暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

ジュブナイル映画の傑作【時をかける少女(2006年版)】感想

 細田守の快進撃が始まった記念碑的作品。私が今回、今作を観ようと思った理由は2つあります。1つ目は夏だから。2つ目は、細田守作品の面白さを再確認するためです。


 キャリアを着実に積み上げて、遂には作品ごとに一定のヒットを出せるまでになった彼ですが、新海さんが想定外のヒットを飛ばしてしまったため、現在では影が薄くなってしまった感があります。一部ネットでは、冗談半分に「もう細田は終わり。次は新海の時代」とか言っている輩もいるわけで。監督の価値を興行収入で測るのは違うと思うのですが、現実問題として細田さんの作品の興行を全部合わせても「君の名は。」の半分もいかないわけで。それでは細田守作品はダメなのか、と思ったので、今回鑑賞してみた次第です。

 

時をかける少女

 

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91点
 


 結論として、一回見たはずなのですが、記憶よりずっと素晴らしい作品でした。原作は言わずと知れた筒井康隆原作の名作SF小説で、ある日、タイムリープの能力を得た女子高生・真琴の話です。

 

 映画の序盤で、進路希望が問われます。ここに象徴されているように、本作は一貫して「未来」に進むことを描いていたと思います。

 

 真琴はタイムリープ能力を、実にくだらないことに使います。カラオケで何時間も歌ったり、好きな夕飯食べたり、テストで良い点とるためだったり・・・。ずっとこんな日々が続けばいい。誰もが一度は思ったことでしょう。ですが、千昭に告白された時から、永遠に変わらないと思っていた日常に変化が生じます。そして、自分がタイムリープにより「なかったこと」にした代償が他の人物に降りかかることを知るのです。

 

 Times waits for no one.作中に出てくる言葉です。意味は「時は待ってはくれない」その意味の通り、本作ではタイムリープを繰り返しても、「今」という時間は刻一刻と変化していきます。常に時は変化しているのです。しかし、変わらないものもあります。それがこれまで共に過ごしてきた「過去」なのです。例え親友と関係が変わっても、彼と過ごしてきた時間は変わらないのです。真琴は失敗してタイムリープを繰り返しますが、そこから学び取った経験は残っています。最後は犯してしまったことに彼女なりの決着をつけるのですが、それは過去の過ちから学んだことがあったからで、過去が積み重なって今、そして未来へ向かうのだと実感させられます。

 

 そして、ラストシーンが鳥肌ものでしたね。真琴にとって大切な人であった千昭と別れるシーンです。一旦フレームアウトして、真琴にとっての未来が閉ざされてしまう(この時、向こうに自転車を二人乗りしているカップル(=ありえたかもしれない未来)が映っている演出が切ない・・・)。しかし、千秋がフレームインして戻ってきたとき、真琴にとっての「未来」が一気に開かれたようで、感動しましたよ。

 

 タイトルは「時をかける少女」です。冒頭と終わりにタイトルが出るわけですが、これまで映画を観てきて、2つはそれぞれ、全く違う印象を抱かせます。冒頭はまさに「タイムリープをする少女の話」ですが、ラストで、「未来へ向かう普通の少女の話だったんだ」と思えたのです。冒頭とラストの真琴が全く同じシーンなのも、同じはずなのに、違う印象を受けるのも、映画を観て、真琴の成長を実感したからなのでしょう。

 

 結論として、本作は、ジュブナイルものとして、素晴らしい作品だったと思います。