暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【戦争のはらわた】感想

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80点

 

 去年のデジタル・リマスター版の上映開始時からずっと観たかった本作。ようやく私の行動範囲内の映画館で上映されたので、鑑賞してまいりました。

 まさにサム・ペキンパー版の戦争映画でした。『ワイルドバンチ』で見られたカットを細かく割ったバイオレンス描写は本作でも健在。確かに凄惨なのですが、この演出自体が結構スタイリッシュなので、『仁義なき戦い』のような泥臭さはありません。それでも本作が戦争映画として素晴らしいと思えるのは、本物と見間違えるくらい、戦場を凄惨に描いたためだと思います。プライベート・ライアン』以後でも本作は衝撃的でした。

 しかも悲惨なのは戦場だけではなく、戦況もそうです。本作で描かれているのは、スターリングラード戦後の撤退戦。もはや彼らには勝ち目は薄く、ただ生き延びるためだけに戦っているのです。

 そして本作の特徴として、ドイツ軍の話であることが挙げられます。昨年のナチ映画ラッシュのように、第二次大戦ものでは確実に「悪役」の立ち位置にいるドイツ軍ですが、本作では主人公なのです。しかし、別に当時のナチスを肯定する内容ではありません。主要登場人物のほとんどはナチスの思想とは関係なく、戦場に魅せられた「一兵士」として描かれています。その代表がシュタイナー率いる第二小隊。彼らは思想など関係なく、ただ兵士としての誇りをもって戦っているだけです。さながら往年の名作TVドラマ『コンバット!』を彷彿とさせます。故にナチスの思想にも従いません。このように、登場人物に思想を持ち込ませないことで、本作はイデオロギーを離れ、純粋に戦争の凄惨さを抉り出した作品になったと思います。

 そして、その対極にいるのが、マクシミリアン・シェル演じるシュトランスキー大尉。彼はシュタイナーとは違い、名誉に固執しています。味方に多少の犠牲が出ても自らの成果になれば何の問題も無いと思っている男です。彼は自分の命令に従わないシュタイナーを疎ましく思っています。本作は、この2人の確執がメインとなっています。

 この2人の確執に決着は着くのか、と言えば、実はそんなことはないのです。本作は非常に唐突に終わります。どうやら資金難が原因だそうです。しかし、後でよく考えてみると、確かに唐突ですが、これはこれでありだと思えるようになりました。

 ラストは、有名な「シュタイナーがシュトランスキーを笑い飛ばす」シーンです。編集のおかげか、これが本作そのもののテーマと被っているように思えます。シュトランスキーは名誉に固執していました。そんな彼を一兵士が笑い飛ばす。これはナチスそのものに対する嘲笑であり、同時に戦争に対する嘲笑でもあると思えるからです。本作は、このシーンにより、戦争の馬鹿馬鹿しさや虚しさを体現する作品になったと思います。そしてそれを呑み込んだうえで、終わる見込みのない戦争へと突入する2人を映し、あの地獄がこれからも永遠に続くことを思わせます。

 このように本作は、ペキンパーのアクション映画としての側面も持ちながら、同時に戦争が持つものを抉り出した作品だと思います。