暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

誰かの愛に包まれた人生っていいよね。【さよならの朝に約束の花をかざろう】感想

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65点

 

 『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』『とらドラ!』『心が叫びたがっているんだ』などで知られる脚本家、岡田麿里。彼女の初監督作。脚本家が監督に転向することは実写だとよくあることです。邦画で有名どころを言えば、宮藤官九郎とか、三谷幸喜が挙げられます。しかし、アニメーションの世界で、しかも女性が脚本家から監督をしたことは、過去に例が無いのではないのでしょうか。しかも、初監督である彼女をサポートするべく集まった人材は、篠原俊哉平松禎史井上俊之といったベテランスタッフ。こんな異例の作品であれば、アニメをそれなりに見る身としては気になるのが性というものです。という事で、初日に鑑賞しました。

 

 驚きました。初監督作として、堂々たるものになっていたからです。内容も、彼女の作品らしい、清濁が入り混じった、愛と人生の話でした。ここで出てくる「愛」は、恋愛や母性愛など、特定の「愛」ではなくて、全てを総括した意味での「愛」だったと思います。

 

 本作の主人公は2人の女性、マキアとレイリア。ここで重要なのが、彼女たちが歳をとらない「イオルフ」であり、「別れの民」と言われていること。歳をとらず、人間とはいずれ死別してしまうから自らをこう呼び、外界との関係を断っています。本作はそんな彼女たちを狂言回しにして、普遍的な「愛」と人間の人生を浮き彫りにしていきます。

 

 本作は、まず人間から強襲を受けたマキアが、人間界に「落ちてくる」ところから始まります。これはまさに神話的な存在が下界に落ちてきたことを意味していると思います。つまり、本作においてマキアとレイリアは神話的な存在なのです。

 

 そんなマキアが拾ったのは同じく独りぼっちだった赤ん坊のエリアルを拾います。個人的にこの時の、母親の指を一本一本折っていくシーンは母親の力強さを示した名場面だと思います。彼女はエリアルを「ヒビオル」とし、育てていくのです。

 

 エリアルはどんどん成長していきます。しかし、マキアは歳をとりません。故に、場所を転々とします。エリアルは成長し、幼少期から思春期を経て、大人として自立していきます。それを駆け足ながらも要所要所で語っていきます。ここで興味深かったのは、マキアも一緒に「母として」成長すること。子どもから教えられることがたくさんあるのです。このことは、私自身も聞いたことがあります。こうして、2人は共に成長していくのです。これは我々の実人生の寓話であることは明白ですね。

 

 一方、「共に成長する」マキアと対照的なのがレイリア。今回の岡田磨里の被害者です。彼女は王宮に幽閉され、「王の母親として」振舞うことを強要され、しかも、「子どもを産むため」にしか必要とされていません。しかも子どもにも会えないし。ちなみに、この時に出てきた王子がキモデブってのは岡田さんらしいなぁと思いました。更に脱線すると、攫われた他のイオルフは一体どうなったのでしょうか。ねぇ?・・・などどいうゲスな勘繰りもできてしまうのです。

 

 そんなこんながあった後、マキアとレイリアは人間界から離れます。しかし、その結末は、それぞれのものでした。

 

 マキアはラストで彼の子どもの出産に立ち会います。彼女が育てた命から、また新たな命が生まれたのですね。これが戦闘シーンと並行して描かれているのは面白いなぁと。対してレイリアはひどい目に遭いましたが、娘と会い、世界を肯定して去ります。

 

 本作はマキアとレイリアの話ですが、同時にエリオルの一生でもあります。彼は普通に生きて、幸せになって死んでいきます。そしてその傍には、常にマキアがいました。いなくても、多分遠くから見守っていたのでしょう。つまり、どんな時も、マキアからの愛に包まれていたのです。人間って、愛されるなら、どこでもその人がいる場所が居場所になるのですね。

 

 このように、本作はマキアとレイリアという神話的存在を使い、人間の一生を浮かび上がらせるとともに、普通は目に見えない「愛」を彼女たちという形として描いた作品だと思います。

 

 ただ、言いたいこともあるのも確か。色々と話しすぎな気がします。その度にストーリー止まってたような。細田守さんが『バケモノの子』と作った時も自分で脚本書いて説明しすぎてたけど、やっぱり監督が脚本も兼任すると、言いたいことがモロに出ちゃうのかな。後、時間経過が少し分かりにくいときがあった気がしたとか、やっぱりラストは泣かせようとしすぎで、少し冷めちゃったとかです。でも、やりたいことは分かったし、初監督作でこれは凄いと思います(何様だ)。