暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

狂ったアクションのつるべ打ち【悪女/AKUJO】感想

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94点

 

 前代未聞のアクションが展開されると評判の本作。映画館で予告を観て、その常軌を逸したアクションに唖然とさせられ、公開されたら絶対に観たいと思っていました。

 

 監督のソン・ビョンギル氏は監督になる前、スタントマンになろうとして挫折した過去があるらしく、本作にはアクションに対する自身の想いのたけを思いっきりぶちまけたそうです。この執念の結果かどうかわかりませんが、本編には、予告編以上に常軌を逸し、狂っているとしか思えないアクションのつるべ打ちで、圧倒されてしまいました。

 

 まず冒頭、7分間のカチコミから凄い。『ハードコア』でも用いられた主観映像技術に、CG処理と編集で、疑似的なワンシーン・ワンカットを作り出し、スクヒが50人以上の敵を次から次へと倒していく様を見せていきます。これによって、観客はスクヒと一体化し、まさに映画の中に「放り込まれ」ます。そしてそこから「客観」に変わる視点の転換が非常に上手い。鏡に映ったスクヒを中心としてカメラが回転し、今度は『キングスマン』風味のアクションへと移っていきます。あそこまでふざけてはいませんけど。この流れが非常にシームレスに行われ、観ていて気持ちいいです。

 

 上記の一連のアクションだけで本作は生半可な作品ではないと確信しますが、アクションは、ここからさらに多くのバリエーションを見せてくれます。例えば、スクヒの初任務で起こったバイク・アクション。これも「バイクに乗ったまま日本刀を持った刺客複数とやりあう」という二次元でしか見たことが無いようなシチュエーションです。でも本当にやっています。どうやって撮っているんだと思って観てましたが、どうやらカメラマンもバイクに乗って撮ってたらしいです。何じゃそりゃ。しかも最後に川に落ちるし。

 

 他には派手さはないのですが、絵的に美しい狙撃のシーン。あれは素直にかっこいい。あれだけで料金分の価値ありだと思います。そしてその時の衣装が花嫁衣装でまた意味深なのですね。

 

 ここまで、カッコいい、狂ってるアクションを見せられ、感覚が麻痺してきます。「もうここまで見せられたらさすがに驚かないだろ」と思ったら、ラストですよ。あそこが作中で最もぶっ飛んでいるアクションでした。車のボンネットに乗り、斧を刺してバランスをとり、後ろ手で車を運転する驚異のチェイス・シーンです。もはやあれはターミネーターですね。そしてバスに乗り込んでからのやっぱり大乱闘。何なのこの映画・・・。昨年、『RE:BORN』を観て、こりゃ凄いと思いましたが、すみません、本作はあれ以上です。

 

 ここまでずっとアクションのことを書きましたが、ストーリーも展開が工夫されていて、とても面白かったです。

 

 内容は、スクヒという女性が1人の「悪女」となるまでです。作中、スクヒは2度「死に」ます。1度目は父親を殺され、「おじさん」という最愛の人の「武器」となった時、2度目は冒頭のカチコミの後、政府の暗殺者となった時ですね。本作では「過去に悪女となる過程」と「現在、悪女になる過程」の時系列を巧みにシャッフルして、並行して描いています。そして、ある一点でストーリーがつながることで、「真の敵」が分かる構図となっています。

 

 冒頭のカチコミの後に映ったスクヒの顔は非常に幼いです。それは政府に捕まってから整形され、今の顔になるのですが、それが彼女が少女から女になった気がしましたね。そして彼女は新たな人生を送り、別の男を愛するも、結果は無残なものになってしまいます。

 

 このように、彼女は2度別々の男を愛し、別々の理由で裏切られました。そしてその過程で何もかも失った彼女が横転したバスの中から出てくる。それが冒頭と対比されることで、スクヒが3度目の「生まれ変わり」をしたのだと分かります。しかしそれは完璧なる「悪女」としてです。少女時代から描かれてきた彼女の過酷な人生。その結末はとても悲しく、やりきれないもので、ただのアクション映画とは思えない余韻を残します。

 

 最後に。本作の成功は主演のキム・オクビンさんの力によるものが大きいでしょう。何と彼女、顔が見えているシーン全てで自分がアクションをしたらしいです。とんでもねぇ・・・。