暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

モンキー・パンチ先生の悲願が達成されただけでも価値がある【ルパン三世 THE FIRST】感想

f:id:inosuken:20191214145833j:plain

 

47点

 

 

 今年の4月に逝去された、モンキー・パンチ先生原作による説明不要の国民的アニメ「ルパン三世」。本作は『ルパン三世』単独作としては1996年の『DEAD OR ALIVE』以来、実に23年振りとなる劇場版作品です。本作のトピックについてはそれだけではなく、モンキー・パンチ先生の悲願であった3DCG作品として発表した点。監督には『ALWAYS 三丁目の夕日』や『STAND BY ME ドラえもん』で、現在日本映画をリードするヒットメーカー、山崎貴を迎えています。

 

 私の「ルパン三世」に対する思い入れはまぁそこそこであり、だいたいの作品は見ています。今でも新作のTVシリーズ、SPが放送されれば見るくらいにはファンです。現在はTVSPは相変わらずの出来なのですが(直近の「プリズン・オブ・ザ・パスト」も本当に酷かった)、2015年と2018年に放送されたTVシリーズ2作は素晴らしい出来でした。そこに来て全編3DCGで制作された本作の公開です。TVシリーズも素晴らしかったし、この手の長篇をやるならばTVSPでいいはず。そんな中で映画にするくらいなのだから、ひょっとしたらひょっとするかも、と思い鑑賞しました。

 

ALWAYS 三丁目の夕日

ALWAYS 三丁目の夕日

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 鑑賞してみれば、本作は良くも悪くもパブリックイメージ通りの『ルパン三世』でした。ストーリーは『カリオストロの城』を臆面もなく模倣し、全体的なトーンはパブリックイメージであるPartⅡです。それは別にかまいません。「ルパン三世」という作品を東宝のブロックバスター作品として世に送り出す以上、このスタイルになるのは致し方ないでしょうし、私だってこのルパンは好きです。それに「渋いルパン」ならば『LUPIN THE ⅢRD』シリーズがあるため、それを観ればいいだけの話です。

 

 ちなみに、この点が功を奏したのか、私が観た回は劇場には親子連れが多く、私の後ろに座っていた子どももだいぶ楽しんでいました。「ルパン三世」がまだまだファミリー向けコンテンツとして現役なのだと知れただけでも収穫でした。

 

 ただ、私個人の感想を書くと、良い点もいくつかあるも、全体としては非常に大きな不満が残る作品となってしまいました。

 

 まずは良い点から書きます。OPは素晴らしかったです。そして、全体的にはアクションまわりが中々良かったです。先日の金曜ロードSHOWにて公開されたルパンを逃がすためのシークエンスです。次元と五エ門の強みを存分に活かしたアニメらしいケレン味に溢れたものでしたし、近年のTVSPでもなかなか見られなかった迫力もあり、素直に感心し、楽しめました。また、中盤の「第三の試練」におけるルパンの動きと、その後にやるティザーポスターのポーズもカッコよかったです。後は最低限の話になりますが、ルパンがきちんと頭を使って行動している点。一時期は勢いだけの男だったので、この辺をきちんとやっていたのも良かったです。要はレギュラーキャラクター周りは問題なかったってことです。

 


映画『ルパン三世 THE FIRST』本編オープニング【大ヒット上映中】

 

 しかし、本作には脚本に突っ込みどころが多すぎです。山崎貴監督はインタビューで自身が「ルパン好き」と公言しており、「ルパンのお約束を大事にして」脚本作りに臨んだと答えています。そしてその成果か、ストーリーはきちんと「王道」な「ルパン三世」になっていたと思います。問題なのは、その「王道」な展開にするための話の組み立て方が下手くそすぎるということです。

 

 突っ込みだせばキリがないのですが、まずは冒頭です。レティシアがルパンの正体を見破り、ルパンが一時退散するってやつ。劇中であれほどスリテクを見せつけたのに、あそこで諦めますかね。しかもその後にしてもレティシアが屋上にいると分かった理由も不明だし。次は敵の飛行艇から脱出する下り。不二子は別にいいです。でも何で次元と五エ門はルパンがあそこにいるって分かったのでしょうか。特に説明も無いので分かりませんでした。さらに銭形との「共闘」ですが、正直、あまり意味がありません。銭形が活躍したのって、終盤のアレくらいですし。しかもその下りも結末をまず見せて、その後にルパンファミリー+銭形のほんのちょっぴりだけのアクションだけで終わらせるとか、見せ方的にもどうなんだと。というか、こんなことしてるくらいならレティシアを助けに行けよ。別に彼女がカギってわけでもないんだから、殺されてたかもしれないんだぞ。

 

 最後に、一番のひっくり返しであった「レティシアブレッソンの孫でした」です。私の見間違いでなければ、あのシーンは「衝撃の真実が発覚」という風になっていました。しかし、そんなこと、冒頭の映像を観れば誰だって分かります。なのであのシーンは、「え?知らなかったの?」と違う意味でビックリしました。正直言ってこれだけでは足らないのですが、1つ1つ書いていたら長文になるので、この辺で終わります。

 

LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘 通常版 [Blu-ray]

LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘 通常版 [Blu-ray]

 

 

 でも、本作はこれだけに終わらず、全体的に極めて「説明的」なのです。例えば、割と重要な点だと思われるレティシアとルパンの縁を「ひょっとしたら俺たちが出会うのも、爺様たちの計画の1つだったのかもなぁ」だけで済まされてしまいます。なので、レティシアがいる意味にも説得力が生まれません。映画なんだからそこは映像で説明しなよ。

 

 さらに、ゲストキャラクターにも問題ありです。まずはレティシア。正直、何がしたいんだかよく分からないヒロインでした。「考古学を学びたい」って言ってるけど、今は正規で何をやっているのか分からないし、「ルパンのヒロイン」以外の存在理由がありません。

 

 そして、特に酷いのがランベールです。おそらく山崎貴監督は「ブレッソンにコンプレックスを持ち、自分の過去の栄光にすがることしかできない男。レティシアを拾ったのは道具として利用するためでしかなかったけど次第に情がわいてしまった」という奥行きがあるキャラとして描きたかったのだと思います。でも、その描き方が下手すぎ。「良い人」のときはレティシアを心配し、「悪人」のときはレティシアを「道具」とか言いきってしまいます。彼はそのシーン毎に「そういうキャラ」としてしか描かれていないため、奥行きのあるキャラというよりは、ただの情緒不安定な人にしか見えませんでした。しかも彼が乱心する下りも、得意げになってるけどゲラルトは銃を持っています。ランベールしか兵器を操作できないなら、乱心も分かります。でも、後にゲラルトも普通に兵器を操作しているので、余計に疑問がわきます。「銃で撃たれたら終わりじゃん」って。

 

 そしてゲラルトといえば、彼はランベール以上に「型どおり」なキャラで、「悪役」しかアイデンティティがない薄っぺらな存在です。しかも小物っていう。だからカタルシスがない。後、作品全体のメッセージについても、「ああそうですか」くらいにしか思えませんでした。というか、『天空の城ラピュタ』の非常に浅いパクリじゃん。

 

天空の城ラピュタ [Blu-ray]

天空の城ラピュタ [Blu-ray]

 

 

 要素だけ見れば面白くなりそうなのに、何故こうまで下手くそな作りになったのか、甚だ疑問です。パンフレットを読んだら、何と12稿まで書き直したそう。12回も書き直してこれかよ。つまり本作は、脚本は穴だらけで、キャラは薄っぺらなのです。もう少し何とかならなかったのか。山崎監督が映画ファンから敬遠されている理由が分かりました。

 

 最後に、3DCGについて。割と好評のようですが、『トイ・ストーリー4』などディズニー・ピクサー作品がバンバン公開されている中でこのクオリティを見せられても、「やっぱり、頑張ってもこのレベルなんだなぁ」としか思えませんでした(比べるのが酷だってのは分かります)。動きが固く、「こんぴゅーたーで作ってるんだなぁ」と分かってしまい、実在感があまりありません。これでストーリーが面白ければいいのですけど、上述の通りなので。

 

 以上のように書きましたが、ぴあの満足度ランキングでも1位を獲得したそうですし、劇場を出るときも「面白かったね」という声が聞こえたので、これでいいのだと思います。何より、モンキー・パンチ先生の悲願が達成されたという点だけでも、本作には価値があります。そう思うことにしました。

 

 

『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの感想です。

inosuken.hatenablog.com

inosuken.hatenablog.com

 

 PARTⅤの感想です。素晴らしかった。

inosuken.hatenablog.com