暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【チェイサー】感想 ※ネタバレあり

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90点
 
 「哭声」「哀しき獣」のナ・ホンジン初監督作品。「哭声」でやられてしまい、監督作を観たいと思ったので鑑賞。「哭声」よりはちゃんとした映画でした。しかし、展開がこちらの予想をどんどん裏切るものだったり、常軌を逸した犯人が出てきて、何か人知を超えた宗教的な要素が入ってくるなど、「哭声」と繋がるところも多い作品でした。
 
 本作は題名の通り、「追う者」の話です。しかし、話の内容はどんどん変わっていきます。あらすじは、デリヘルを経営する中年オヤジ、ジュンホが、失踪した女性を探していくうちに、サイコ犯人の連続殺人事件に巻き込まれる、というもの。
 
 これだけ聞くと、「なるほど、追跡していくうちに犯人にあたるスリラーなんだな」と思います。ですが、この犯人、開始30分でジュンホに見つけられ、警察に逮捕されます。じゃぁ、犯人の足跡をたどる話なのか?と思ったらそれも違って・・・といった感じで、展開が常に我々の予想を裏切り続けます。明確な推進力があまりないのにグイグイ引き付けられます。
 
 ですが、そこには一本の筋があります。それは、この映画が「追う者」の映画だということです。主人公ジュンホは、最初こそ私欲ですが、中盤以降はある女の子のために、一種罪滅ぼし犯人を追います。それは物理的なものだけではありません。犯人は序盤で捕まっています。ジュンホが追っているものは、犯人の、もっと黒い何かです。そして、警察もジュンホも、犯人を検挙できません。あと一歩のところまで行くのですが、いつも掴み損ねるのです。そしてその結果悲劇が起こるのですが、何かが噛み合っていれば起こらなかったかもしれないと考えると、やるせない気持ちになります。序盤のある台詞がクライマックスで効いてくるのも、やるせなさを増大させています。ラストもこれぐらいしかできないけど、でも、少しだけ救いがあるような感じでした。
 
 普通の映画ならばここで終わるのですが、さすがナ・ホンジン。このままでは帰してくれません。伏線はあったのですが、急に宗教的な要素が入ってきます。そして、おぼろげながら犯人の動機が分かってきます。それは殺し方から推測できます。殺害方法は頭に釘を打ち込むという非常に残虐なもの。そして、キリストの磔刑像が映されます。これって、要するに聖痕ですよね。犯人は被害者に聖痕を打ち込んでいたと解釈できなくもないのです。しかも、被害者はデリヘル嬢ばかり。姦淫の罪を犯した者たちです。で、犯人はどうかというと、性的に不能なんですよね。つまり、犯人は神の使いで、罪を犯した女性を殺しまくっていた、と解釈できなくもないです。ここら辺も「哭声」っぽいです。
 
 後、韓国警察の無能っぷりには笑いましたね。特に「山を掘るんだよ」とドヤ顔で行ったときは爆笑しました。また、他にも笑えるシーンが多かったです。また、序盤クズみたいな男だった主人公が女の子のために立ち上がるシーンはなぜかかっこよかったですね。
 
 かなりキツい暴力シーンもあって(殺害方法がそうですし)みるには勇気を要する作品ですが、かなり面白いと思いました。