暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【トリュフォーの思春期】感想:大人の階段を上る子ども

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78点

 

 午前十時の映画祭で鑑賞。最初は観る気がなかったのですが、偶然時間ができたこと、そして、思えばこれまでトリュフォーを観たことがなかったので、お勉強のつもりで鑑賞しました。

 原題は「L`Argent de poche」訳すと「おこづかい」です。これは映画の中の1エピソードなので、全体としては「思春期」の方が内容を端的に表していますね。でも、出てくる子供たちは思春期前の子が多いのですが。

 ですが、私はこの「思春期前」というのがすごく大事だと思っています。というのも、今作は子供の「生まれてから初めてのキスまで」を描いた作品で、思春期前の子供たちを生き生きと撮った映画のためです。

 本作には思春期前の色々な年代の子供たちが登場します。メインの小学生たちから赤ん坊、保育園児までそれはもう様々です。そして、彼らのエピソードをオムニバス形式で描いていきます。最後でストーリー的に一本の線にまとまるなんてこともありません。しかし、そこから紡ぎだされるのは、子どもたちが持つエネルギーと可能性です。

 エピソードは様々で、有名な「ミミールどしんしちゃった」や、カツアゲされ、髪を切られた子、または何でもない「刑事コロンボ」の会話、転校生への興味、授業終了の鐘が鳴って速攻で帰る子供たちなど、思春期の子供にとってありがちなものです。そして、それを本当に子どもたちに自然に演技させています。何でも、これらはほとんどアドリブで撮ったとか。これが本当に良くて、映画の中なのに、自分の小さいころを思い起こさせるものになっています。

 そして、描かれるのは主に男の子です。女の子はほとんど出てきません。男子校のようです。哀しいね。でも、やっぱり男ですから。美人がいたら憧れるわけです。その象徴的なエピソードが、パトリックの(おそらく)初恋エピソードです。バラを送るのだけど全く相手にされず撃沈するあの絶望した顔が素晴らしかったですね。しかし、進級前の夏休みに、キャンプで初めて女の子と1つ屋根の下で行動を共にするわけです。そして、パトリックは女の子と初めてのキスを経験するわけです。ここで、「進級」はどうみても次のステージです。つまり、パトリックは、女の子を知り、キスをして、思春期という新しいステージに立ったのかなと思いました。つーか、あんなかわいい女の子つかまえるとかふざけんなよとか思いましたけど、まぁ、大変なのはこれからだよ。

 また、本作には子供だけではなく、大人も出てきます。子供目線のためか、大人は子供を抑圧してくる存在として出てきます。ただ、そこまで悪人というわけでもなく、子どもを導く存在としても出てきます。まぁ、今作の子供が恐ろしいところは、そんな大人の抑圧なんてどこ吹く風だってことですね。代表的なのが家に置いてけぼりにされた女の子のエピソードです。あの子は将来、大物になるでしょう。両親は安心していいと思います。

 印象的だったのは、子どものエピソードの1つに、DVがあったことです。この映画は1976年ですけど、もうフランスでは問題化されてたんですね。

 これに対する先生の演説が印象的でした。不幸な子供がいても、彼らは環境に負けず、生きていく。そして、選挙権を持ち、国を動かす存在になっていく。そんな子供に対する期待と強さを謳ったものだったと思います。

 このように、本作は、思春期前の子供を活き活きと描くとともに、子供の精神的成長、希望を描いた作品でした。