暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【悦楽交差点】感想:「女性の自立」の話

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93点

 

 昨年、映画評論家の方々が大絶賛していたピンク映画。「皆殺し映画評論家」柳下毅一郎氏に至っては、2016年のベストにまでしていました。そうなると気になるのが人情というものです。そしてつい最近、「キングスマン」をレンタルしようとTSUTAYAまで行ったら、偶然にもレンタルされているのを発見。キングスマン」を後回しにして、本作をレンタルしました。

 

 「ピンク映画」というものは、映画的にも評価されているものも多々ありますが、AVがライバルと言われるように、多くの観客は、自らの性欲を満たすために観ています。そして、そう作ってもあります。それがピンク映画ですから。ですが、本作「悦楽交差点」は、そのような「画面の中の女優を欲望の対象として見ている」我々のような男性の顔面をぶん殴る、完全「女性上位」映画でした。

 

 「千人目の女を俺の嫁にする」そう誓って通行量調査をしているフリーターの春夫。そんな中、彼は交差点で運命の女性・真琴と出会う。五年後。春夫は人妻(ちなみに旦那は大手会社の部長)である真琴の家の隣に引っ越し、彼女をストーキングしていた・・・。

 

 序盤はこのストーカーのように、女性を欲望の対象としか見ていない男たちが多く登場します。春夫の同僚2人の会話は「デリヘル女がブスだった」とか、「あれとはやれんわ」とかそんな会話ばかりしていますし、春夫は春夫でストーカーですから。読唇術とか勉強しちゃって、真琴との仮想夫婦生活を満喫しています。真琴がセックスするときなんてわざわざデリヘル嬢呼んで同じプレイまでさせているんですよ。このデリヘル嬢も序盤は男にすがる描写が多いのです。

 

 ですが、この真琴という女は実は腹に一物持っていて、「自分はセックスしてりゃいい生活ができる勝ち組」と思ってるのです。「夫婦」という関係性を持ってるとはいえ、本質的には先ほどのデリヘル嬢と同じです。

 

 このように、序盤は圧倒的「男性優位」の世界です。しかし、中盤、この構図が一気に逆転します。ストーカーされる側とする側が逆転し、最終的には女が男を性的に支配し、自立する話になるのです。あることを機に、浮気してる旦那を尻目に、真琴は春夫とのセックスに明け暮れるのです。ここから伝わってくるのが「相手を選ぶのは自分」という彼女の考え。ここで、もう女性は「欲望の対象」としてではなく、1人の自立した人間として、セックスしてるわけです。 

 

 ここで、「見ている」のは我々観客も同じです。春夫は、ある意味で我々自身でもあるのです。つまり、本作は春夫を通して我々自身を映し出すことで、我々自身を批評的に見せているのです。そんなときにこの逆転劇ですから、我々、男としては、何も言えないわけです

 

 さらに止めと言わんばかりに終盤、春夫は真琴にプロポーズします。そのためにダイヤまで買って。「これでこのストーカーはハッピーエンドに行くのか」と思わせておいて、そうはならない。あのシーンからは、「ダイヤ買えば女が靡くなんて幻想は捨てろ。そんな安くねぇよ」という声が聞こえます。本作を観ると、男など、ラストのように女を追いかけることしかできない存在なんだなと思わされます。唯一の救いは、ラストの「頑張れ~」ですかね。

 

 本作の特徴的なこととして、映画としても、とても面白いということが挙げられます。シーンの省略とか、見る・見られる関係の逆転とか、伏線の張り方とかですね。城定秀夫。恐ろしい監督。

 

 

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