・はじめに
動画工房のオリジナルアニメ。感情表現が乏しい多田くんと留学中の王女、テレサとの恋模様を描く。私にとって面白かったのは、回を重ねるごとに本作に対する印象が変わっていったことです。具体的に書けば、序盤は「軽い気持ちで見られるラブコメ」でしたが、後半に行くにつれ、「良作」へと評価が変わりました。だからどうせなので、印象の変化を時系列で追いながら感想を書いていきたいと思います。
・序盤
まず第1話。上述のように切ない系の作品だと思っていたのですが、見始めると、そこで展開されるのは結構ライトなラブコメ。カメラワークとかキャラの繊細な動きとかおっと思うところがあるにはあったのですが、やや肩透かしな印象を受けました。続く2話も軽いノリで進む展開で、そこまでと突出した面白さはなかったのです。3話はニャンコビッグ視点の話という変化球で面白かったのですが、この作品がどこへ向かっているのか分からなくなりました。この印象は4,5話でも変わることなく、この時点では、本作は私の中では軽い気持ちで見られるラブコメでした。
・中盤
そんな中、最初に印象が変わったのが第6話。多田くんのテレサに対する印象が変わった回でもあります。ここで1話のリフレインが多数行われ、第1話と同じくカメラのフレームを使うことで、テレサに対する印象が変わったことを端的に示していて、素直に感心しました。
そして第7話を置いて第8話。本作はここからの畳みかけが半端じゃなかったです。それまでは多田とテレサには焦点を当てた回はあまりなかったと思うのですが、それを挽回するかのように群を抜いたコンテとレイアウト、演出でもって2人の心情の揺れ動きと近づいていく距離感を表現していました。そして同時に、ここから、ここまで積み重ねてきた話の意味がつながっていくところも見ていて心地よかったです。
・後半
その2人の心情描写の積み重ねが極に達した思うのが10話と11話。10話ではテレサの一緒にいたいけどいられないという、埋めがたい距離感を見事に表現していたと思います。
そしてテレサが消えた後の11話。多田視点でテレサの喪失を実感させる演出と、多田が自分の気持ちに気付いたときに、写真という記録媒体、OP、EDの歌詞、多田の過去の後悔といった本作の全ての要素が繋がります。ここで私は舌を巻きました。素晴らしい回でした。そして、本作の方向性が『ローマの休日』的な「結ばれない2人の一生分の恋物語」だとようやく分かりました。遅すぎか。
また、余談ですが、この回を見た後だと、ギャグ回だと思っていた第3話が結構重要な意味を持っているのではないかと思えてきます。ニャンコビッグはこう言っていました。「男と女は8秒目が合えば恋に落ちる」と。で、実際に第1話で2人があったときに何秒見つめ合っていたか数えてみました。そしたらちゃんと8秒程見つめ合っているのです。この2人。あれ伏線だったのか。
ラルセンブルクへ行って互いに気持ちを伝えた2人。もうこれでそれぞれ別の人生を歩むのかと思っていたのですが、最後にくっつくんですよね。この2人。あそこはたしかにずっと(物理的に)距離があった2人がついにそれを0にするという感動的な場面でしたけど、私は上述のような話だと思っていたので、少しモヤモヤしました。でも多田くんの物語としてはこれでハッピーエンドな気がしなくもない。「いつも大事なものを離してしまう」彼がようやく掴んだ大事な存在ですし。
・おわりに
このように、抜群の演出力で後半かなり評価が上がった作品でした。ただ、多田くんとテレサの話以外のキャラの恋模様って必要だったかなという疑問は残ります。多田くんの周りにいる、多田くんを大事に思ってくれる存在としてありなのかな。そう考えると優しい話だな。
小説版こちらはテレサ視点なのかな。
多田くんは恋をしない テレサ・ワーグナーの事情 (角川ビーンズ文庫)
- 作者: 中村能子,谷口淳一郎,加々見絵里
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/06/01
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
主題歌。作品と密接にリンクしたいいOPでした。
TVアニメ「 多田くんは恋をしない 」オープニングテーマ「オトモダチフィルム」
- アーティスト: オーイシマサヨシ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2018/05/23
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
エンディング。こちらも作品とのリンク率高し。
TVアニメ「 多田くんは恋をしない 」エンディングテーマ「 ラブソング 」
- アーティスト: テレサ・ワーグナー(CV:石見舞菜香),石見舞菜香
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2018/05/23
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る