暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【ベイビー・ドライバー】感想

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90点

 

 巷では、「ミュージカル・カーアクション」と言われている本作。その通り名に恥じることなく、常に音楽がかかり、しかもそれが映像と完璧にマッチしているという常識外れな作品でした。

 本作は、強盗をしている仲間を外で待つベイビーの姿から始まります。そしてかかる大音量のベルボトムズ。ここから怒涛のカーチェイスが始まるのですが、それが見事に音楽とシンクロしています。この瞬間より、音楽と画面上の出来事が一体化して、「音楽に合わせて」映画を楽しめるようになっていきます。音楽はカーチェイスだけではなく、日常シーンでもかかりっぱなしです。そこでも音楽と映像が完璧にマッチしています(札束を数える音とか、ワイパーの動き、果ては銃撃戦にも完全にシンクロしています)。個人的意見として、映画において音楽と映像は(見て、聞くという意味で)切り離されたものであると思っていましたが、本作は全編こんな感じなので、音楽と映像がシンクロし、音楽のテンションのまま映画を楽しめるものになっています。

 このように音楽とのかつてないシンクロぶりを見せた本作ですが、内容は結構シンプルだったと思います。主人公が「ベイビー」から「大人」になる話です。

 主人公は凄腕のゲッタウェイ・ドライバーですが、過去の事故が原因で耳鳴りが止まないという後遺症を負っています。そしてそれを打ち消すために、常にイヤホンをして音楽を聴いています。また、「仕事仲間」とはほぼ口を利きません。劇中、何度か彼の事故の様子、母親からipodをもらった記憶が出てきます。そしてベイビーはいまだにそれを使って音楽を聴いています。この一連の要素が、彼が「ベイビー」であることを示していると思いました。彼は事故のトラウマ、そして、外界と自分を遮断する手段として母親からもらったipodで音楽を聴いています。つまり、未だに母親のことを想い続け、「母親に護ってもらってる」状況なのです。そして、彼には父親もいませんが、周りの男どもはロクでもない奴らばかりです。ただただ迷惑なバッツとか、良い人っぽそうだけど女のためには殺人マシーンになるバディとか

 犯罪を犯して金を稼ぐ。違法だと分かっても目をつぶる。それが「賢い」と思っているベイビーですが、ある日、TV越しに「ファイトクラブ」のタイラーさんから、「利口でいても何の解決にもならない」と言われます。ベイビーの心の声ってことなんですかね。

 そんな中、彼は1人の女性と出会います。そして、彼女を連れて、脱出を図ります。ここでいう脱出とは、「裏世界」からの脱出です。要は足を洗うってことですかね。しかし、そう簡単には逃がしてくれません。この、「普通の生活がしたいけど、どこにも行けない」感じは、アメリカン・ニューシネマを思わせます。

 ベイビーはついに脱出を図りますが、ここで女性を守るために「仕事仲間」である男2人を殺します。それは彼にとってはロクでもない男。そして、父親のようなものだと考えると、今作は一種の父親殺し的要素を含んでいると思います。父親を殺して、愛する人を守る。そうすることで大人になったのか・・・?と見せかけて、あのラスト。あそこでベイビーは一旦全てを失います。そして失って、母親の保護から解放されたことで、彼はもはやベイビーではなく、1人の大人となり、本名を明かすのです。

 つまり本作は、アメリカン・ニューシネマ的な要素を含みつつ、1人の「ベイビー」の自立の話でもあるという、中々にすごい映画だなと思いました。もちろん、音楽とのシンクロ率は言わずもがなです。