暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

『パルプ・フィクション』のような、傑作群像劇ノワール【藁にもすがる獣たち】感想

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93点
 
 
 非常にエネルギッシュで、めちゃくちゃ面白い群像劇。大金に群がる獣たちが繰り広げる血みどろ(文字通り)の争奪戦を描く。原作は何と日本の曽根圭介さんの同名小説。Twitterにて加藤るみさんが絶賛されていたので鑑賞しました。
 
 話自体はオーソドックスなノワールなのですが、編集がタランティーノの『パルプ・フィクション』みたいな感じで、時系列がバラバラなのです。そしてその編集方法自体がストーリー運びにおけるミステリ的なフックになっていて、物語が進んで、時系列がハッキリするにつれて映画の全貌が明らかになっていく、という構成をとっています。なので、観るには少々集中力が必要ですが、このパズルのピースがハマっていくような展開は面白く、そしてその度に登場人物の評価や印象が変わっていくため、これが物凄く面白いし、見応えがあります。
 
 役者陣も韓国オールスターと銘打っているだけあって、「濃い」人ばかり。物語の中心となるテヨンは汚職をやっている悪徳野郎なのですが、必死に金策をし、借金取りのドゥマンの調子をとろうとしている姿はどこか滑稽で、愛着が湧いてきてしまいます。そして本作のキーパーソンであるヨンヒの存在感は圧倒的であり、前半は不在の中心として君臨し、後半に出てきてからは、彼女の暴走が本作を搔き乱していきます。他にも、第3の主人公と言えるジュンマンのミドルエイジ・クライシスと言いますか、冴えない旦那演技も最高でしたし、何よりユン・ヨジョンさんのお祖母ちゃん演技も凄かったな。
 
 ラストも、あれだけメチャクチャやっておきながら、最終的にはあの血みどろの抗争からは全く無縁だった人物が冒頭のように大金を手に入れる下りも、「悪人は何も掴めない」というオチとして完璧でした。ヨンヒもテヨンも、あの場から逃げ出そうとしていましたけど、結局他人を陥れたりしていた、悪人だったんです。だから因果応報で死んじゃったし、逃げ出せなかった。だからその外にいる、貧しい人間にその金を行き渡らせろ、とでも言うようなあのオチは非常に痛快に感じたのです。まぁ、あの金を持って帰って、何をするかは彼女次第ですが・・・。
 

 

韓国ノワール映画。

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 近年の韓国映画はこれ。

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 連想作品。

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2021年夏アニメ視聴予定作品一覧

 早いもので、今年も6月が終わりました。つまりは1年のうち半分が終わってしまったということです。新型コロナウイルスは未だに猛威を振るっていて、ワクチンの普及もまだ全然とはいえ、普及しつつはあるよう。そんな中ですが、とりあえず夏に見る作品を紹介しようと思います。

 

◎=期待大、○=楽しみ、△=とりあえず見る、です。

 

2021年春アニメ視聴継続作品

「SHAMAN KING」

 

2021年夏アニメ視聴予定作品

ヴァニタスの手記」 △

「俺、つしま」 △

「かげきしょうじょ」 △

小林さんちのメイドラゴンS」 ◎

「Sonny Boy-サニーボーイ-」 ○

死神坊ちゃんと黒メイド」 △

「白い砂のアクアトープ」 ○

「ジャヒ―様はくじけない!」 △

「SCARLET NEXUS」 △

「探偵はもう、死んでいる」 △

ひぐらしのなく頃に卒」 ○

「平穏世代の韋駄天達」 ○

「ぼくたちのリメイク」 △

「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 2nd SEASON」 ○

 

 計13本です。実はそこまで見たい作品は無くて、一応見る枠の作品が多いです。そんな中、楽しみなのは「小林のメイドラゴンS」ですね。あの事件以降、初めての京アニのTV作品という事で本当に応援してます。後はマッドハウスの本気が見れそうな「Sonny Boy」、MAPPA新作の「平穏世代の韋駄天達」、「業」の続篇である「ひぐらしのなく頃に卒」あたりが楽しみな作品です。

 

 例によって、評判によって見る作品を決めたいと思います。

映画で映画を語る【映画大好きポンポさん】感想

映画大好きポンポさん

 
92点
 
 
 杉谷庄吾先生がpixivにて無料公開していた漫画が原作のアニメーション映画作品。ジャンルとしては「映画内幕もの」に該当します。アニメーション作品の内幕ものだと、昨年の公開の『劇場版SHIROBAKO』があるのですが、アニメーション作品で実写映画の内幕ものをやったのは本作が初なのではないでしょうか。監督は『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』の平尾隆之さん。原作既読の身としては、あの平尾監督が本作を撮る、ということで、大変楽しみにしていた次第です。
 
 本作は非常に変わった作品だと思います。ジャンル的には先述の通り「内幕もの」なのですが、その実写映画の内容をアニメーション映画でやる、というのです。なので、作品のビジュアルは非常に「アニメ的」。最たる例はポンポさんで、10代の少女が映画業界でプロデューサーをやっているなんて、本当はありえないですよ。しかし、話の内容は至って「実写的」だと思っていて、結構真面目に「内幕もの」に徹しています。キャラの芝居付けに関しても、アニメ的なものと実写的なものが混在していて、この点に、「アニメと実写のすり合わせ」が見えます。
 
 また、演出に関してもスプリットスクリーンや逆再生、ワイプを使った場面転換など、「実写的」なものが見受けられる、かと思ったら、後半の編集のような、アニメ的な大胆なアクション描写もあります。これは私見なんですけど、本作において、芝居付けにしても演出面についても、アニメ的な演出になると、非常に感情的な盛り上がりが大きくなっていたと思います。最たる例はラストの編集作業ですね。「映像を切る」こととポンポさんの「幸福は創造の敵」の言葉を重ね、「何かを切る」ことで傑作を生みだすという、本作におけるクリエイターの狂気を体現してみせた名シーンですが、「切る」という編集作業をBGMや演出をめちゃくちゃアクションに振っていて、クライマックスらしい、感情が爆発したシーンになっていました。
 本作は、以上の「編集」のように、作中の思想を映画そのもので体現した作品になっています。上映時間が90分というのが分かりやすい点ですけど、一番特徴的なのが、この「編集」という作業に焦点を当てた点です。編集とは、映画作業において重要な点であるにもかかわらず、このような内幕ものではあまりフィーチャーされてはこなかったかと思います。本作ではそこに焦点を当て、「90分の語り口」を完璧に再現してみせます。特に凄いのが前半30分で、原作の2/3くらいの内容を一気にやってしまいます。しかもそのシーンの繋ぎ方が前述のような凝り方。平尾監督は「好きな映画」で『グッドフェローズ』を挙げていたのですが、アレを彷彿とさせるスピード感でした。原作は「創作の狂気」を描いてみせた作品でしたが、そのような作品の映画化にあたって、その思想ごと映画で語ってみせるというこの作り方は、本作の「映画化」という意味で100点だと思いました。
 
 最後に、割と賛否両論の銀行員アランについて書こうと思います。正直、アランの下りが入ってしまったことで作品のテンポそのものが阻害されてしまった感があります。後半に山場が連続して2回来るため、展開的にダレるとか、そもそもあの展開はコンプラ的にヤバいだろとか、言いたいことはあるんです。ただ、アレが挿入されたことで、本作が「クリエイターの狂気の物語」から、「1歩を踏み出せない人への応援歌」へ、作品そのものの射程が広がった気がします。なので一長一短ですね。トータルでは本当に素晴らしい作品だと思います。
 

 

アニメーション版の内幕もの。

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 かなり変だけど、これも映画作り映画。

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シリーズの悪い点全部盛り【るろうに剣心 最終章 The Beginning】感想

るろうに剣心 最終章 The Beginning

 
42点
 
 
 2012年に第1作が公開され、「実写映画」の常識を覆してきた『るろうに剣心』シリーズの最終章2作目。本作は、原作の人気も高く、映像化という意味では「OVA版」という超がつく大傑作がある「追憶編」。正直に言うと、本作に関しては「OVA版」は越えられないだろうという思いと、前作にあたる『The Final』が微妙な出来だったのでそこまで期待はしておらず、付き合いくらいのつもりで観に行きました。そうしたら、本シリーズの悪い点が全て出ているシリーズの中でも最も微妙な出来の作品だったからビックリしちゃいました。
 
 本シリーズの最大の売りはアクションです。谷垣健治さんらスタッフと、佐藤健というフィジカルモンスターの組み合わせによって実現した、「目で追えないくらい速い」とされる飛天御剣流の見事な実写化は、初めて観た時は衝撃的でした。以後のシリーズでも100人斬りや屋内での乱闘など、従来の日本映画ではあまり見ないスケールのアクションを展開し、大きな見所となってきました。

 

 

 本作においては、前作までにあったスケールの大きいアクションは鳴りを潜め、代わりに「人斬り」として、血しぶきの舞う、陰惨なアクションとなっています。本作のアクション的な見どころは大きく3カ所あって、1つは冒頭の京都での人斬り、2つ目は原作にはなかった、沖田との一騎打ち、3つ目は闇乃武との戦いです。沖田のと一騎討は素晴らしかったですし、闇乃武との、原作にもあったトリッキーな戦い方を実写に落とし込んだアクションも見応えがありました(後述しますが、ダメな点はあります)。後、地味な点として、序盤の奇兵隊の人員募集の下りでの一騎討がとても良かった。褒めすぎかもしれませんが、『七人の侍』における久蔵の一騎討に似た雰囲気がありました。
 
 シリーズ恒例のアクションにはこだわりを感じます。では何が問題なのか?そう、ドラマパートです。以前よりこのシリーズのドラマには問題があって、役者を「じっくりと」叙情的に撮ってしまうため、全体的にテンポが非常にもっさりとしてしまうんですよね。前までのシリーズだと、アクションが結構な頻度で挿入されていたのでドラマがもっさりしていてもなんとか観ていられましたが、この「追憶編」は、ドラマがメインなんです。映画本編の大半はアクションが無い、剣心と巴の心の交流を描いたものです。なので、映画が全体的にもっさりしているんです。
 
 しかも、もう1つの問題点も浮き彫りになってしまっています。それは、「原作の上澄みだけなぞった感」です。この点も以前より言われていたことでしたが、私個人としては、膨大な原作を映画の中にまとめ切っただけでも偉いと思っていたので、あまり気にはなりませんでした。しかし、この「追憶編」は、話数にしてわずか14話、しかも「OVA版」の実写化でもあるという事もあり、脚本がほとんど一緒なんです。しかも、剣心と巴に至っては、演技のトーンまで「OVA版」に寄せている。更には、これは監督の演出の問題なのかもしれないのですが、有村架純さんがちょっと・・・。あれだけお上手な方なのに、何というか、「OVA版の真似」をしているようにしか思えないのです。これに輪をかけているのが事務的過ぎるストーリー運びで、OVA版の脚本を大して考えずに実写にしただろとしか思えない撮り方をしているのです。だから、剣心と巴が惹かれあった理由に説得力がまるで無く、「原作の上澄みだけをなぞった」感が強調されてしまっています。
 全体的な撮り方に関しても、OVA版第3幕「宵里山」にあたる農村パート以降は結構酷くて、農村パート自体がコントみたいな出来なのに、それに加え、アクションも若干もっさりしてしまっている。仕掛けは面白かったのですが、酷いのは北村一輝との一騎打ちです。あれだけ「殺し殺される」アクションを描いていたにもかかわらず、あそこだけ北村一輝さんが舐めプをしまくるのです。とにかく止めを刺さない。要はメタ的に言えば巴がくるまで待ってるんですけど、あれはカットバックが下手すぎだと思う。後、地味に北村一輝さんがアクションをしない。だから巴を斬ったシーンはこれまで散々見せられていたこともあり、映ったときには気持ちが冷めてました。おかしい、一番の見せ場なのに・・・。
 
 とにかくまとめると、「OVA版」の存在を意識しすぎた結果、役者の演技、編集、演出の全てが「上澄みをなぞった」感が半端ない作品に仕上がってしまいました。そしてそのために、あの2人が惹かれあった理由を説得力を持って描くことが最後までできておらず、映画に気持ちが乗れませんでした。で、加えてもっさりドラマパートなので、体感時間が長かったこと。
 
 ラストの円環についてもちょっと言いたいことがあります。スタッフ的には、あそこで上手いこと繋げてみせてドヤ顔晒してたと思うのですが、私個人としては、「るろうに剣心」という作品の性質上、アレは良いのか?と考えます。何故なら、「るろうに剣心」とは、「未来へ進む」物語だから。剣心が人斬りの過去と向き合い、過去の贖罪を一生かけて償う「答え」を見つけ、薫と一緒に「大きな一歩」を踏み出す物語です。『The Final』で一応それはやっていましたが、アレの後に円環構造にする必要はあったのかなと思います。確かに、あの円環構造によって、1作目から見返してみるとより深く『るろうに剣心』という作品を味わえるようにはなっていると思います。でも、あれでは剣心は「人斬りの過去」から抜け出せないのではないのでしょうか。そしてそれは、「るろうに剣心」という作品としては、如何なものでしょうか、という疑問です。
 ただ、良い点はあって、「大きな戦いで市井の人が虐げられる」点が強調されていたことです。剣心は「新しい時代のため」に清里を斬ってしまいました。しかし、それによって巴の幸せを奪ってしまいました。これは許されるのか?という問いかけがなされています。これは「るろうに剣心」という作品を貫く重要なテーマであり、「京都編」における剣心の台詞とも一致します。これが出来ていたので、何とか本作を肯定することができるかも、しれないです。にしても否定的な見方ですけど。
 
 他に細かい点では、「追憶編」は心太という少年が剣心となり、人斬り抜刀斎になり、流浪人になる物語なのに心太パートが描かれないのはどういうことだとか(これは福山雅治を呼べなかった説あり)、『The Final』では宗次郎を出したくせに志々雄は出ないんかい、とか、片貝と飯塚の区別がつき辛いとか、剣心と巴の声がボソボソ声すぎとかがあります。私は、本作に関しては微妙派です。
 

 

前作。

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 谷垣健治さんの盟友、ドニー・イェン主演作。

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2021年冬アニメ感想⑧【ホリミヤ】

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☆☆☆★(3.8/5)
 
 
 「堀さんと宮村くん」を原作とした「ホリミヤ」のアニメ化作品。実写で映画化、ドラマ化も同時にされており、多角的なメディア展開がなされています。私は本来的にはこの手のジャンルは専門外というか、基本見ないのですけど、監督が石浜真史さんだったこともあり、「まぁ見てやるか」程度の気持ちで見始めました。そしたら一風変わった感じの青春アニメで、大変満足して見ました。
 
 本作の中心は宮村です。序盤で孤独だった宮村が堀さんと出会い、周囲の人と交流を持ち、友人を獲得し、学校生活を楽しむ姿を描きます。この宮村から分かることは、「人間関係を結ぶこと」の大切さだと思うのです。本作には、「見た目」という要素が大きく関わってきます。宮村は根暗な「見た目」故に孤立しており、その宮村から見た石川君や堀さんは、所謂「イケてる」グループとして認識されていました。しかし、宮村の中身を見て、本当の意味で宮村を「知って」くれた堀さんを突破口にして石川君や吉川さん、生徒会の面々などと交流を深めていきます。前半は、こうして宮村が交流関係を構築していく様と堀さんとの仲を深めていく様が並行して描かれます。面白いのが、後半でも宮村が自分をいじめていた奴を赦すという展開があるんですよね。ここにも、他者を別の側面から見て、もう一度関係を結ぶという点が描かれています(まぁ俺だったら絶対に赦さんが)。
 後半からは固まってきた人間関係の中で各キャラクターが掘り下げられていきます。その姿は私のようなアラサーには大変まぶしく、また少しだけ懐かしくなる光景でした。というのも、ここで描かれているのは何てことない日常生活の中で時折フッと沸くちょっとした感情の動きとかなんですよね。それは恋愛感情だったり、宮村の過去のいじめとか暗い経験から来る黒い感情だったりするんですけど、それらをしっかりとつかんで描いてみせているのですね。本作は青春モノでありながら学校行事がほぼ描かれないという特異な点があるのですが、その代わりにこういった繊細な心の機微をしっかりとらえていて、それ故に、我々もどんな形であれ通過した「学生時代」というかけがえのない時間を思い出させるのです。
 
 こういった「日常」を宮村が手に入れられたのは、堀さんのおかげでした。堀さんは宮村を外見で判断せず、関係の構築に踏み込んでくれました。最終話でも宮村が言及していましたが、もし、何かのかけ違いで堀さんが声をかけてくれなかったら、もし、誰か1人でも欠けていたら、宮村はあの日常を手に入れることはできなかったと思います。そうしたら、ifの世界のように、そして過去の宮村のように、「無色な、何も無い高校生活」になってしまっていたと思います。人間関係を獲得したからこそ、宮村はかけがえのない時間を過ごせたのです。
 
 これは現実でも割りと言えることで、友人なり会社とか学校の先輩なりの人と関係を結んで、それによって人生というのは充実していくものなのです。そしてそのためには人と関わらなければならない。偏見や見た目を乗り越えて、関係を結べば、新しい世界が開けたりするものなのです。この点をちゃんと描いている本作は、なかなか良い青春ラブコメだと思います。唯一不満があるとしたら、卒業後の進路をちゃんと見せてくれなかったこと。彼ら彼女らが好きになっていただけに、卒業後、将来は何をしているのか、までを示してほしかったなと。そこだけが残念。
 

 

とりあえず青春&学園ものをば。

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2021年春アニメ感想①【極主夫道】

極主夫道

 
☆☆☆★(3.6/5)
 
 おおのこうすけ先生原作、ウェブコミックサイト「くらげバンチ」にて連載中のギャグ漫画をアニメ化した作品。「不死身の龍」と呼ばれた元最凶極道が主夫業に全力で取り組む姿を描きます。原作は高く評価されている作品で、国内外で多数の賞を獲得しています。私は原作は1巻を読んだだけの人間なのですが、話題の作品がアニメ化されるということで、とりあえず視聴した次第です。一応、ドラマ版も1話だけ見ました。切ったけど。
 
 本作は少し変わったアニメです。アニメーションとは、しばしば「動く」ことこそが真髄と言われます。アニメファンとしても、スタッフのレイアウトやアニメーターが生み出す、アニメーションのそういった「動き」や芝居に感動を求めています。それはしばしば「作画が良い」と言われます。逆に、あまり動かず、基本口パクで進むアニメは「紙芝居」と呼ばれ、低品質アニメ扱いされます。具体的に言うとちょっと前の「ONEPIECE」。

 

極主夫道 1巻: バンチコミックス

極主夫道 1巻: バンチコミックス

 

 

 本作はこの基準で言えば、「紙芝居」です。しかし、これは誰でも分かることとは思いますが意図的なものであり、「紙芝居」であることが原作の持つ「笑い」を再現することに十分な役割を果たしているのです。原作は確かに面白さはあるのですが、それはどちらかと言えば一発ネタに近いもので、「カリカチュアライズされた極道のノリで主夫業をやる」ことから生ずるギャップで笑わせるものでした。そして、それがサムいものになっていないのは、原作にあった独自の、何とも言えないテンポ感があってこそでした。原作は龍の「ボケ」に対する周囲の「ツッコミ」のコマとコマの緩急のつけ方、テンポが笑いに繋がっていた面があります。これは基本的に「絵」で表現する漫画ならではのテンポであって、「動く」アニメーションではまた違ったものになってしまいます。TVドラマ版は設定が薄い原作を毎回45分まで引き延ばすために余計な設定を盛り込みまくり、結構違う作品になっていました(※1話見ただけの人間の感想です)。本作はこのテンポ感の再現のために、敢えて「紙芝居」にしてみせているのです。これは同じく今監督の「ゴクドルズ」でも行われた試みであり、それは成功していると思います。
 
 これに加え、原作の魅力を再現することに貢献しているのが、声優さんの演技です。上述の通り、本作に「動き」はありません。アニメーションって、動きを「芝居」って言う傾向があるように、動きでキャラの心情を表現出来ているんですよね。我々はそれを見て、キャラの心情や感情が分かるようになっています。しかし、本作は「動かない」アニメーション。おおよそ「芝居」と呼べるほどのものはありません。そこで声優さんです。津田健次郎さんをはじめとした芸達者な方々の演技や声のトーンによって、キャラの感情が水増しされ、「ボケ」と「ツッコミ」がより上手く再現できています。
 
 以上のように本作は、原作が持つ魅力を、「動かない」アニメーションと声優の力量によって上手く再現してみせた作品だったと思います。これは結構いい「原作再現」だと思います。以上。
 
 

 ヤクザと超能力娘。

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2021年冬アニメ感想⑦【Re;ゼロから始める異世界生活 2nd season(第2クール)】

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☆☆☆★(3.6/5)
 
 
 昨年の夏に放送された、「Re;ゼロから始める異世界生活2nd season」の第2クールとなります。第1クールではスバルの内面を掘り下げてゆき、自暴自棄になりかけていたスバルが「他者を信頼する」ことで目的を達成する決意をするまでを描いていました。
 
 本作では、スバルではなく、エミリアの内面を掘り下げてゆきます。これまで、割と謎だったエミリアの過去が、彼女の封印を解くことで明らかになり、第1クールにてスバルがやったような、過去と向き合い、前に進むまでを描きます。そしてそれと並行して、同じく割と謎だったロズワールの思惑と、ベアトリスの過去も明らかになります。要はこの2nd seasonというのは、各キャラクターの内面を徹底的に掘り下げてゆく話だったのです。そのため、話の規模は非常に小規模。舞台は第1クール冒頭を除けばアーラム村とロズワール邸に固定されています。
 
 これは第1クールとは対照的です。第1クールはスバルが異世界に来てから白鯨、そしてベテルギウスとの決戦までを描いていました。そこではストーリーが進むにつれて世界のシステムや都が明らかになってゆき、世界が広がってゆくダイナミズムがありました。しかし、第2クールは違います。舞台は固定され、代わりにキャラを徹底的に掘り下げてゆくという、非常にミニマムな中で物語に厚みが加えられてゆくのです。

 

Re:ゼロから始める異世界生活 1 (MF文庫J)

Re:ゼロから始める異世界生活 1 (MF文庫J)

 

 

 そしてこの点こそが、本作の最大の特徴なのかもしれません。普通、異世界転生モノでは、「世界の謎」を紐解いてゆくという展開が主流です。確かにキャラクターの掘り下げは行われますが、本作ほど深くは行いません。本作は、「ループもの」という「同じシチュエーションを何回も行える」という設定を最大限に活かし、数多くのIFストーリーを作り上げ、キャラの多彩な側面を描き出し、キャラクターを深く描いてゆきます。これは「タイムループもの」としても特異で、基本的には過去改変の術として扱われるこのループ能力を、「現状打破の手段」として用いているからこそできることだとも言えます。つまりこの「2nd season」は、「タイムループによって各キャラの内面をこれでもかと掘り下げる」という本作の最大の特長が如実に表れた作品だったと言えます。
 
 ただ、それ故に問題があるのも確かでした。これは第1クールを含めての問題なのですが、とにかく話が動かない。第1クールから通算して、20話くらいまではスバルが立ち直ったりロズワールの過去が明らかになったりエミリアが前向きになったりがよく言えば丁寧に描かれていくのですが、それ故に物語がずっと似たようなことをしているため、停滞感が凄い。第1期ではこの溜めからのカタルシスが綺麗に、短期間に決まってくれたのでエンタメとして面白かったのですが、本作では溜めがあまりにも長いため、視聴完了までに大分時間がかかってしまいました。ただ、これは既に人気を確立してるが故のスタンスとも捉えられますし、これからのことを考えるならば必要な下りでしょうし、人気がある今のうちにやっておくという選択はありだと思います。
 
 そしてもう1つは、とにかく話が入り組み過ぎということ。話の大雑把な方向性としては各キャラの過去を掘り下げ、スバルとエミリアが一大勢力を築き上げるまでの物語だと理解したのですけど、その過程において、どんどん謎が積み上げられていって、私はそれを処理できなかったんですよね。だから、ロズワールが何を企んでいるのか最後の方までよく分からなかったし、そのためにスバルや他のキャラが何を目的にして動いているのかがよく分からないまま見ていました。そのため、私の話の理解としては、「何かロズワールが企んでるっぽいからそれをスバルが何とかして食い止めようとしている」くらいの薄ボンヤリとした感じでした。
 
 何故このような感じになったのかと考えてみると、1つは私の理解力の不足があると思うのですが、もう1つは本作の特長であるループ能力があるのかなと。1つの事柄を解決するために何度もIFルートを見せられ、そしてその度に謎が深まってゆくという作りは、キャラや設定の説明、深掘りとしては良いのかもしれませんけど、どんどん話が複雑になってゆき、目的が曖昧になっていった印象を受けました。これは上述の本作の特長と表裏一体であるため、悪い意味でも本作の特長が出てしまったのかなと思いました。
 

 

第1クール。

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 ループものその2。

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