暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

この世界への、怒りの表明【レ・ミゼラブル】感想

レ・ミゼラブル

 
94点
 
 
 昨年、カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞を『パラサイト 半地下の家族』と争い、アカデミー賞の国際長篇映画賞にノミネートされた作品。監督はフランスの若手であるラジ・リ監督。スパイク・リーが絶賛した映画であることと、上述のような実績から、興味はあったのですがなかなか時間が合わず、公開から3カ月近くたった6月にようやく鑑賞できました。
 
 タイトルの「レ・ミゼラブル」とは、もちろんヴィクトル・ユゴーの古典が元ネタです。作中でも、舞台が同じくモンフェルメイユですし、内容も「少年がちいさな盗みを働いたことがきっかけ」や、「警官に執拗に追い回される」という点で共通しています。そして内容自体も、「ミゼラブル」、つまり、「無情」なものでした。
 
 どう「無情」なのかと言えば、それは現代でも、階級の違いや人種の違いによって不信感や差別、偏見がまだ起こっているという点です。アメリカではジョージ・フロイトさんが不適切な拘束で死亡させられ抗議の声が高まり、BLM運動がここにきてまた大きくなってきています。本作の最後の行動のきっかけは警官の誤射であり、その映像を巡るやりとりがあるなど、現実世界とのリンクが凄いです。アメリカは多民族国家であり、人種間の差別や偏見が未だに無くならないわけですけど、それは世界的に見ても同じで、本作ではフランスにおける現状を描き出しています。
 本作はラジ・リ監督がドキュメンタリー畑出身ということもあり、ドキュメンタリー的な、そこに住んでいる人々をそのままの姿で捉えたような撮り方をしてます。後半30分くらいで一気に物語が動き出すのですが、それまではそこで生きている人々の中にある、爆発寸前の不信感や、怒りに満ちた日常を浮き彫りにしていきます。住民側にも社会階層や人種、宗教間で分断がありますし、中でも酷いのが警察。一番ひどいのが白人警官のクリスで、横暴な取り調べを強行し、器物破損、暴力を振りかざし、本作のヘイトを一身に集めています。
 
 これでは普通の善悪二元論的な作品(虐げられる市民VS悪徳警官)になりそうなところを、本作はそうしていません。悪徳警官であるクリスは、家庭では良き父、夫であるという姿が映されます。まぁ、あのシーンがあることで示されるのは、差別や横暴をしている人間は、「悪人」なのではなく、「普通の人である」という点だと思うのですが。さらに、新人のステファンという、第3者視点を用意し、彼が2人に働きかけることで、彼らの正義感に問いかけ、そして客観的に映画を観させてくれるようになっています。

 

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 宣伝でも言われているラスト30分ですが、そこで行われていることは、言ってしまえば暴動です。しかし、それまで散々警官の横暴を見せられているため、あの暴動は抑圧されていた側(=檻に入れられていたライオン)のどうしようもない社会、大人への意思表示と抵抗の形であり、同時に怒りの表明でもあります。この点で、本作はフランス版、そして現代版の『ドゥ・ザ・ライト・シング』であると思えるのです。ただ、問題なのは、あの作品は今から30年くらい前の映画だということです。現在でも、世界では分断がより可視化され、進んでいます。そここそが、「ミゼラブル(=無情)」な点だと思います。
 
 「レ・ミゼラブル」は、人類の希望の書とも言われています。本作の冒頭にあったような、2018年WCでフランスが優勝した瞬間のあのときのように、本来は皆は1つになる事も出来るのです。そこは希望なのかもしれませんが、そこに至るまではまだ遠い。本作と、そして世界で起こっていることを見るに、そう思わざるを得ませんでした。日本だって、見えていないだけで、こうした不満や怒りはそこかしこにあると思います。だからこそ、ラストの問いかけについて考えることはとても大切なのだと思います。
 
 

30年くらい前の映画だけど、内容の相似ぶりが凄い。

inosuken.hatenablog.com

 

 これも分断の映画。

inosuken.hatenablog.com

 

社会への告発【ルース・エドガー】感想

ルース・エドガー

 
88点
 
 
 「リスペクタビリティ・ポリティクス」という言葉があります。これは、「差別されないように模範的な行動をとる」ことを意味しています。近年、マイノリティへの差別・偏見を助長しないための配慮が盛んに行われ、BLM運動などからも、この風潮はさらに強まっています。そんな中で本作は、サスペンスという体裁を借り、「差別を克服する」ことはもちろん、克服しようとしている過程で生じている新たな問題(リスペクタビリティ・ポリティクス)に焦点を当てた良作でした。監督は『クローバーフィールドパラドックス』のジュリアス・オナー。例によって、存在を知ったのは公開直前で、前評判が良かったので鑑賞しました。

 

 

 本作のメインは、ルースとウィルソン先生という、2人の黒人の対立です。この対立から、現在のアメリカはもちろん、世界が抱えている問題を炙り出します。まず、ルースは「完璧な存在」です。文武両道で、裕福な白人家庭に引き取られ、過去のPTSDを克服し、将来を嘱望されているという、絵に描いたような完璧っぷり。しかし、彼がウィルソン先生に投稿した論文がきっかけで彼への疑念が生まれ、周囲を巻き込んでウィルソン先生と対峙していきます。本作が「サスペンス」であるのはまさしくこの点で、ルースの本心が分からない態度が輪をかけて、「優秀な学生が、実はソシオパスではないのか?」と観客は疑ってしまうのです。
 
 そしてこの視点を共有しているのが、ウィルソン先生と、ルースの両親、特にナオミ・ワッツ演じるエイミーです。ウィルソン先生を演じるのがこれまで「良い黒人」を演じてきたオクタヴィア・スペンサーであるという点も興味深い点で、「成功した黒人女性」という彼女のイメージが上手く役にハマっているのと、彼女自身の演技力で多面的な人物として描かれていました。彼女は「マイノリティの成功者」であり、それ故に苦労を知っています。だからデショーンも退学させたし、ルースを追い詰めようとします。彼女も、リスペクタビリティ・ポリティクスに囚われている人物と言えるのです。「成功者」であるが故に失敗を許さない彼女と、「成功が約束された者」であるけれども、この社会のおかしさに気がつき始めているルース。この2人を通して、世代間の対立が浮かび上がってきます。
 
 そして、そこにさらに「裕福な白人家庭」のエイミーの視点も組み込まれていきます。エイミーを演じているのはナオミ・ワッツで、夫役はティム・ロスという、『ファニーゲーム U.S.A』の夫婦なんですよね・・・ってのはどうでもいいとして、ルースの行動から、彼らの「リベラルな」価値観が揺さぶられていきます。ルースの行動から来る矛盾を上手く説明できないし、疑念は深まっていくばかりです。しかもエイミーは子どもが持てなかったらしき点も描かれていたりして、より複雑さが増してきます。つまり、ルースへの気持ちは、母親としての愛情なのか、リベラルな思想への執着なのか、裕福な白人家庭という罪悪感からなのか、もしくは全てなのか、分からなくなってくるのです。だから、最後に全てを知り、「共犯者」となった上で「母親」であろうとした姿が本当に切ない。

 

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 ただ、重要なのは、本作では具体的な「敵」はいないということ。問題なのは、どうしてこのような社会になってしまったのかということ。長い歴史が醸成してしまった差別や偏見の問題を克服しようとしたとき、新たな問題が別の形として生まれてきてしまっているという点を描いた作品なのです。「自由」であるためには、失敗は許されず、突出していなければならない。ラストのルースの疾走は、この窮屈な社会から逃げ出そうとしているように思えました。
 
 以上のように本作は、まさに「今」差別や偏見を克服しようとしている社会で起きている問題を真正面から捉えた、誠実な作品だったと思います。日本がポリティカル・コレクトネスがそこまで浸透していないうちから「行き過ぎたポリコレ」を問題視しているうちに、海外ではこういう映画を作っているんだなぁとも思いました。
 
 

2020年夏アニメ感想①【GREAT PRETENDER】 ※ネタバレあり

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☆☆☆☆(4.4/5.0)
 
 
 +Ultra枠の作品。『スティング』や、同じくフジテレビで放送されていたTVドラマ「コンフィデンスマンJP」と同じく、騙し合いを描いたコン・ゲームです。制作は「進撃の巨人」や「恋は雨上がりのように」のWIT STUDIO。監督は「鬼灯の冷徹」や「君の届け」の鏑木ひろさんで、キャラクターデザインはメインキャラは「新世紀エヴァンゲリオン」の貞本義行さん。そして何と言っても、脚本は「リーガルハイ」や「コンフィデンスマンJP」など、これまで実写作品を手掛けてきた古沢良太さんです。古沢さんの作品はとりあえずチェックするくらいにはファンですし、制作は信頼のWIT STUDIO。ここまで要素が揃えば「見る」以外の選択肢は無いので、NETFLIXにて先行配信で視聴しました。先行配信でも、まだCase4が配信されていないので厳密には終わっていない作品なのですが、今書かないと内容を忘れそうなので、とりあえずCase1~3の内容で感想を書いていきたいと思います。

 

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 Case1は、「どんでん返し」のサプライズの数は一番多い話。というのも、このCaseの中心人物は主人公のエダマメであるため。視聴者と同じく、ローランたちへの知識がゼロの状態であるため、次から次へと起こるどんでん返しに驚くことができるのです。ここではローラン達のメンバー紹介を兼ねているため、エダマメは何回も騙され、そして騙されるたびにローラン達の組織の全貌が分かってくるという作りになっています。まぁそれ故に後出しじゃんけん感が出てしまってはいますし、最後の方に至っては免疫が出てきて、だいたい予想がついてしまいますが。ちなみに一番驚き、満足度が高いのは第1話です。こういうのは最初が一番騙しやすいですからね。余談ですが、『スティング』だって、最初に一番騙されました。
 
 以上のように、Case1は「初見」であることを最大限に活かしてサプライズを用意しまくった回でした。しかし、Case2、3ではもうメンバーが分かっているので、同じようなどんでん返しは使えません。なので、Case2、3では『スティング』と同じように、「ケイパーもの」として、そしてキャラの面白さで見せていきます。具体的に言えば、メンバーと共に相手を騙すためにどのように準備して、成功へと導くのか、という下りを描いていきます。ただ、このケイパーものとしての内容は、作劇上仕方ないのでしょうけど、「しっかりと事前準備をした結果」というよりは、かなり運に頼った展開が多かったり、キャラが勝手な行動をしたりして、結果的には上手くいくのですけど、全体的には偶然に頼りすぎな印象です。特にCase3のシンシアとか、アレは危険すぎる行動だったなぁとか、Case2のアビーも、克服したから良いですが、あそこまで不安定で大丈夫なのかなとは思いました。しかし、キャラ回としては良くまとまっているなと思えるため、Case1とはまた違ったカタルシスがあります。
 そして本作はサプライズにプラスして、Case1毎にメインキャラそれぞれに焦点をあて、深掘りしていく構成をとっています。具体的には、Case1はエダマメ、Case2はアビーで、Case3はシンシアです。そして未だ配信も放送もされていないCase4では、ローランになると思われます。共通しているのは、Case毎に各キャラが自分の人生に1つの区切りをつける話だということです。エダマメは彼の過去から犯罪に走ってしまった過去を清算し、アビーは彼女の戦場でのトラウマと憎しみの克服、そしてシンシアは因縁の相手を騙し、元彼との関係に区切りをつけます。
 
 面白いなと思ったのは、エダマメとシンシアのエピソードです。両者とも、元は善良な「一般市民」であったのが、エダマメは父親が犯罪者だから定職にも就けず、母親が死んでしまったことで真の犯罪者になってしまいます。そしてシンシアは、彼女自身がというより、彼の元彼が生活と若干の承認欲求のために犯罪に走り、人生を棒に振ります。しかし、エダマメも元彼も、彼らがしてきたことが誰かを不幸にしていることを認識し、何とかそれを清算しようとするのです。シンシアはその清算に手を貸した感じです。このキャラ回が積み重ねられるため、見進めるごとにキャラに愛着が湧き、彼ら彼女らの活躍がもっと見たくなるあたりはさすがだなと思います。
 
 主題は「信用詐欺師」であるにもかかわらず、ドラマ的には、このように、「社会からあぶれてしまった人間の物語」なわけです。そして彼ら彼女らが、社会で悪事を以て「信用」を得て、荒稼ぎしている奴らを「騙して」、成敗する。本作にはそのような痛快さがあります。エダマメはまだ「善」の側につきたくてフワフワしている、視聴者に近い存在です。彼の物語はまだはっきり終わってはいませんし、ノーランの物語もまだ描かれていません。本作がどのような終わらせ方をするのか、そして何より、もっと彼らの活躍が見たいので、Case4はよ。
 

【Case4を見て】

 Case3までは楽しんで見ていましたが、Case4を見て、ちょっとどうなんだと思ってしまいました。確かに、話そのものは本作自体が本命を狙うための大仕掛けであり、全ての伏線が一気に回収されるものでした。そして同時に、本作に対して批評的な視線を加えて、本作にあった引っ掛かりを前面に押し出してきます。だから、エダマメの最後の台詞は本筋とは別の意味で痛快でした。
 
 しかし、そこからの処理が問題で、エダマメはやっぱり騙すことに協力してしまうんですよね。表明した怒りはそのままで。これ、父親がしたこととかは何も清算されていないし、エダマメにとっては嫌な話でしかないのではないでしょうか。何か、「良い話」感を出してましたけど、社会的には父親は犯罪者のままですし、母親は(多分真相を知っていたとはいえ)、結局父親の我儘に付き合って死んでいったわけですから。さらに、これまで騙してきた人間達とも仲良くなってるってどういうことだ。仲良くなって一緒にビジネスをしたからって、禍根が消えるわけではないだろう。あそこまでエダマメに言わせるなら、ローラン達に何かしらの報いはあっても良かったんじゃないかな。と、Case4を見て、少しモヤッとしてしまい、評価が下がりました。あ、でも「嫌な話を嫌な話として終わらせる」ということはある意味で誠実な態度ではあるのかな。
 
 

言葉通り「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」【デッド・ドント・ダイ】感想

デッド・ドント・ダイ

 

86点

 

 

 『パターソン』を監督したジム・ジャームッシュ。彼の次作は、何とゾンビ映画。日常をオフビートな笑いを交えて描いてきた彼がゾンビ映画を撮ると聞いたときはビックリしたのですけど、「ジム・ジャームッシュが作るゾンビ映画」は大変興味があったので鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみた結果、本作は紛れもない「ジム・ジャームッシュ映画」でした。「ゾンビ映画」というジャンルに対するリスペクトはあれど、基本的にはジャンル映画のフォーマットと借りてジム・ジャームッシュが遊び倒した作品。それが本作です。

 

 まず、本作の基本的なストーリーを追ってみると、立派な「ゾンビ映画」です。とある村でパニックが広がり、住民全員がゾンビになってしまう。そしてオタクは「ゾンビ映画の定番だ!」とテンションを上げて立て籠もり、警官らは事態を傍観するしかなく、ゾンビを倒しつつ街を回る。そしてラストにはジム・ジャームッシュ監督からの、本当に取ってつけたような「メッセージ」が「観測者」によって語られます。このメッセージも、現代の資本主義への警鐘をしている(ように)見えます。そして本家の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にも似た感じのテーマはあったと思います。

 

 

 ただ、本作は、とにかく「ゆるい」そして、「適当」で、いい加減なのです。都会から来た都会っ子たちは村に来るまで尺を取った割に即効でゾンビに殺されるし、立て籠もったオタクと黒人はあっさりと殺され、差別主義者の白人も差別発言に決着をつける素振りもなく殺されます。そして救世主っぽい感じを出していたティルダ・スウィントンは何をするでもなく、ゾンビを何人か斬り殺した後に何故かUFOで脱出します。彼らから分かる通り、本作は序盤で張られた伏線を全く回収することなく、映画が終わるのです。

 

 しかも本作は、とにかく「ゆるい」映画です。冒頭、「THE DEAD DON’T DIE」がかかったときのビル・マーレイアダム・ドライバーの会話とか、終盤の2人の会話とかもそうですし、最初の犠牲者が発見されたときの3人の繰り返しのギャグもそう。とにかく全編に亘って弛緩した空気が漂っているのです。この点からは、ジム・ジャームッシュがとにかく遊んで撮っているんだなというのが伝わってきますし、彼のこれまでの作品の雰囲気です。

 

 適当だしゆるい作品ですけど、実はジャームッシュなりの世界観が出ています。それはパンフレットでも語られている通り、「世の中の人間は皆ゾンビだよ」ってこと。彼はスマホを見ながら徘徊している人間を見て、「ゾンビみたいだな」と思い、そこから本作のアイディアが生まれたそうです。そして彼はこの世の中と大人には期待してなくて、「悪い結末にしかならない」と思っているのです。そしてそんな世界からは「脱出」するしかないのです。UFOに連れ去られるとか。しかし、彼はどうやら子供には期待しているらしくて、ラストで孤児院から「脱出」させています(彼ら彼女らがどうなったかも描かない。ここも適当)。後は最初から世界に属していない世捨て人くらいですね。この世界で正常なのは。そういう映画なんだと思います。そしてこれは、「ゾンビ映画」っぽく、ジャームッシュ作品でもあります。つまり本作は、「ジム・ジャームッシュが作ったゾンビ映画」として見ると、確かに面白いと思います。

 

 

 ジャームッシュ映画。

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 和製ゾンビ映画

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ハリウッド映画数本分の濃さがある特盛映画【サーホー】感想

 

94点

 

 

 『バーフバリ』2部作で国際的なブレイクを果たしたプラバース。彼の主演最新作です。私は『バーフバリ』は大変楽しく観たのですが、別にプラバースのファンになったわけではありませんでした。それでも何故本作を観たのかと言うと、予告が面白かったから。荒唐無稽なアクションが連続して続き、外連味しかない演出、そしてプラバースのカリスマ的なカッコよさを目の当たりにし、近年のインド映画の出来から、「これは愉快な映画に違いない!」と思い、鑑賞した次第です。ちなみに、緊急事態宣言解除後、初めての映画です。

 

 鑑賞してみると、事前の予想の遥か上をいく荒唐無稽な、しかし圧倒的な熱量と破壊力で我々の度肝を抜く痛快娯楽エンタメ作品でした。

 

 本作を観て圧倒されるのは、何と言ってもアクションです。本作のアクションは普通のアクション映画のスケールを遥かに超えています。序盤こそ普通のアクションにテルグ語映画得意のスローモーションという外連味が乗った感じでした。しかし、ストーリーが進むにつれてアクションが多様になっていきます。というか、ハリウッド超大作のアクションを何本分も盛り盛りにしたようなアクションが連続します。具体的には、アクションのスケールはマイケル・ベイで、やっていることは『ミッション・インポッシブル』とか『マッドマックス』、そしてMCU映画を彷彿とさせるスーパーガジェットなんです。そしてこれらがオリジナルと同じくらいの熱量で展開されます。なので、本作を観ると、映画2,3本分を観たかのような満足度を得ることができます。

 

バーフバリ2 王の凱旋(字幕版)

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 そしてこれらのようなアクションがただ続くのではなく、荒唐無稽なれど撮影とか美術とかCGとかがしっかりしているせいなのか分かりませんが、バカバカしくないのです。きちんとしたリアリティを以て観ることができます。完全に常軌を逸しているにもかかわらず、面白く、素晴らしいのです。

 

 そして本作のストーリーも荒唐無稽で素晴らしい。2転、3転、というか、ほとんど「嘘も方便でしょ!」とでも言わんばかりの超展開の連続なのです。「サーホー」の意味が分かった瞬間、本作の全てが反転します。ここは本当に衝撃的で、私は危うく、映画館で声を出しそうになりました。それくらいビックリしました。伏線は張っていたとはいえ、生半可な映画ではこの反転は「ご都合主義」と受け取られそうなところ、勢いとノリで押し切っていて、それがまた大変素晴らしい。そして最終的な帰結が結局、「王の帰還」である点も、プラバースでしかできない内容で、少し笑ってしまいましたが、同時に体が震えるほど感動しました。いや本当、あのシーンの高揚感は異常。

 

 以上のように、本作は素晴らしい作品でした。決して練り込まれた脚本ではありません。しかし、大盛りのアクションのつるべ打ちを真剣にやっている作品で、しかも悪い奴らも皆やっつけられる痛快娯楽作でした。娯楽作として素晴らしい作品でした。

 

 

 『バーフバリ』2部作。

inosuken.hatenablog.com

inosuken.hatenablog.com

 

 感動路線。

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ブログを開設して3年が経ったという話

はじめに

 皆様。こんばんは。いーちゃんです。いつも私のブログ、「暇人の感想日記」を読んでくださり、ありがとうございます。おかげさまで、当ブログも開設から3年が経ち、4年目を迎えることができました。昨年の記事を書いた頃は「月にアクセス数3000いければいいなぁ」とボンヤリ考えていたのですが、昨年の夏に金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』とともに放送された『透明人間』の影響で、『ちいさな英雄』の記事にアクセスが集中。それ以降はブログへのアクセス数そのものが上昇し、現在は1日に300~600、月だと15000はいけるようになりました。いや本当、ここまで書き続けてきた成果が身を結んだ感じです。

 

 アクセスの傾向としては、映画の記事よりも、アニメの記事へのアクセスが多くなりました。特に毎クールごとのTVアニメですね。「注目記事」に出ている記事を見てもアニメばかりで、映画の感想も書いているブログであることなど忘れてしまうレベルです。しかし、ここまでこのブログが成長したのも皆様のおかげです。本当にありがとうございます。重ね重ね、御礼申し上げます。

 

 さて、今回の記事では、例によってこの1年で印象的な記事を挙げていきたいと思います。昨年までは特に数の指定はしていなかったのですけど、今回は10前後にします。キリがないので。

 

 

『凪待ち』 2019年8月14日

inosuken.hatenablog.com

  まずは『凪待ち』です。何故この記事なのかと言うと、香取慎吾さん主演だからということもあり、Twitter上でめちゃくちゃバズったのです。そしてそのおかげでアクセス数が上がりました。改めて彼の人気の高さを思い知りました。

 

『ジョーカー』 2019年10月13日

inosuken.hatenablog.com

  2本目は『ジョーカー』。私にとっては素晴らしい映画でした。社会の最下層に生きる男が、その鬱憤を爆発させるという大問題作。映画そのもののクオリティはもちろんですが、アーサーが感じていたことは、私が感じていたことでもあり、そこに自分自身の危うさを感じさせてしまう作品でした。衝撃度でランクイン。

 

「学ぶことの楽しさ」を思い出させてくれる漫画「ほしとんで」の感想 2019年11月6日

inosuken.hatenablog.com

 「ほしとんで」の感想記事です。何故この記事なのかといえば、はてなブログのお題に参加し、それが週刊はてなブログで取り上げられたのです。かなりビックリしましたが、同時に嬉しくもありました。

 

『羅小黒戦記』 2019年12月7日

inosuken.hatenablog.com

  中国製アクションアニメ。「NARUTO」を彷彿とさせるカッコいいアクションの連続。昨年の大発見作品で、3週間前にチケットを買って観に行ったのが良い思い出。早くディスク出ないかな。

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。⑭』 2019年12月14日 

inosuken.hatenablog.com

  「俺ガイル」最終巻の感想記事。これまでずっと付き合ってきた作品をリアルタイムで完結を迎えるのは久しぶりでした。本作はラノベにおける「ラブコメ」を脱構築した作品で、それについての私見を書けたという意味で思い出深い記事。

 

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』 2019年12月27日

inosuken.hatenablog.com

  私の怒りが爆発した記事。今でも『スター・ウォーズ』をイチ「商品」に貶めたディズニーのことは許せない。

 

『2010年TVアニメ各年のベスト作品&ベスト10』 2020年3月27日

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  以前からやりたかった、2010年代のTVアニメのランキング記事。2010年代の私のアニメ歴を振り返ることも出来、書いている間は楽しかったです。こうしてランキングを作って、簡単な感想を書いてみると、私の好みも浮き上がってきたようです。

 

『映像研には手を出すな!』 2020年3月29日

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  今年ベストアニメの筆頭作品。そして私の「監督:湯浅政明」という理想が現実になった作品でもある。内容が素晴らしすぎたので載せます。

 

 『魔術師オーフェンはぐれ旅』 2020年4月18日

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  「往年の名作リメイク作品」の1つ。この手の作品は、きちんと作ればファンもついてくるのに、ダメな出来になってしまい、新規のファンから「やっぱ古いのはダメだな」と言われてしまうことがままあります。本作もそれです。この手の作品は誰かが「ダメだ」と言わないとファンは悶々とするだろうと思い、「言わなければ」と謎の使命感が芽生え、書き上げた記事。多くのファンの方々から賛同の意見をいただき、SNS上で拡散されました。

 

イエスタデイをうたって』 2020年7月18日

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  最後は最近の記事を。この記事を選んだのは、初めて他の方のブログで引用されたから。自分の記事を肯定的に引用していただけるのはとても嬉しかったのですが、同時に少し気恥ずかしくもありました。

 

 

おわりに

 はじめにでも書きましたが、当ブログは開設より3年が経ち、これから4年目を迎えます。それも読んでくださっている皆様のおかげです。これからも、当ブログを、何卒よろしくお願いいたします。

洗練されたロマコメ【ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから】感想

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから

 

89点

 

 

 NETFLIXオリジナル映画。緊急事態宣言発令時に鑑賞。理由は単純で、「話題になってたから」。監督はアリス・ウー。何とデビュー作『素顔の私を見つめて・・・』から15年振りの監督作のよう。てっきり新人監督だと思ってました。

 

 本作のジャンルはロマンティック・コメディに該当すると思います。ストーリーは非常にオーソドックス。とある女の子に片想いしている子がいて、その子が別のアメフト男子に協力してラブレターを代筆するというもの。ベタですらあります。どうやら大元となった古典的な劇があるそうです。しかし、本作はそれでも素晴らしく面白い作品でした。

 

 まず、本作はオーソドックスなストーリーを基にしつつ、現代的に内容を変化させています。主人公のエリーが片想いしているのは学年のアイドル的存在の美少女アスター、つまりエリーはレズビアンなわけです。昔だったら主人公と代筆を頼む人間は同性だったと思うし、代筆していた側が好きになって三角関係がこじれるとかあると思うのですけど、本作はLGBTQの要素を入れて、その上で古典的な代筆モノをやっているのです。

 

 

 そして、本作における関係性も「恋人」とか1つに決めつけず、もっと大きな意味合いの関係性として描いていました。それは冒頭の「愛とは自分の片割れを見つけるもの」という考えから、関係性を「愛」という言葉ではなく、名前が付けられない大きな関係性として描いている点が良いなと思いました。また、ポールに良いところが見つかっても、エリーは別に(恋愛的な意味で)好きになるでもなく、ずっと対等な関係として接していたのも現代的だなぁと思います。

 

 さらに、本作は撮影が面白くて、冒頭の「片割れを探す」という台詞からか、前半は左右対称な、シンメトリックな構図が多かった印象です。また、編集も良くて、中盤の3人が教会にいるシーンでの、エリートアスターの視線が合ったと思わせておいて実は違っていたという編集は、エリーが感じている切なさを感じさせる素晴らしいシーンでした。

 

 他にも、本作の中にある膨大な引用、そしてクスッと笑えるコメディセンスなど、全てが行き届いている作品で、非常に品の良い作品だったと思います。

 

 

ロマコメ。

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 大人のマリッジストーリー。

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