあったと思います。

 

 では、本作の痛快さは何かと言うと、汚職をしている権力者を、浪人が若者たちと共に倒す」という王道の痛快さです。「権力者の汚職を暴く」これは2年前に撮った『悪い奴ほどよく眠る』を彷彿とさせる内容です。劇中にも「悪い奴らは案外分からんもんだよ、危ない危ない(うろ覚え)」と、『悪い奴ほどよく眠る』を彷彿とさせる台詞が出てきます。しかし、権力者との戦いに敗れてしまったこの作品と比べ、本作では悪い奴らはきちんと成敗されます。このように、本作は現代でも起こっていることが題材なのです。2018年の今でもいますからね。差別的な発言したり汚職したりしても平然としてる奴らが。だからこそ、余計に痛快さや娯楽性が高まります。

 

 このように、『用心棒』とは娯楽性が違うと書きましたが、同じような側面もあります。それは「人間は外見では中身は分からない」ということに形を変えて存在しています。本作では、有能そうな人間こそ悪で、無能そうな馬面が中々の人物でした。

 

 また、本作で素晴らしかったのは、「音」です。音の強弱を使い分けることで、物語に見事に緩急をつけています。無音になった時の緊張感が半端ではないです。さらに、やはり素晴らしかったのは終わり方。有名な仲代達矢との一騎打ちの果てに「あばよ!」と言い残し去るという何とも切れ味のある終わり方。やっぱいいですね。