暇人の感想日記

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革新的アニメーションで「人間・ゴッホ」を描いた意欲作【ゴッホ~最期の手紙~】感想

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80点

 

 去年の公開時から鑑賞したかった本作。年も越してしまい、主だった上映館では終了してしまったため、もう鑑賞は無理と考えていました。ですが、今年に入って私の行動圏内の劇場でやっていることを知り、時間もできたので鑑賞しました。

 まず、本作を観た誰もが凄いと思うのは、「ほぼ全編ゴッホのタッチの油絵(パンフによれば、一部水彩画らしいです)」という超実験的なアニメーションでしょう。実際に130点ほど彼の作品も使われているそうです。これは普通のアニメと同じく、1秒12カットで描かれ、90分の本編で、合計62450枚もの絵画が描かれているそうです。よく、映画では「構図が決まっている画面は絵画のようだ」と言われることがありますが、本作は1枚1枚を本職の画家が描いているため、1シーン1シーンが本物の絵画であり、故に、我々は「本当にゴッホの絵が動いている」と思い映画を観ることができます。アニメーションは”アニマ”を語源としており、そのイズムは”アニミズム”と言われ、「森羅万象には生命が宿っている」とされています。つまり、本作は「絵画」という静止した芸術を「アニメーション」としてい描くことで、静止した芸術に生命を宿しているのです。

 制作に際しては、まず実際に俳優に演技をさせ、それをもとに画家がアニメーターのように1枚1枚絵画を描いていたようです。そしてそれを記録し、ワンカットを作り上げていったとか。本作の総制作期間は7年で、1秒に10日をかけたそうです。読んだだけで気の遠くなる作業です。

 何故このような手法をとったのか。それはゴッホが弟テオに送った手紙に綴られた文章から推察できます。その内容は、「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」というもの。ゴッホの生涯は、ゴッホの絵でしか語れない。それ故なのかもしれません。

 話の内容は、郵便局員の父からゴッホの最期の手紙を託された青年アルマンが、ゴッホの死の真相に迫っていくというもの。普通の伝記モノとは違い、どちらかと言えばドキュメンタリー的な要素が強い気がします。これはおそらく、企画当初の名残だと思われます。企画当初はゴッホの関係者へのインタビューの短編だったそうですから。

 そして、証言者によって彼の人柄が違うという、「羅生門スタイル」的な内容にもなっています。これにより、観客はアルマンと同化し、想像でしかゴッホという人物を知ることができなくなります。普通の伝記モノではゴッホの生い立ちそのものを描いているのとは違い、断片的な内容からしゴッホが分からないのです。ですが、そこから導き出されるのは、苦しみながらも芸術に命を懸けた男の一生でした。今では世界的に有名な彼ですが、生前は散々なものでした。その果てにあの結末。正直、優しすぎる結末です。ここから、本作は「芸術家・ゴッホ」ではなく、「人間・ゴッホ」を描いた作品と言えると思います。

 「自分が描いた絵で、人々を感動させたい」ラストに出てくる文章です。今、彼の作品は世界中で愛されています。あの一連のストーリーを見せられた後にこの文章を読むと、何だか泣けてきますね。また、本作はほぼ全編がゴッホの作品を基にしています。故に、本作自身も彼の作品であり、それに感動したということは、彼の、そして本作のスタッフの苦労が報われた気がして、良い余韻を残しました。