暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「普通」に囚われるな【メランコリック】感想

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85点

 

 

 田中征璽、皆川暢二、磯崎義知の3人が結成した製作チーム、OneGooseにより製作されたインディーズ映画。昨年の『カメ止め』と同じく監督、俳優共に知名度0の方々が集まって製作されたものの、東京国際映画祭では絶賛され、スプラッシュ部門監督賞を受賞しています。そんな効果もあったのか、公開されるやじわじわと話題になっていき、現在でもロングラン上映中。そんな作品ならばとりあえず観ておきたくなるのが人情なので、近場で公開されたのを機に鑑賞してきました。

 

 鑑賞してみて驚いたのが本作のクオリティの高さ。無名の方が作っているのですが、シネコンで上映されている作品と比べても遜色が無いどころか、比較する作品によっては、こちらの方がかなり出来が良いのです。普通に楽しんで観ることが出来ました。

 

カメラを止めるな!  [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: バップ
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 本作の最大の白眉は、「銭湯で暗殺と死体の処理を引き受けている」という、今までありそうでなかった斬新な設定です。確かに銭湯ならば死体の血も洗い流せるし、遺体の処理も簡単です。さらにこの暗殺シーンも素晴らしく、磯崎さんが切れのいい動きを見せてくれます。また、この磯崎を始めとして、本作は『カメらを止めるな!』と同じく、役者が皆ハマり役で、実在感が素晴らしかったです。

 

 加えて、本作は空間の使い方がとても上手いなと思いました。本作では「日常と非日常」が非常に大切な作品で、銭湯はこれが同居している、一種境界のような場所です。そして和彦は松本とは違い、「日常側」の人間として「非日常側」に中々入りません。それが彼と非日常の絶対的な隔たりなのです。しかし、ラストで、遂にその「境界」を越えて「非日常」に入り込み、「常識」から解放されるのです。このように本作は、日常と非日常の区別を空間を巧みに利用してやっています。

 

 また、本作は東大卒フリーター(ほぼニート)の成長物語としても面白いです。理由は不明ながら、主人公は東大を卒業していながら定職に就いていません。私も大学を卒業してからしばらくフリーターをやっていたので、主人公の境遇には大変共感しました。両親との気まずい会話とか、同窓会に行ったときの気まずさとか、面接のときに聞かれる「何で就職しなかったの?」っていう「察しろよ!」としか言えない質問とかです。そんな主人公が初めて職に就き、仕事で得る満足感、ライバルへの嫉妬を経験し、人として成長していくのです。最後には他人の助けを素直に借りられるようになった彼の姿には、結構自分を投影して観てしまいました。

 

 

 本作のタイトルは「メランコリック」です。意味は「憂鬱」です。本作は全体的に飄々としており、「憂鬱」な重苦しい感じはありません。では何が憂鬱なのかというと、それは登場人物なのかなと思います。本作の登場人物は、主人公を始め、「生き方」に縛られています。主人公は「東大である」ために「東大の生き方」を求められ、苦労しています。私もそうでした。東大ではありませんでしたが、就職できなかったことで周囲から「それでどうするの?」とか言われ、自分が「普通でない」という劣等感を覚えました。フリーターだった時期は本当に将来が不安で、「憂鬱」でした。だからこそ、ラストで「常識」の範疇である考えから解き放たれ、「幸せ」を見つけた姿にグッときました。ただ、そこで和彦が言ってた「幸せ」が『男はつらいよ 寅次郎物語』での寅さんの台詞とほとんど一緒なのにはビックリしましたね。

 

 

昨年、低予算ながらも大ヒットを記録した作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくインディーズ映画。

inosuken.hatenablog.com