暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【ELLE】感想

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94点

 

 「ELLE」。フランス語で、「彼女」という意味だそうです。この意味の通り、1人の女性の話でした。そして同時に、ヴァーホーベンの世の中への挑戦状みたいな映画でした。

 この映画では、主人公は、一貫して我々が「普通は」こうなんじゃないの?という「常識」とは違った行動をしていきます。

 冒頭、いきなり主人公・ミシェルが襲われるシーンからこの映画は始まります。しかしこの女性は、受話器を取るものの電話するのは警察ではなく寿司屋。これから息子が来るため、出前を取ろうというわけです。その後も息子と普通に食事したり、翌日普通に出社したり、まるで何事もなかったように変わりなく生活していきます。しかし、レイプを気にしていないのかと言えばそんなことはなく、夢で犯人を殴り殺していたり、寝るときに武器を持って寝るなど、人並みに気にしてはいるのです。その他にも、友達の旦那と不倫していたり、かと思いきや隣人の旦那に惹かれ、窓から見てオナニーしたり、どんどん我々の思う「普通」の人ではない描写が積み重ねられていきます。

 そしてそれと並行して、ミシェルの過去も明らかになっていきます。彼女は大量殺人者を父に持っていたのです。そしてそのことで、警察不信になり、世間からは未だに目の敵にされています。そのせいで、見知らぬ人から食べ物の残り物をぶっかけられたりしています。でも、ミシェルはそれにすらあまり反応はしません。「あー、服汚れちゃった」くらいです。

 このように、ミシェルは、我々の思う「常識的行動」とは違う行動をし続けます。襲われても、殺人者の娘と言われようとも。そして、友人に襲われたことを告白しても、「お決まりの」反応しかなくて、うんざりもしています。そしてそれは、言われているように、自らを「被害者」として見てほしくないからなのです。ミシェルは、「被害者化」を徹底的に拒みます。

 これは世の中の「これはこうするべき」という「常識」に対するヴァーホーベンの挑戦だと思います。世の中には、「常識的行動」というものがあります。やれ被害者はこうあるべき、とか、こういう反応をしないのはおかしいとか、男が性に奔放だとそこまで気にされないのに、女が奔放だとどうして世間は厳しい目で見るのかとかです。そしてミシェルはおよそ「常識的」ではありません。被害者化もさせません。

 ミシェルは、性的にも男に屈しません。彼女は、終盤、こう言います。「嘘をつくのはやめたわ」と。そして、不倫のこととか、盛大にばらし、自らを性的に屈服させようとした犯人を撃退します。

 「自律」という言葉があります。意味は、「他社からの支配・制約などを受けずに、自分で立てた規範に従って行動すること」です。この映画は、ミシェルが自律した行動を終始描いていました。

 ラスト、全てが終わって、不倫していた旦那の奥さんから、「どうして旦那と関係を持ったの?」と聞かれます。そしてそれに対し彼女はこう言います。「したかっただけよ」と。社会的価値観とか関係なく、ただ、自身の中で規律を持ち、誰にも何にも服さない明確な宣言でした。

 「社会の規律とか常識とか関係ない。私は私の思ったようにやる」そんな宣言をした彼女が友人と2人歩くラストシーンは、社会の中で窮屈に生きている私たちにとって何とも言えない清々しさがあった気がして、少しカッコいいとか思っちゃいました。

 他にも、徹底された女尊男卑の世界は観ていて清々しくすらありましたね。男は大体馬鹿か使えない奴でしたし。そんな中、女性が何だかんだ自律した人間として描かれていた印象も持ちました。