暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

より一般向けにした結果、前作が持っていた最大の特色が失われた作品【パシフィック・リム アップライジング】感想

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55点

 

 「もし、日本のロボットアニメ、特撮をハリウッドが本気で作ってくれたら」

 これは世界中にいる大きな男の子の夢でした。しかし、所詮は夢。叶わないものと多くの人間は諦めていました。しかし、ただ1人、諦めていない男がいました。男の名はギレルモ・デル・トロアカデミー賞で作品賞を獲るほどの腕前を持つ実力を持つ監督ですが、同時に筋金入りのオタクでもあります。そんな彼が自らのオタク魂を存分に注いで制作したのが前作『パシフィック・リム』でした。彼の夢を詰め込んだこの作品は、公開されるやいなや大きな男の子の心を鷲掴みにし、全世界を熱狂させ、未だにカルト的な人気を誇っています。

 

 何故この作品がここまでのカルト的人気を得たのか?それは、我々が求めていたアニメ、特撮的な「ツボ」を完璧におさえていたためだと思います。発進までのプロセス、技名をちゃんと言う、チェーン・ソード、音楽、主人公の機体が活躍する理由、そしてそれをストーリー的に違和感なく、カッコよく見せる演出など、特撮的な様式美を踏まえられていました。さらにそれが表面上の「オマージュ」に終わっていません。「巨大ロボ作品」が観たいのならば、マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』シリーズを観ればよいのです。しかし、本作があちらと一線を画す点は、「オマージュ」が映画の中に自然に溶け込み、シーン毎に既視感があるにも拘らず、きちんとオリジナルの作品として昇華されている点です。しかもそれを190億円という目玉が飛び出るほどの予算を使って大真面目にやっているのです。

 

 そして5年という歳月が流れ、遂に公開された本作。禁断症状を起こしつつあったファンにとっては、待望の続篇でしょう。私も例外ではなく、気合を入れてIMAX3D字幕で鑑賞してきました。・・・しかし、観終わった今は、どこか落ち着いた気持ちがありました。というか、言いたいことがたくさんある微妙な作品となっていました。その理由を考えながら書いていきたいと思います。

 

 本作が前作と比べ、大きく魅力が削がれてしまった主な要因として、前作にあったツボが押さえられていないことが挙げられます。例えば、メインであるロボットアクション。前作は上述のように、監督の日本のロボットアニメ、特撮への愛が溢れていて、そこにフェティッシュすら感じました。ですが、本作ではその感じがごっそり抜かれ、ただただ東京をぶっ壊しているだけの展開が続きます。この監督がロボットと怪獣がただ暴れている姿が好きなのか、上の人間の意向の結果こうなったのかは知りませんが、ただただ残念です。この結果、本作はただの『トランスフォーマー』となってしまいました。いや、『トランスフォーマー』でも良いんです。でも、私が観たいのは『パシフィック・リム』なんですよ!

 

 また、戦闘の最中に微妙な外しギャグを入れている点にも疑問が残ります。せっかくシーンとして決まっても、そこはカッコいいままでいいと思うの。

 

 さらに、ロボットの登場シーン、稼働シーンにカタルシスがあまり無い気がします。これも大問題です。造形は前作よりも洗練されていて、それはとてもカッコいい。素晴らしい。色々なタイプのロボットを揃え、多方面に満足感を与える作りも良い。ですが、上述の要素が微妙。前作は出動までのシークエンスを1回は丁寧に描いていました。それが非常に細かく、監督のフェティッシュを感じ、我々のツボを直撃しました。しかし、本作はこの過程があまり描写されてない。しかも、初出動のときは、もうちょっと劇的にやろうよと言いたいなぁ。ジプシー・アベンジャーの初戦闘は襲撃の迎撃ですからね。そこはピンチの時にやってくるぐらいの展開は欲しいですよ。

 

 次に、ストーリーの微妙さを挙げておきたいです。宇多丸さんはご自身のラジオで、前作のストーリーを「50話あるロボットアニメの1話と2話と最終話を繋げただけ」と評していました。それになぞらえて書くならば、本作は「全25話くらいあるロボットアニメの総集編」だと思います。妄想すると、「起動篇」「シャオ社篇」「怪獣再来篇」の3篇を新規カットを用いて無理やり繋げた感じ。で、TVシリーズではシャオの社長は悪役だったんだけど、編集で繋げて善人にし、「彼」を悪役にストーリーを作り直したって感じです。

 

 故に、大きな問題が生まれました。本作は「新世代」がフィーチャーされていますが、そのキャラ全員の描き方が浅いのです。浅いのは主人公たちも例外ではありません。あまり描かれていないです。ジェイクは何故、戦う決意をしたのか。マコが死んだから、というのは分かります。しかし、それは無人機のせいであり、「イェーガーとして」戦うことの決意に直結しないと思います。しかも、「前の世代へのコンプレックス」みたいなものを抱えているのはジェイクぐらいな気がして、テーマが薄まっている気がします。

 

 テーマ的にも微妙ですが、ストーリーそのものも微妙です。彼女は何故技術者ではなく、パイロットとして採用されたのかとか、マコの死がほとんど無駄死にだったとかですね。

 

 このように微妙な点が多いくせに、妙に監督の趣味が入ってきます。ガンダム壊さなかったり。それが、前作で我々が大変危惧した「日本のロボットアニメの表面上のオマージュ」に近いもののような気がして、少しゲンナリしました。

 

 このように、本作は、「次世代へ繋ぐために、フェティッシュな要素を減らし、全世代向けにした」結果、前作が持っていた最大の特色を失ってしまった作品だと思います。ただ、白昼のバトルは良かったよ。