53点
三谷幸喜監督最新作。私は三谷監督の作品は映画を本格的に好きになる前からよく観ていて、おかげで評判が最悪だった『ギャラクシー街道』以外は観ています。脚本を担当したTVドラマも新作をやれば必ず見るくらいにはファンです。ただ、映画をよく観るようになって知ってビックリしたのですが、この方の監督作は映画ファンからは相当酷評されている模様。全方位的に評判が悪い『ギャラクシー街道』はともかく、私が割と面白いと思った『清須会議』とか『ステキな金縛り』もそうなのですから驚きですよ。果たして映画をよく観るようになった私は彼の作品をどう評価するのか、自分でも興味があったので鑑賞しました。
鑑賞してみると、なるほどと思いました。確かに、これは色々言われるのも納得の作品だなと。密室劇、長回、役者の演技と、見所が無いわけではないのです。しかし、如何せん全体的に笑いがTVドラマ的で、しかもストーリーも全体的に緩み切っているのです。
まず良い点を書くと、本作は、題材が面白いと感じました。政治家がよく言う「記憶にございません」という名文句をそのまま使って、「記憶を失くした総理大臣」を主人公にするという点です。記憶を失くしたときから始まり、記憶を失う前の自分をTVで見ることで、客観的に以前の自分がどれほど酷いかが分かるという冒頭が秀逸でした。そして記憶を失くすことで、彼が以前に行った悪行について「何でこんなことしたの?」と至極最もな疑問にしてぶつけるのも、現政権とやってることが被っているため、中々上手いなぁと思います。
そしてこの「記憶を失くす」ことが政治家として「生まれ変わる」事とイコールになっています。覚悟を持って、しっかりと勉強をし、志を持てば、「理想の政治はできるよ」というメッセージにしているのです。本作で語られる政治や政策は、本当に今の日本に必要な政策であるし、最後の戦術も、「しっかりと謝る」であるため、三谷監督の現政権への思いが滲み出ている気がします。
また、役者の演技もとても良かったです。芸達者の方々が揃っており、彼らが必死の形相で可笑しなことをしているシーンのいくつかは笑いを誘います。個人的なお気に入りは吉田羊と中井貴一のシーンと、同じく中井貴一と梶原善の車内での、「そんなの必要なんですか?」→「みんなそう思っているよ!」のやり取り。
ここまでは良いです。しかし問題は、最初にも触れましたが、色々と緩い点。笑いはいくつかのシーンを除けは、役者が非常に分かりやすいおどけ方をして笑わせるものですし、ストーリーは「そんな上手くいくかい!」の連続。コメディとはいえ政治劇なので、もう少しだけシビアにしても良かったのではないかと思います。
ただ、ストーリーの緩さについては、本作があまりにもひどい現政権への揶揄であり、その反対をやればこんなにも良い政治ができるのに、というメッセージを内包していることを考えれば少しは許容できます。でも、総理が元々良い人だったっていうあのオチはもう少し捻った方がいいような気がしましたけどね。勉強して、知識をつけたからこそ変わった、みたいな感じにした方が良かったと思う。
しかし、それ以上に本作に対して鼻白んでしまったのは、現実よりも本作の方がマシだからです。何故なら、ひどいことをしているから、政権支持率が2.3%まで下がり、「歴代で最低の総理」と堂々と言われていて、国民もそれを共有しているから。現実はどうですか。消費税増税、法案強行採決、法人税の軽減、日米FTA、モリ・カケ問題、閣僚の性差別発言、公文書の破棄、公費の私費化etc,etc、書いてて嫌になってきた、これだけのことをやってるのに、未だに国民の40%超が現政権を支持しているのです。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもんだ。このため、劇中でいくら「ひどい、ひどい、」と言われても、「まぁ、現実よりましだしなぁ」としか思えないし、そこで語られている「理想の姿」も、「そんなこと起こらないんだよなぁ」と思ってしまいます。ハッキリ言って心が汚れている。
ただ、三谷幸喜のような、劇場で大規模上映をかけられる監督が本作のような作品を発表したというのはとても重要ですし、語られていることは理想的だけど、とても大切です。なので、この点数とします。
政権批判映画。言いたいことはある。
アメリカの政治風刺映画。出来が違う。